上 下
113 / 277
交流編

(111)シヴァの過去

しおりを挟む
~紗彩目線~


 おもいきり泣いた私は、現在ラーグさんにゴシゴシと濡れタオルで顔を拭かれている。


「こんなものか。…………断るにしても受けるにしても、団長と話す必要があると思うぞ」
「そうですよね…………第一執務室にいるでしょうか?」
「…………どうやら、本人がお迎えに来たようだぞ」


 ゴシゴシと拭われたタオルが離れ、視界が明るくなる。
 ラーグさんは、私の鼻水や涙で汚れたタオルを洗いながら言った。

 まあ、確かにシヴァさんに言う必要があるだろう。

 まだ第一執務室で話し合いをしているのだろうかと思い言えば、ラーグさんが入り口の扉を見ながら言った。
 どういう意味だと思い見れば、扉を開けたシヴァさんと目が合った。

 …………全く気付かなかった。


「サーヤ」
「シヴァさん」
「話をするのなら出て行ってもらえると嬉しい。さすがに、団長までいたら邪魔になる」


 シヴァさんを見ていると、ラーグさんにジトリと睨まれながら言われてしまった。
 ラーグさんに言われた通り、厨房を出てシヴァさんと廊下を歩く。
 窓の外を見れば、空は少し赤くなっていた。

 …………もう、そろそろ夕方か。

 そう思ってると、シヴァさんに話しかけられた。


「…………お前はどうしたい?」
「…………私は、城で働きたいとは思いません」
「そうか…………保護者の件だが、お前さえよければ俺でもいいだろうか?」
「…………いいんですか? その……ご迷惑になりますし」
「別に、迷惑じゃない…………ただ聞いてほしいことがある」


 シヴァさんの言葉を聞いて、少し意外だと思った。

 少なくとも、彼は確か私の保護者になることを嫌がっていたはずだ。
 雰囲気的にだが。

 そう思っていると、シヴァさんが真剣な表情を浮かべて私を見た。


「知っていると思うが、俺はハーフだ。狼の獣人と吸血鬼の。お袋と俺の立場は悪かった。お袋は、いつもあいつに取り入った尻g……まあ侮辱の言葉だな。俺は、知能の低い畜生だと見下されていた。あいつは、お袋と結婚してあげた可哀そうな聖人君主という扱いだった」
「は?」


 シヴァさんの言葉に、私は思わず自分の耳を疑ってしまった。

 別に、ハーフに関してはどうとも思わない。
 今までだって、直接ではないけどなんとなくそうなのではないかと思うような話題もあったから。

 でも、それ以降の話が悪かった。

 シヴァさんが、知能の低い畜生?
 誰だ、彼にそんなことを言った奴は。

 あいつっていうのは、たぶん話の流れからしてシヴァさんの父親だろう。

 父親の話をしている時だけ、シヴァさんの表情が非常に怖い。
 眉間にしわが寄っているし、何より普段のシヴァさんからは想像もつかないような冷たい雰囲気を纏っている。
 少なくとも、母親とは違い父親に対しては非常に嫌な感情しか抱いていないんだろう。

 まあ、話からして明らかに母親て父親の扱いの差があるし。

 なんとなくだが種族は理解できる。
 母親が狼の獣人で、父親が吸血鬼だろう。


「意味が分かりません…………。なんで、シヴァさんたちがそんな扱いを受けなければ……」
「吸血鬼にとって、いや奴らと一緒にしたらまともな吸血鬼たちに失礼だな。奴らにとって、純血種である存在こそが尊い存在。純潔でない存在は、ただのゴミ。自分たちが認めた種族以外は、低能な生き物。…………それが、血統主義って奴だ」


 『血統主義』。確か、前にアルさんが教えてくれた思想。

 魔族と精霊族の一部にいるんだっけ?

 はっきり言って、もう思想というよりはただの差別じゃないか?。


「…………クソじゃん」


 本音が出てしまったけど、後悔はしていない。

 いったい、何様のつもりなんだろうか?

 別に、どういう思想を持っていようがそれは自由だ。
 でも、それで他人を侮辱していいっていうの?

