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人生の終盤で
しおりを挟む自分は転生者だった…-
そう思い出したのは人生の終わりも終わり、『自分はもう死ぬんだ』と……もうすぐ呼吸が止まる……とカウントダウンを迎えたベッドの上。今まさに『なんでこんな時?』って場面。
ベッドの脇にはさめざめと態とらしく泣きすする両親と姉。こんな時まで外面重視っていうのに吐き気がする。もう吐く物もないから吐けないけどね。
手の施しようもないほどに身体全体をむしばんだ癌がもうすぐ私の心臓を止める。
途中までは幸せだった気がする人生。
母が亡くなり祖母も亡くなり……入婿だった父が私の後見となり財産管理をした頃からだろうか。こんな風になったのは。
誰を恨んでいいのか……母も祖母も生きていてくれれば幸せだったのか……それさえも疑問に思えるような父の変貌。
最初は母が亡くなった時だった。
父曰く『美沙(母)が亡くなる以前から屋敷や会社の管理は自分もやってきた。だから美沙が受け継ぐ筈だった財産は自分が受け継いでもいい筈だ』と……。
母の生前もその当時も会長として実権を握っていた祖母は、入婿である父の言うことなど認めるわけもなく、かと言って母とは死別したとはいえ私という存在がいた為、父を放り出すわけにもいかず、ずるずると時は流れた。
あれは私が17歳になった年、祖母が急死した。思えばあの時、私の人生も終わったのだと思う。それまでだって決して幸せだとは言えなかったけれど、まだ序の口というものだったんだと今になって思う。
そして、ある日突然祖母と母の思い出が色濃く残る屋敷に、父が再婚をしたという女性と子供が移り住んできた。そして、驚く私に父はのうのうと言ったのだ。この子は私とは血の繋がった姉妹であること。それも姉だという衝撃の事実。そして……。
「ごめんなさいね。あなたの婚約者の方……近々私と結婚することになったの。だってしょうがないじゃない?ここに愛の結晶をコウノトリが運んできてしまったんだもの」
嬉しそうに少し膨らんだ腹をなでる女に殺意が湧いたけれど、その当時の私にはなにも出来なかった。
祖母の死と婚約者の裏切り。
その事実に呆然としている間に、気が付けば会社は父と義姉に乗っ取られ……私は高校卒業後、小さなマンション一室に追いやられ一人暮らしとなった。
「すまない。君にはこれしか残せなかった」
元婚約者との最後の会話。
義姉とのことを言い訳をしていたけれど、言い訳しても過去は変えられない。言われるがまま小さなマンションに移り住み……どうにかこうにか仕事も見つけ、必死で働いた。
『いつまでもお嬢様気取りじゃ困るんだよ』
何かと言い掛かりをつけてくる本部社員に辟易しながらも頑張って……社長でも医者でも弁護士でもないけれど、優しくてしっかりした彼もできた。
幸せになれるかな-…
そう思い始めた矢先に発覚した病気。
病院で診断を受けた時にはもうすでに手遅れでだった。余命宣告もされ、思わず笑ってしまった。
人生こんなもんか……
そう納得して、翌日にはせっかくできた彼とも別れた。理由を聞かれたけれど、病気のことなど言えるわけもなく……
「父に戻ってくるよう言われたの。向こうで婚約者が待っているの」
彼にはそう言い会社もそのまま辞め、癌発覚後1週間程で癌専門病院のホスピスに入った。色々な手続きは元婚約にお願いした。
少し嫌な顔をされたけれど、私に罪悪感があったのだろう、渋々だけど受け入れてくれた。
そして今……
「あとのことは心配しなくてもいい。お父さんに任せておけ」
息も絶え絶えな私に語る父。
私の保険金でも当てにしているのか、数日前に執拗に保険の書類のありかを聞いてきたけれどどうなったのか。
気にしたこともなかったけれど、そこそこの保険に入っていた気がする。
悔しいけれど未婚なので、受け取りは自動的に父となるだろう。
付き合っていた彼に残すのもいいかな……なんて思ったけれど、家族のいざこざに巻き込むのも彼の戸籍にバツを付けるのも気が引けた結果だ。
つらつらと色んなことが頭に浮かぶけれど、なんだかもう考えが纏まらない。
これが死なんだ……他人事のように思いつつ、最期に神様に祈ってみた。
前世も今世も他人に恵まれない人生だった。もし来世があるなら……平凡でいいから幸せな一生を……
そう祈りつつ私は今世の幕を閉じた……。
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