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姉の切迫早産の入院は思っていたより長引いた。


美琴みこと何か僕にして欲しいことは無いのかい?」


情熱的なポーズで姉の名前を呼ぶのは、お馴染みの姉の旦那、マークだ。
ちなみに、彼の仕事は絵の…絵画のバイヤーだ。それもフリーの。
世界をまたにかける人バイヤーらしい。


そんなマークと姉の馴れ初めは聞いたことはないのだけれど…何となく予想できるので、聞かない。聞くとしてもマークのいない所で姉に聞くのが正解だ。でなければ小一時間程、姉との出会いや姉の魅力的な所を喋りまくる。
そしてそれに納得して姉を褒めると、今度は嫉妬の嵐がやってくる。
とてもとても面倒な義兄だ。


ちなみに今、マークはウィークリーマンションに一人で住んでいる。
同居する為に実家に荷物を運んだのになぜだろうと母に聞いたら…


「たとえ義母様おかあさまと言えど、僕が女性と二人っきりだなんて美琴が知ったら、泣いてしまうかもしれない」


って言ってたってケラケラ笑ってた。
世界をまたにかけ仕事をしているような人に、「あの子ったらおバカねぇ~」って言っていた。
まぁ…私も『おバカ』ってことろだけは同意するけど。


「ねぇ、美里みさちゃん。マークのことよろしくね?」


姉もまさか、入院がここまで長引くとは思わなかったようだし、まさかマークが、地理もよく分かっていない日本で一人暮らしをするとは思わなかったらしい。
『あいかわらず無謀なんだから…』そう言いつつも、マンション付近のお店や緊急時に対応してくれる、英語が話せる友達を紹介したりしている。心配は尽きないようだけれど、ここはジッと動かず…できればストレスフリーですごさなければいけないらしい。


「お腹が張る自覚がないのもいけないらしいのよね。でも、こうやって寝てるだけでもストレスなのよ。お薬で血管が脆くなりやすいらしくて、毎日点滴の針の差し直しがあるし……」


だいぶストレスが溜まっているようで、しばらく姉の愚痴は続いたけれど、これもまたしょうがない事だと割り切って聞く。だって、入院している人が一番大変なんだもん。


あまり長時間面会も出来ないので、名残惜しく姉に縋りつくマークを引っぺがし病院を出た。
姉に頼まれたということもあり、何となく心配でマークが契約しているマンション行こうとしたら…。


「大丈夫だよ。色々と君のダーリンに良くしてもらっているから。彼は僕が美里に近づくのを嫌がるからね」


そう言って、背中を押して早く帰れと言われた。
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