 怒りに震えていれば、シヴァさんが悲しげな表情を浮かべていることに気づいた。


「…………俺は、実の親から愛されたことはない。お袋は、とにかく俺を守ってばかりだった。お袋の背中しか知らない。奴からは、父親らしいことをされたことがない。…………いや、まず奴を父親とすら認めたくない。いつもいつも、お袋以外の女を連れていた。…………異母兄弟だって、何人いるかもわからない」


 シヴァさんがそう言いながら取り出したのは、一枚の紙だった。

 ところどころ黒ずんでいる白色の紙。
 表には女性の寂しげな顔が映っていて、裏側は白色だ。

 なんというか、元の世界にある写真に似ている。


「……それ」
「複写魔法で紙に写したお袋の顔だ。…………もう、お袋の声すらうろ覚えだ。でも、絶対に忘れたくないんだ」


 シヴァさんは、紙を写っている女性の髪を撫でるように触る。

 手つきは優しいのに、彼の瞳は寂しさと悲しさに揺れていた。


「『親父』が教えてくれた。生き物には、三つの死がある。一つ目は、心が死んだとき。二つ目は、心臓が止まった時。…………三つめは、誰かの記憶から忘れ去られ消えた時。だから、俺は絶対に忘れない。何がなんでも覚えている。…………お袋に、三回目の死を迎えさせないために。…………何度も思ったさ。奴じゃなくて、『親父』が実の父親だったらってな」


 そう言ったシヴァさんは、軍服の上着のポケットに紙をしまう。

 そして、私を見るシヴァさんの瞳はもう揺れてはいなかった。
 シヴァさんは、真剣な表情を浮かべて言った。





「…………これが俺だ。騎士団長ではない、シヴァという一人の男だ。お前はハーフに対して差別思考を持っていない。それは知っている。だが、俺はうまく保護者らしいことができる気がしない。『親父』からは愛されたが、自分で出来るかと言えば自身がない。こんな俺でもいいか?」
「私は、シヴァさんがいいです」
「そうか…………これから、よろしくな」
「はい!!」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄と追放をされたので能力使って自立したいと思います

かるぼな
ファンタジー
突然、王太子に婚約破棄と追放を言い渡されたリーネ・アルソフィ。 現代日本人の『神木れいな』の記憶を持つリーネはレイナと名前を変えて生きていく事に。 一人旅に出るが周りの人間に助けられ甘やかされていく。 【拒絶と吸収】の能力で取捨選択して良いとこ取り。 癒し系統の才能が徐々に開花してとんでもない事に。 レイナの目標は自立する事なのだが……。

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ
ファンタジー
目の前に、女神を名乗る女性が立っていた。 麗しい彼女の願いは「自分の代わりに世界を見て欲しい」それだけ。 使命も何もなく、ただ、その世界で楽しく生きていくだけでいいらしい。 厳しい異世界で生き抜く為のスキルも色々と貰い、食いしん坊だけど優しくて可愛い従魔も一緒! 忙しくて自由のない女神の代わりに、異世界を楽しんでこよう♪ 13話目くらいから話が動きますので、気長にお付き合いください! 最初はとっつきにくいかもしれませんが、どうか続きを読んでみてくださいね^^ ※お気に入り登録や感想がとても励みになっています。 ありがとうございます!  (なかなかお返事書けなくてごめんなさい) ※小説家になろう様にも投稿しています

妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】

小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」  私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。  退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?  案の定、シャノーラはよく理解していなかった。  聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……

転生したら使用人の扱いでした~冷たい家族に背を向け、魔法で未来を切り拓く~

沙羅杏樹
恋愛
前世の記憶がある16歳のエリーナ・レイヴンは、貴族の家に生まれながら、家族から冷遇され使用人同然の扱いを受けて育った。しかし、彼女の中には誰も知らない秘密が眠っていた。 ある日、森で迷い、穴に落ちてしまったエリーナは、王国騎士団所属のリュシアンに救われる。彼の助けを得て、エリーナは持って生まれた魔法の才能を開花させていく。 魔法学院への入学を果たしたエリーナだが、そこで待っていたのは、クラスメイトたちの冷たい視線だった。しかし、エリーナは決して諦めない。友人たちとの絆を深め、自らの力を信じ、着実に成長していく。 そんな中、エリーナの出生の秘密が明らかになる。その事実を知った時、エリーナの中に眠っていた真の力が目覚める。 果たしてエリーナは、リュシアンや仲間たちと共に、迫り来る脅威から王国を守り抜くことができるのか。そして、自らの出生の謎を解き明かし、本当の幸せを掴むことができるのか。 転生要素は薄いかもしれません。 最後まで執筆済み。完結は保障します。 前に書いた小説を加筆修正しながらアップしています。見落としがないようにしていますが、修正されてない箇所があるかもしれません。 長編+戦闘描写を書いたのが初めてだったため、修正がおいつきません⋯⋯拙すぎてやばいところが多々あります⋯⋯。 カクヨム様にも投稿しています。

処理中です...