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ネチネチネチネチ

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公爵令嬢が転生者で、まさかセレーネとは知らず、相変わらずボッチ生活を送っていたある日、教室の机の中に置いておいた筈のペンケースが壊される事件が起こった。


(あんな事があった後だし、しょうがない……)


とは思いつつも、無視や陰口には動じない自信があるセレーネも、この行為はかなりキツく感じた。

大事な物を置いておいたセレーネも悪いのだが、ミーヤおかあさまに貰った入学祝いのペンをここまでバラバラにされるとは思っていなかったからのだ。


「直らない……よね。はぁ……ため息しか出ないわ。ここまでされるような事していないよね?」


意外に思われるかもしれないけれど、今までも色々辛いことはあった。けれど、大事な物を壊された経験は前世を通してあまりない。

多分それは無意識にせいもあったのかもしれない。
持たなければ壊れることもないから。
どうしても持たなければいけないモノは『形あるモノはいつか壊れる』と自分に言い聞かせ、何があってもしょうがないと割り切っていたせいか、執着せず諦める事ができた。


(でも、これは……)


正直泣きたい。
ジルベルト様おとうさまと結婚した今でこそ慎ましくもそれなりに貴族らしい生活をしているけれど、それ以前は援助はあったが、それなりに切り詰めていた。

人生何があるか分からない。不慮の事故や病気で私が先に死ぬような事があれば、一緒にいるミーヤは路頭に迷うことになるだろう。
若ければ結婚できるだろうけれど、あの時点でミーヤに結婚の意思は無かったし、あったとしても見た目ではトラブルになりかねない。

仮に本当に私の身に何かが起き独りになったなら、ミーヤならば絶対に結婚はしないだろう。

そう考えていたからミーヤにも言い聞かせ、私に必要以上のお金をかける事のない生活をしてきた。

援助を受ける際、ミーヤの給与も別途もらっていた筈だが、この世界でのに対しての対価はさほど高くない。ましてミーヤは私のみのお世話だから、きっともっと低い。

その中からコツコツ貯めて贈ってくれたペンだ。ちょっとどころか心はベッこり音をたてて凹んだ。そしてその後しばらく、修理など出来ないほどに壊れたペンを持ってその場に立ち尽くしてしまった。





♢♢




ー…もう帰らないと……


あの後しばらく途方に暮れ、薄暗くなってきた教室に気付き、今はとぼとぼと寮に向かい歩いている。

ペンは……あれ以上動かしたら余計に壊れてしまいそうだったので、随分前にシルフィと一緒に試行錯誤して作った指輪型のストレージに入れた。あそこならあれ以上劣化もしないし無くなることもないから。

でも……ほんの少し気持ちを持ち直せたけど、キツいのはキツいし、泣きたい。
こういう時に泣ければいいのかもしれないけれど、涙は滲めど滴は出ず。

どうやら自分は前世からの積み重ねで、自分の悲しさにはかなり鈍いらしいのをさっき自覚した。今後もきっとならこの位の感情の波で済むかもしれない…けど。

自分でいうのもなんだが……積み重なり過ぎて、キレたらどうなるのか……。

また魔力暴走を起こしてしまいそうでかなり不安だったりする。できればそれはごめん被りたいのだけど、そうは問屋が卸さないのが貴族らしい。


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