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56、門出

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「殿下……私から……城下町で珍しい物を見つけたので、殿下にと思って……」


涙が落ち着いた頃、ミレーユが出してきたものは、この世界では見たことのない腕時計だった。
これは……。


「少しですが、前世の事を思い出しました。記憶を頼りに…というにはとても頼りないモノですが……。前世であった結納返しというものでしょうか?そこで渡した物と似たような物をつくってみました」


早速、腕に巻いてもらった。
嬉しくてニヤニヤしていると、腕時計の内側を見るように言われた。


「これは…?」


不思議な輝きを持つガラスのような石のような板が貼ってあった。
これは…石か…魔石?
何の石か判断が付かず、ミレーユに確認の視線を送ると、城下町で恐らく転生者であろう人物と遭遇したことを教えてくれた。


「金剛石……ダイヤモンドか……」


石の部分を触りながら、魔力の通りなどを確認する。
金剛石…ダイヤモンドはこの世界にはまだ算出されていない石。
魔力の通りなどをみると、自分の知る限りでは最高の魔石となりえる石だった。


「その職人は?」


ミレーユからのプレゼントも勿論嬉しかったけれど、興味の方が勝ってしまい、ミレーユに確認すると既にトマスに報告済みで、この時計はトマスに頼んで作ってもらったものだということだった。


「この世界には腕時計なんてございませんでしたので、どうしたものかと思ったのですが、トマス様の知っている方で時計の仕組みを熟知している方がいると聞きご相談させて頂きました。できれば…前世での心残りも消化出来たら……なんて私の我儘なのですけれど」


そういって頬を染めるミレーユが可愛くて、また抱きしめてしまった。
そうか……ミレーユ……美玲も結婚できなかったことを心残りと思ってくれていたらしい。
死んでからだいぶ時間は経ってしまったけれど、またここから新しい気持ちで出発できそうな気がする。


「ありがとう……ミレーユ……」
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