人外さんに選ばれたのは私でした ～それでも私は人間です～

１６

「ごめん。なんだか自分の話しばっかりで…」


ふと気がついて謝ると、勇樹は大丈夫だと笑って言った。私も同じような事で悩んだらしい事を聞いて、ちょっと気持ちが落ち着いたようだ。


「無理にやりたい事を決めなくても良いんだよな…」


ボソッと呟いた横顔が気持ち明るく感じられて安心した。弟は昔から何故か『普通』な自分を恥じていたようなところがあり、時々いっぱいいっぱいになって落ち込む事が多々あった。恥じるところなどひとつも無いのに…と、隠れブラコンな美里は思う。


あの特異な家族の中で『普通』を維持できている時点で充分普通ではないんだけどね…とも。


⚫〇⚫〇


自宅から徒歩三十分…バスで十分弱の大学付属の病院に入院している母は、想像していたいよりもだいぶ元気だった。


「あら、美里ちゃんにバレちゃったのね」


入室早々出た言葉に、病人って言うことも忘れ、思わず説教をしてしまったのはしょうがないことだと思う。


「もう！心配させないでよね」


そんな言葉を皮切りに、母と少し話をしてその後は主治医の先生と話しをした。
母には検査入院と言ったらしいのだけれど、どうも雲行きが悪いらしい。


「症状に当てはまる検査をいくつかやっているのですが……」


検査する程『健康でどこも悪くない』事が証明されていくらしい。


症状がでないと分からない病気もあるので、検査入院をしてもらったのですが……と、言葉を選びながら話す先生が最後に言った言葉は『ウチの病院での検査はこれが限界です』だった。


先生との話しも終わり、さてどうするか…と待合フロアのイスに座った。
とりあえず…退院の許可は降りたのだ…『お手上げ』という言葉と首都圏にある病院への紹介状と共に。


悪い所が見つからないからと言って、放置出来ることではない。
原因こそ分からないけれど、確実に身体は弱ってきているのは確実らしいから。


「おい、原因が判ったぞ」


いつの間にやらいつもの定位置よりいなくなっていた社長が、戻ってきた早々耳元で呟いた。