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神隠しの森編

(209)誓い

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~イアン目線~


「ジャック」
「…………なんだよ」


 地下の牢を離れた俺は、父さんに言われた通りジャックと話すことにした。

 それで早歩きで探せば、少し離れたところにジャックが立っていた。

 だから話しかけたが…………やはりと言うべきか嫌そうな表情を浮かべられた。

 眉間にしわを寄せて、こっちを睨むジャック。


「俺は、お前と仲良くなりたい」
「…………別に、仲良くなる必要ないだろ」
「そうだな、お前にとっては俺は嫌いな存在だろうし」


 俺の言葉を聞いたジャックは、道端に落ちているゴミを見るような目でそう言った。

 …………ショックなんて、受けていないからな。
 ちょっと、しょんぼりしそうになったが。

 俺がそう思いながらも言えば、ジャックは睨んでいる表情から驚いた表情に変わった。


「…………なんか、お前変わった?」
「記憶を取り戻しただけだ」
「…………いや、そんなサラッと言うことじゃないだろ」
「それでだ」
「聞けよ」


 記憶が戻ったことを言えば、驚きの表情のまま何か言われたが今は置いておくことにした。

 とにかく、本題に入らなければいけない。
 正直、聞くことが物凄く怖い。

 嫌われている自覚はあるが、何故嫌われているのかわからない。
 だがジャック本人に聞かなければ、俺には自分のどこが悪いのかもわからない。

 …………よし、覚悟はできたぞ。


「お前は、俺の何が嫌いだ?」
「…………判断が遅いところと、時々変な答えが出てくるところ」
「判断が遅いのは、騎士としても致命傷だな。善処する。変な答えに関しては、正直自覚がない。できれば、教えてほしい」
「…………マジで、なんなんだよお前」


 俺が聞けば、渋々といった雰囲気でジャックが教えてくれた。

 …………俺の弟がこんなにもいい子だ。

 そう思いながらもジャックに言われた部分を忘れないようにメモをすれば、疲れた声音で呆れた表情のジャックに見られた。

 …………酷くないか?
 俺は、お兄ちゃんらしくしようと思って改善しようとしているんだが。


「だいたい、そもそも仲良くなりたいってなんなんだよ。お前にとっては、俺はお前の母親を殺した女の息子だぞ」
「だから?」
「いや、だからって」
「母親は母親だ」


 おかしなものを見るような目で見るジャックにそう言えば、ジャックは目を見開いた。

 そもそも、ジャックがなぜ自分の母親のことを強調するんだ?

 確かに、あの化け物のような女はジャックの実の母だ。
 でも、母親として愛されたことはなかったらしい。

 子供を愛することも、また親としての役目なんだと。
 昔、キキョウさんが言っていた言葉だ。

 なら、あの化け物のような女は母親としてお仕事を放棄しているようなものだ。
 職務放棄など、ロルフさんが聞けば怒り狂うだろうな。

 そもそも、俺にとってはジャックは俺の弟で誇り高き獣人騎士団の騎士だ。

 あんな化け物のような女の息子として見たことなんて一度もない。


「俺は俺、あんたはあんただ。あんたは俺を嫌っているかもしれないけど、俺はあんたの兄になりたい。だから仲良くなれるように頑張るし、悪いところも直す」
「…………なんか、意味わかんないけど」


 俺がそう言えば、ジャックは初めて俺の前で笑ってくれた。
 どこか困ったような感じだが、それでも俺にとっては初めて弟が俺に見せてくれた笑顔だった。

 そう思っていれば、胸がポカポカと温かくなる。
 …………記憶を失っている時はわからなかったが、これが『嬉しい』と言う感情なんだろうな。

 あ、でもジャックに忠告しなければいけないことがあった。











「あと」
「あ?」
「俺は、サーヤのことを女として好きだ。いくら弟と言えど、渡す気はないからな」
「マジで、お前そういうところだぞ!?」


 俺の言葉に叫ぶジャック。

 その後に本人から聞いた話だが、ジャックは彼女のことを妹のような存在として見ているらしい。

 …………ん?
 なら、サーヤも俺の妹になるのか?










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