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エトワーテル辺境伯領
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私は厨房のドアを閉め、ドアに背を預けたままズルズルとしゃがむ。
待ってくれ、待ってくれ。
兄上だって。
小さい頃はずっと兄上と呼んでくれていたけれど、まさか今もそう呼んでくれるとは。
「いや、自分から遠ざけたのになんでこんな喜んでいるんだ...。」
こんな自分が嫌になる。
というか頭、撫でてしまった...。
いや、でも母親は子の頭を撫でるし...撫でるよな?
これは家族愛の範疇だ。
そう、家族愛。
家族愛...。
「やっちゃった...。」
いや、でももう会う事は無いだろう。今までだって会うのは数ヶ月周期。
もう一ヶ月後にはファシアス高等学園への入学試験がある。
その一ヶ月後に合格発表があるため、数ヶ月後にはもうお別れだ。
まあ、万が一会ったとしても家族愛だと思ってくれているだろうし問題は無い。
だって家族だし。
男だし。
「はぁ...。」
思わずため息をつく。
どうせこの独占欲が満たされることはない。
ならばいつか離れなくてはならない。
私は立ち上がり、軍服を脱いで少し白くなっている背中の部分を手ではたく。
黒く戻った軍服を気直し、気持ちを引きしめる。
今日もキルシュはかわいかったな。
可愛かった。驚いた顔を見れるなんて役得だ。
私は元気を取り戻して執務室へ戻って行った。
ーー★ーー
そう思っていたのに。
あれから2週間後の午前0時。
なんとなくあの偽の見張り台には行きづらく、水だけ飲みに厨房へ寄った。
水を飲んだあとは適当に城の外、と言っても敷地内を適当に散歩しようと思っていた。
しかしそれは厨房にいたキルシュを見て全てが吹っ飛ぶ。
キルシュはお風呂上がりのようで髪が少し湿っている。
頬は程よく染まり、首元の緩い服からはシャツを着ていたら見えない鎖骨が見えた。
そんなキルシュを見てしまった私は思わず目を逸らしそうになるが、そんなあからさまな反応をするわけにはいかない。
1拍止まった呼吸はご愛嬌だ。
キルシュは単語帳と思われる物から顔を上げ、ドアから入ってきた私を見る。
「兄、上。」
「...。」
かわいい!!
とそのまま叫ばなかった私を誰か褒めてくれ。
口角だってあげないようにするのが精一杯だ。
「申し訳ありません。直ぐに部屋に戻りますので…。」
「問題ない。」
そんなことされたらキルシュのことを追い出した自分を一生恨みそうだ。
私はキルシュの横に置いてある棚から素早くコップを取ると、コップに水を出す。
とりあえず水を飲もう。落ち着け、落ち着け。
そう思いながらも自分の体はコップを取った位置のまま、キルシュの横に立った。
ごめん、キルシュ。体が言う事聞かなくて!
せめて勉強の邪魔にならないように黙ったまま水を飲むから!
「...。」
「...。」
「...。」
「あっ兄上、その、僕は今髪が濡れているので隣に立たれるのはあまり...。」
そういったキルシュは伸びた髪を私がいるのとは反対側に髪を持っていく。
私の軍服が濡れることを避けたいのだろう。
ああ、そんなキルシュの気持ちに気づかないなんて。
「すまない。」
今退くからね。
次いでに厨房からも出よう。単語帳が1ページも進まないのを見ると、きっと私がいると集中できないのだろう。
「私は少し散歩をする。ここは自由に使え。」
よしよし、きっとキルシュもあの偽の見張り台に行きづらかったんだろう。
これで私がいなくなればきっと見張り台に行くはず。そこでゆっくりして、気持ちを落ち着けて、そしてしっかり寝て欲しい。
私は入ってきたドアに歩き出す。
すると私の袖が引かれた。
どうしよう、振り向けない。
視線は前に固定されたまま、心臓がバクバクと音を立てている。
だって、きっと私の袖を引いているのは。
「兄上。上に登りませんか?」
後ろから内緒話をするような声をかけられて背中がゾクゾクする。
別に声が近かったわけじゃない。
本当にただ声をかけられただけなのに。
私は嬉しくて仕方ないのだ。
嗚呼、なんて愚かなのだろう。
待ってくれ、待ってくれ。
兄上だって。
小さい頃はずっと兄上と呼んでくれていたけれど、まさか今もそう呼んでくれるとは。
「いや、自分から遠ざけたのになんでこんな喜んでいるんだ...。」
こんな自分が嫌になる。
というか頭、撫でてしまった...。
いや、でも母親は子の頭を撫でるし...撫でるよな?
