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神隠しの森編

(198)切り裂きジャックの処遇③

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~シヴァ目線~


 第一執務室に戻った俺達は、しばらくの間何も話すことができなかった。

 それもそうだろう。
 切り裂きジャックは、イアンの父親でもあった。

 俺やアル、セレスやノーヴァたちにとってはイアンとジャックの意外な関係性に声を出すことはできなかった。
 何しろ、毎回合同鍛練のたびにわちゃわちゃやっている二人を見ていればな。

 キキョウ団長は、どこか悲し気な表情を浮かべている。
 ロルフ副団長はと言えば、自分を責めるように眉根を顰めている。

 …………そういえば、イアンを保護したのは確かロルフ副団長だったらしいな。
 なら、余計に精神的にキツイだろう。


「それにしても…………驚きの事実ですね」
「そうだね」


 アルがこの雰囲気をなんとかするためなのかそう言い、キキョウ団長も困った表情を浮かべながらそう言った。


「ああ…………ということは、あいつらは異母兄弟になるのか?」
「あいつら?」
「イアンとジャックですよ。ジャックは、切り裂きジャック捕らわれている間に作られた子供です。おおかた、ジャックの存在を使って切り裂きジャックを縛ろうとでも考えていたのではないでしょうか」


 俺が言った瞬間ロルフ副団長に聞かれ、アルが答えた瞬間ロルフ副団長から怒気が漏れ出る。

 …………まあ、気持ちもわからなくはない。
 子供を道具としか見ていない奴らの、糞みたいな目線でのとらえ方だからな。


「…………子供をなんだと」
「ああいう自分勝手な者たちは、本当に自分のことしか考えていないのですよ。言っても無駄です。怒れば起こるほど、無駄な労力を消耗するだけですから」


 目をギラギラさせ、怒りに震えるロルフ副団長。

 今現在、サーヤと距離を測りかねているこの男は顔に似合わず子供が大好きな男だ。
 竜人族では子供が少ないのも相まって、ジャックの誕生の理由に怒りを覚えているのだろう。

 俺としては、非常に複雑だ。

 どんな理由があろうと、ジャックの誕生は嬉しいものだ。
 過去はいろいろと精神的にキツイが、それでもあいつには『生まれて来てくれてありがとう』と笑顔で言える。

 だが、異母兄であるイアンにとってはどうなんだろうな。

 記憶がないとはいえ、あいつにとっては大切な母を殺した女の子供。
 …………憎しみの対象として見てもおかしくない。

 今まで成長に必要だから関わらせていたキキョウ団長も、そこが心配の部分だろう。
 この竜人は、記憶がなくどこか人形めいた部分のあるイアンを心配していた。

 だからこそ過保護な目線ではなく、年下でありあまりいい関係とは言えないジャックと関わらせていた。
 時には相性の悪い相手とも付き合わなければいけない。

 それを学ばせるために。
 …………まあ見てる感じだと、イアン本人はジャックのことをどう反応すればいいのかわからなかったみたいだが。


「さて切り裂きジャックの処遇だけど、その殺人を犯した女を死刑にした後に死刑となっているのかい?」
「ああ。切り裂きジャックにもまた、死刑制度を受ける権利と義務がある。被害者の権利として、加害者の義務としてな」


 キキョウ団長の言葉に、俺は答える。

 背景はどうであれ、切り裂きジャックが犯した物は犯罪。
 それも、最も最低で卑劣で罰の重い『命を奪う』という行為。

 奴の死刑を求める声は、非常に多い。

 それもそうだ。
 アルが切り裂きジャックに聞かせた被害者の声は、ほんの一部。

 中には、騎士団に捕まることを覚悟の上でわざわざ牢に侵入してでも復讐しようとした者も何人もいた。
 その者には、死刑の参加権を渡して帰したが。
 正直、死刑の参加権も身内だけでなく関係者にも与えればいいと思うんだがな。

 …………まあ、人数的に無理があるんだろうが。

 サーヤが公開処刑(公開私刑とも言うか)したことで、ジャックに対しては同情の声や心の傷を心配する声がほとんどだ。

 だが、背景をしっかりと公開したとしても被害者たちの怒りは収まらないだろう。


「それなら、死刑をし終わった後の女の身柄を渡してくれないかい? その女を、こちらの国でまた処刑する」
「面倒じゃないか?」
「面倒というよりは、プライドかな。わが国で殺人を犯した者を逃がすわけにはいかない。例え、逃げる先が地獄以外になかろうとね」
「…………それでいいと思うぞ」


 物凄く恐ろしい笑顔で言うキキョウ団長の言葉に、俺は内心『女、いろいろと終わったな』と思った。
 まあ、それでもキキョウ団長をいさめる気はないが。

 何しろ、ジャックにいらない心の傷を植え付けた女だからな。

 私怨だって?
 確かに、私怨だな。

 だがあの女の存在の方が憎いというものも、一定数この国には存在するということだけを伝えておく。


 それに死刑を執行するのも、断罪するのも俺達ではない。

 だからこそ、俺は止めないだけだ。


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