たとえそれが間違いだとしても

Fuu

文字の大きさ
上 下
8 / 8
終わりの始まり

襲撃

しおりを挟む




 夕食が終わって1時間ほど経ち、空は完全に闇で覆われ星が瞬いていた。俺はこの景色をぼんやりお窓から眺めていた。

 こっちの世界に無理矢理連れてこられて、魔王を倒してくれとか言われたと思った矢先に俺自身が魔王だったし。魔王倒したら帰れるとか言っていたけど、どうして引っかかる所があって自分なりに調べたりしてるけど、全く成果もなく。せめて空深だけでもって思ってしまう俺はダメなのだろうか......。

 そんな感傷にも似たような思いに浸っていた俺を、ドアをノックする音ざ感傷にひたり、ぼんやりとして意識をはっきりとさせる。

 誰だろうか?などと考えながらドアを開く。そこには、見慣れないネックレスを着けた空深が1人で立って居た。俯いていて、表情が見えないけれど、雰囲気がいつもと違ってとても心配になった。

「何かあったか分からないけど、とりあえず中に入って」

 いまだ俯いたままの空深を部屋の中に入れてドアを閉める。もう一度、空深の方を見るが、以前として変化がない。こんな空深の姿は向こうにいた時一度も見たことがない。正直、どう言った言葉を掛ければいいか分からない。

「とりあえず、適当なところで休んでいいよ」

 だから、無難な言葉を選び、若干空深を気にしながら部屋の奥に歩いて行った。だからなのだろう。目の端に僅かに光が集まるのが分かった。

 それを見て、最初に思い浮かんだのは「何故?」という疑問。それはこっち世界に来て何度も見ているもので思わず空深の方を向く。

その次に何かが右胸に刺さる感触と今までに感じたことがない痛みだった。

「ーーーーーー!!!!」

 思わず声にもならないような悲鳴をあげる。空深は構うことなく剣に力を込める。上手く足に力が入らず、押し込まれる形で部屋に入る。部屋には月の光が差し込み今まで見れなかった空深の顔を照らす。

「っ!?」

 目を見て思わず息を呑む。空深の目にはまるで意識というものが感じられず、明らかに普通じゃないという事はわかった。だが、分かった所で今、何か出来る事がある訳でもなく......。

 空深はその場で立ち止まり、俺は勢いを殺せずに後ろに下がる。すると、自然と剣が右胸から抜けーー踏み込みもせずに、振り下ろすように斬りつけてくる。

 踏み込みも無く振り下ろされた剣は俺に届く事は無いはずだった。だが、無意識のうちにガードするように出した左腕が斬られ、肘から先が宙を舞う。切り飛ばされた腕から出る返り血が空深を濡らす。
 
 聖剣の切れ味が良すぎた為か、刺された時のように直ぐに痛みが襲って来なかった。そして何故か剣を振り下ろした形で一瞬止まる空深。

 足が絡れ、倒れそうになりながらもその一瞬を突いてダークバレットを放った。狙いはペンダント。明らかに不自然すぎる。
 放ったダークバレットは寸分の狂いもなくペンダントに当たり、砕け散る。

「いやーーぁ!!!」

 ペンダントが砕け散ると同時に聖剣が消え、空深が叫ぶ。
 それとほぼ同時に、俺も背中から床に倒れこむ。腕から血が流れ出る感覚が気持ち悪く感じる。意図せずして、呼吸も早い気がする。

「あ.......あぁ、りょ、亮?大丈夫?」

 取り乱していた空深は少し落ち着いたのか、俺の名前を呼びながら、切り飛ばした腕を拾ってこっちに駆け寄り、しゃがみこむ。
 切り口を合わせて回復魔法を掛けるが、なかなか効果が現れない。良くて多少出血が治る程度だ。

 「どうして!なんで傷が治らないの!」

 取り乱して、叫ぶようにそういう空深。気づかなかったが、なんだかさっきまでと空気が変わってる気がする。回復を阻害するアイテムでも使ってるのだろうか?だが、自体はそれだけに収まらなかった。
 部屋の外から金属が擦れる音が聞こえてきたと思うとドアが一気に開かれ鎧を着た兵士が入ってくる。一瞬だけ空深は振り返るがすぐに俺の治療に戻る。だが、それを止めさせるように二人掛かりで空深を取り押さえる為に腕を掴み俺から引き剥がそうとする。がだ、空深は二人の兵士を諸共せず、逆に二人の兵士を強引に引き剥がして、入り口近くに居る兵士に押し返す。
 しかし、一人だけ部屋の隅を通って俺のすぐ側まで来いた。そして剣を抜いていた。

「だめーー!!」

その兵士に気づいた空深は叫びながら俺を守るために駆け寄ってくる。だが、どう足掻いても空深が俺のところに来るより、兵士の剣が俺の首の切る方が明らかに早い。
 だが、不意に空深の魔力が高まるのを感じてーー俺の姿はこの場から消え、気を失った空深と唖然とする兵士達が残った。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

アンチエイジャー「この世界、人材不足にて!元勇者様、禁忌を破って若返るご様子」

荒雲ニンザ
ファンタジー
ガチなハイファンタジーだよ! トロピカルでのんびりとした時間が過ぎてゆく南の最果て、余生を過ごすのにピッタリなド田舎島。 丘の上の教会にある孤児院に、アメリアという女の子がおりました。 彼女は、100年前にこの世界を救った勇者4人のおとぎ話が大好き! 彼女には、育ててくれた優しい老神父様と、同じく身寄りのないきょうだいたちがおりました。 それと、教会に手伝いにくる、オシャレでキュートなおばあちゃん。 あと、やたらと自分に護身術を教えたがる、町に住む偏屈なおじいちゃん。 ある日、そののんびりとした島に、勇者4人に倒されたはずの魔王が復活してしまったかもしれない……なんて話が舞い込んで、お年寄り連中が大騒ぎ。 アメリア「どうしてみんなで大騒ぎしているの?」 100年前に魔物討伐が終わってしまった世界は平和な世界。 100年後の今、この平和な世界には、魔王と戦えるだけの人材がいなかったのです。 そんな話を長編でやってます。 陽気で楽しい話にしてあるので、明るいケルト音楽でも聞きながら読んでね!

君の浮気にはエロいお仕置きで済ませてあげるよ

サドラ
恋愛
浮気された主人公。主人公の彼女は学校の先輩と浮気したのだ。許せない主人公は、彼女にお仕置きすることを思いつく。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G
ファンタジー
神様と名乗るおじいさんに転生させられること3521回。 レベル、ステータス、その他もろもろ 最強の力を身につけてきた服部隼人いう名の転生者がいた。 彼の役目は異世界の危機を救うこと。 異世界の危機を救っては、また別の異世界へと転生を繰り返す日々を送っていた。 彼はそんな人生で何よりも 人との別れの連続が辛かった。 だから彼は誰とも仲良くならないように、目立たない回復職で、ほそぼそと異世界を救おうと決意する。 しかし、彼は自分の強さを強すぎる が故に、隠しきることができない。 そしてまた、この異世界でも、 服部隼人の強さが人々にばれていく のだった。

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...