これは家族愛の範疇だ。
そう、家族愛。
家族愛...。
「やっちゃった...。」
いや、でももう会う事は無いだろう。今までだって会うのは数ヶ月周期。
もう一ヶ月後にはファシアス高等学園への入学試験がある。
その一ヶ月後に合格発表があるため、数ヶ月後にはもうお別れだ。
まあ、万が一会ったとしても家族愛だと思ってくれているだろうし問題は無い。
だって家族だし。
男だし。
「はぁ...。」
思わずため息をつく。
どうせこの独占欲が満たされることはない。
ならばいつか離れなくてはならない。
私は立ち上がり、軍服を脱いで少し白くなっている背中の部分を手ではたく。
黒く戻った軍服を気直し、気持ちを引きしめる。
今日もキルシュはかわいかったな。
可愛かった。驚いた顔を見れるなんて役得だ。
私は元気を取り戻して執務室へ戻って行った。
ーー★ーー
そう思っていたのに。
あれから2週間後の午前0時。
なんとなくあの偽の見張り台には行きづらく、水だけ飲みに厨房へ寄った。
水を飲んだあとは適当に城の外、と言っても敷地内を適当に散歩しようと思っていた。
しかしそれは厨房にいたキルシュを見て全てが吹っ飛ぶ。
キルシュはお風呂上がりのようで髪が少し湿っている。
頬は程よく染まり、首元の緩い服からはシャツを着ていたら見えない鎖骨が見えた。
そんなキルシュを見てしまった私は思わず目を逸らしそうになるが、そんなあからさまな反応をするわけにはいかない。
1拍止まった呼吸はご愛嬌だ。
キルシュは単語帳と思われる物から顔を上げ、ドアから入ってきた私を見る。
「兄、上。」
「...。」
かわいい!!
とそのまま叫ばなかった私を誰か褒めてくれ。
口角だってあげないようにするのが精一杯だ。
「申し訳ありません。直ぐに部屋に戻りますので…。」
「問題ない。」
そんなことされたらキルシュのことを追い出した自分を一生恨みそうだ。
私はキルシュの横に置いてある棚から素早くコップを取ると、コップに水を出す。
とりあえず水を飲もう。落ち着け、落ち着け。
そう思いながらも自分の体はコップを取った位置のまま、キルシュの横に立った。
ごめん、キルシュ。体が言う事聞かなくて!
せめて勉強の邪魔にならないように黙ったまま水を飲むから!
「...。」
「...。」
「...。」
「あっ兄上、その、僕は今髪が濡れているので隣に立たれるのはあまり...。」
そういったキルシュは伸びた髪を私がいるのとは反対側に髪を持っていく。
私の軍服が濡れることを避けたいのだろう。
ああ、そんなキルシュの気持ちに気づかないなんて。
「すまない。」
今退くからね。
次いでに厨房からも出よう。単語帳が1ページも進まないのを見ると、きっと私がいると集中できないのだろう。
「私は少し散歩をする。ここは自由に使え。」
よしよし、きっとキルシュもあの偽の見張り台に行きづらかったんだろう。
これで私がいなくなればきっと見張り台に行くはず。そこでゆっくりして、気持ちを落ち着けて、そしてしっかり寝て欲しい。
私は入ってきたドアに歩き出す。
すると私の袖が引かれた。
どうしよう、振り向けない。
視線は前に固定されたまま、心臓がバクバクと音を立てている。
だって、きっと私の袖を引いているのは。
「兄上。上に登りませんか?」
後ろから内緒話をするような声をかけられて背中がゾクゾクする。
別に声が近かったわけじゃない。
本当にただ声をかけられただけなのに。
私は嬉しくて仕方ないのだ。
嗚呼、なんて愚かなのだろう。
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