アメトリンと白日夢

朔灯まい

文字の大きさ
上 下
5 / 12

5.意思疎通

しおりを挟む
 意思疎通ができる鉱石何て聞いた事がなかったが、目の前にいるそれは紛れもなく俺と会話ができていた。

「…つまり何なわけ?」
「キイテタ?」

 床の上でピカピカと光る鉱石はどこか俺を馬鹿にしたような物言いでイラっとする。

「ダカラ、****」
「…」

 さっきから同じ答えを言っているみたいだが、何度聞いても肝心の部分は何と言っているか全く聞き取れない。

「…ハァ」
「石ころのくせに一丁前にため息つきやがって」
「イシコロ、チガウ、****」
「…」

 さっきから俺を煽っているようにしか思えないこいつの口を今すぐ塞ぎたいのに口なんてないから塞ぎようがない。

「まじで何なの」
「****」
「…いや、もういい。どうせ聞いても分からん」

 分かったことと言えば、これは夢じゃなくて現実ってこと。
 俺の目の前には喋る鉱石が確かに存在している。

「お前さ…」
「ヤダ」
「は?」

 一向に進まない会話に今度は何なんだと尋ねれば、

「オマエ、チガウヨ」
「?」
「ナマエ」

 え、名前まであんの?まじでこの鉱石何なわけ?思わず言いかけて、慌ててそれを飲み込んだ。
 危ない危ない、また話が振り出しに戻るところだった。

「名前、何なの」
「アメトリン」
「ふぅん、アメトリンねえ」

 自らをそう名乗る目の前の鉱石。それが確かならば俺の知り得る限り、アメトリンと名が付く鉱石の存在を俺は知らない。
 いくら成果をあげられていないとはいえ、採掘掘りを始めて十年は経つ。
 その間に採掘や鉱石に関する知識は俺なりに身に付けたと思う。

「第一ウィステリアも分かってなかったしなぁ…」
「ネェ」

 仮に寝ぼけていたとしても、やつだって子供の頃から親父さんの店の手伝いをこなして、今じゃその店を継いでるくらいだ。
 俺以上に知識はあるだろうに、あいつも直ぐにこれが何なのか判別できていなかった。

「また明日行ってみるか」
「ネェ」
「ん?」

 そこでようやく俺はアメトリンが話しかけている事に気付いた。

「ムシ、ヤダ」
「はいはい、んで、何?」
「…」
「?」

 何かと答えれば、黙ってしまった。
 人でも動物でもないこの鉱石にどう反応を示せばいいのか考えていると、

「ナマエ」
「は?」
「ナマエ」

 同じ単語を繰り返すアメトリン。今度は何?

「名前?」
「ナマエ」
「……もしかして俺の名前?」
「ソウ」

 何を言い出すかと思えば、俺の名前を聞いてきていた。突拍子もない鉱石だな。

「シショク」
「シショク…」

 鉱石と喋って、鉱石とお互いに名乗り合って…。
 ここまでくると、もはや目の前の鉱石はそういうものだと認めざるをえないわけで、

「なあ、アメトリン。いくつか質問があるんだけど」
「ナニ?」
「お前の周りに散らばってたのって、お前の欠片?」

 こいつが元になってる謎はこいつ自身から直接聞き出そうと俺は身を乗り出した。

「カケラ?」
「あぁ、これなんだけど」

 ウィステリアには渡さなかった分の残りの欠片を袋から取り出して、こいつの前に置く。
 目がないけど分かるのか?…まあ、口もないけど話してるし分かるか。

「ザンガイ」

 案の定その欠片が何なのか分かった様子だが、ザンガイ??

「ん?どういうことだ?」
「…バーカ」
「は???」

 何で今俺馬鹿って言われてんの?え?理解しなかった俺が悪いのか?

「アーホ」
「…」

 だめだ、落ち着け俺。相手は恐らくレファラと同じくらいのガキだ。
 三十前の男が子供相手にムキになるな。冷静に、冷静に対応しろ。それが大人だ…

「テイノウ」
「んだとこの、クソ石ころ!!粉々に叩き割るぞ!!!」
「ムゥ」
「……可愛く言ったって許さんからな!!」

 表情も何も分からないはずなのに、そこから発する音は何ともいじらしくて、少し心がぐらついた。

「…ダッピ」
「ぁあ?!んな…っぴっつって俺が許すと思ってんのかよ!!」
「ヌケガラ」
「だから!!!……ん?抜け殻?」

 ザンガイ、ダッピ、ヌケガラ
 そこでようやく俺はこいつが何を言わんとしているのか何と無く理解した。
 恐らくこの鉱石から剥がれ落ちた残骸が欠片ということだ。

「この欠片はお前の体の一部が剥がれたってこと?」
「ソウ」
「脱皮って…俺の中の鉱石の概念が覆る…」

 理解したが理解し難い、そんな事実に頭を抱える俺にアメトリンは、

「ミッカ」
「?」

 またしても何を言っているか一瞬分からなかったが、アメトリンは俺をいじるのでは無く言葉を続ける。

「ダッピ」
「…三日に一回欠片が剥がれ落ちるって事?」
「ソウ」 

 何故だか目の前の鉱石が誇らしげに言っているように感じた。
 
しおりを挟む

処理中です...