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父と息子

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「父上……これはどういうことでしょうか……」


いきなり父上に呼び出されたかと思ったら、何故か荷造りまでしてあり既に馬車の中。
御者台には御者の他に執事のトマスも乗っていた。


「父上……もう一度聞いてもいいでしょうか。これはどういうことでしょうか?僕は学院から拉致同然に連れてこられたのですが……」


目を合わせようとしない父にイラつきつつ、もう一度質問をしようとしたら、おもむろに1枚の封筒を渡された。

読め……という事なんだろう。


「これは……誰が……」


作法も何もないがやけに文脈が固い手紙……そして最後には妹の名前……。


「行き先はセレーネの所でしょうか?以前にもお願いしましたが、セレーネに上手く接する自信がありません……と言った気がするのですが忘れたわけではないですよね?」


父にこんな態度は取らない。
父とはいえ伯爵家当主だし、わりに早い時期に学院の寮に入ってしまった為、気が付けば親子の交流がないまま5年近く時間が経っていた。


「カーミラの輿入れの準備も進んでいる。そしてセレーネの洗礼の儀も迫っている。私の不徳のいたす所ではあるが、忙しさにかまけセレーネとの交流を怠っていた。そんな時にこの手紙がきた。いずれはユアン……お前がこのホーグワット家の家督を継ぐ。セレーネのことは避けては通れぬことだ。うまく接することができぬのなら、私がいる今のうちにどうにかしておけ……」


それだけ言って視線を外に戻してしまった。

正直、憂鬱だ。
ここ数年会っていないし、会ったところで兄らしい言動が取れる自信も無い。母上が亡くなったのはセレーネのせいではない……あれは不慮の出来事だと今ではそう思えるけれど、数年前まではそんな風に思えず、幼いセレーネに仇を見るような目を向けていたことも記憶にある。

姉と一緒になって幼い妹に八つ当たりなどと、幼稚なことをした自分が、今となっては恥ずかしい。そんな自分を覚えているからこそ……と。
けれど……。


「父上……この手紙は代筆と書いてありますが、世話係をして下さっているダンブレア夫人が書いた物ですよね?幼い妹がこのようなことを考えているとは思えません。何事か吹き込まれているのかもしれません」


学院の同輩で、王都に弟妹が居るヤツがいるが、このぐらいの年齢の子どもは無邪気に遊ぶ子も多い。いくら保養地へ閉じこもるような生活をし勉学に励んでいるらしいが、代筆とはいえこんな手紙が書ける4歳児などいないはず。

そう訴えるも、視線を変えることなく外の景色を眺める父。

囲われた世界で使用人と言ってもおかしくない大人にいいようにされているのではないか?これは早急に人員の入れ替えも考慮しなければいけないかもしれない。

応えてくれぬ父を視線の端に追いやり、これから向かう土地を思い出す。


(腹を括らなければいけない……か……)
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