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62 ~人外も恋をする~

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「君は美里を愛しているのかい?」


結婚の話が進んでいる美里の姉が帰国すると聞いて、荷物も多いだろうと思い一緒に空港へ。
出産の為の帰国だと言っていたが、旦那らしき男も一緒に美里の実家に住むらしいので、その内あちらには戻らず、日本で活動するようになるのではないか?とは美里の予想だった。
そんな姉夫婦の片割れ……美里曰く、だいぶ独占欲・嫉妬心が強いというヤツが別れ際、俺に言った言葉だった。


何なんだあいつは……。
姉夫婦を送り届け、一人になった時はこんな風にしか思えなかった。
けど……


「社長と渡利様との間に流れる空気…と申しましょうか雰囲気と申しましょうか……多分それが、恋人同士という感じがしないのかもしれません」


イライラして思わずツヅキに愚痴ってしまった時に言われたことだ。
ツヅキに言われるまで気が付かなかった俺も俺なのだが、いわゆる “恋人らしい” 事も何もしていない事に気が付き、思わず自分にがっかりしたことは誰にも内緒だ。


美里と出会いから四年ほど。その内の三年は、記憶がなく美里とも思うようにコミュニケーションが取れない日々。
あとの一年弱は、知っての通り…この三年の空白の時間を取り戻す事と、美里を自分の元に縛り付けるので精いっぱいだった……と思う。


美里が自分のつがいだと自覚したのは、記憶のなかった時期…美里と出会った時だった。
あの時はきっと何も考えていなかった気がするが、本能で美里と契約をしたんだと思う。


そして、その契約の効果が段々弱くなってきたのは記憶を取り戻してからの一年程前辺りから。

この契約が消えてしまえば、俺と美里との絆が消える。


そして、美里から離れて行動できるのと引き換えに、今度は美里の記憶が…俺やツヅキ…”人外” と呼ばれる者たちと関わった記憶が消えてしまう。


体感的に期日が迫ってきていることを感じて焦った感じが今のこれだった。
多分、色々焦り過ぎたのだろうと思う。
ツヅキやナヅナに指摘され、落ち着いて考えてみると何も焦るようなことはないんじゃないかと思った。
人間でいう "結婚式" を急がなくても、人外の我々が行う "伴侶の契り" の儀式を先にやってしまえば何の問題もない。


そして、ようやくその儀式ができる頃になってのあの男からの指摘だった。
美里曰くお国柄らしいが、美里の姉…自分の妻とならまだしも、美里とも異様に距離がなかった。
何を話しているのか、姉と美里の間に入り談笑し…美里の耳元で何かを呟き、それを聞いた美里が顔を赤らめている。あの男はなんなのだ…美里の姉の番ではないのか。
そして、美里は私の番だろう。


声高に叫びそうになり慌てて気を落ち着けたが、思い出す度イライラモヤモヤする自分も情けなかった。

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