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十一話

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【勇者でも魔王に恋がしたい!】

十一話

 気がつくと俺は、朝眠っていたのと同じフカフカのベットに横になっていた。

「……痛え」

 なぜか後頭部あたりがじんじんと痛むので、手でそこをさすりながら身体を起こす。
 確か俺は……バニラとクレープ食べてたような気がしたけど夢か?でも、夢にしては、妙に現実味のある夢だった気がする。

「とりあえず、今は何時だ?」

 立てかけてあった丸い時計を見ると、その針は丁度三時を指していた。外は明るいし午後だな。
 ということは、俺かなり寝たことにならないか?
 寝すぎたから頭痛いのかな?まあ、いいや。とりあえず外出よう。ライドンさん起きたかもしれんしな。

*****

「あ、マルク!おっはよー!」

 部屋を出て早々に、これまた頭の痛くなるような元気な声で、話しかけてきたのはバニラだった。バニラはどっかで見たような紙袋を持っていたが、今はそれどころじゃねえ。

「あ、あぁ。おはよう。少し質問いいか?」

「え?どうしたの?藪から棒に」

「えっと、俺はお前と今日出かけたか?」

「…………先に答えから言うとNOだね!そんなわけないじゃん。今マルク起きたんだし。というかなに?夢の中で私とデートでもしてたの?」

 少し間があった気がするが、嘘を言ってるようには見えないな。

「……デートではない。あれは親子でするような買い物であってだな……」

「うわ……本当にそんな内容だったんだ……」

 そう言って彼女は、俺を蔑むような目で見てくる。

「まあ、いいや。私は装備とか直しに行かないといけないから!またね!」

「あ、なら、待って……」

 俺の呼ぶ声など聞こえてないかのように、彼女は走って行ってしまった。
 全く、そんなに急がんでもいいじゃないか。俺も直しに行きたかったのに。
 にしても、あの紙袋どっかで見たけどなんだったんだろ?こんなことなら聞いておけばよかったぜ。

「……これからどうするか」

 とりあえず、俺も直さないとそろそろヤバイよな。
 鋼で出来た鎧の腹部に空いた深い傷。これが無ければベリアルとの対戦時確実に致命傷になってただろうが、今ではもう使い物にならない。だからってずっと代用品ってのも辛いし、直さないといけねえんだよな。
 物がモノなだけに扱えるものも少なく、もし仮に直してくれたとしても値段もかなりのものだ。
 それにこれより上の性能、または同じくらいのものを新品でだとすると一体いくらするかわかったもんじゃない。
 でも、またあんな攻撃食らっちまうかもしれねえしな。一応直しておくか。

*****

そして、館から外に出るとこれまた見たことあるような風景が広がっていた。雪化粧された街並みは、キラキラと太陽の光を反射させていた。すぐ近くには、噴水がありそれを囲むように鍛冶屋、武器屋、防具屋、アクセサリー屋、洋服屋と、夢で見たものと同じ配列だった。
 ということは、遠くで並んでるあれはクレープ屋ってことか。

「本当に全く同じだな……」

 妙な偶然もあるものだな。なんて思いつつも俺は鍛冶屋に入った。
 重たいドアを開き、中に入ると鉄を打つ音がリズムよく刻まれていた。

「お?あんちゃんいらっしゃい!」

 人の良さ気なガタイのいいお兄さんが、トンカチ片手に奥から出てきた。

「あの、これを直したいんですけど」

 俺はショルダーバックから、ぱっくり穴の空いた鋼の鎧を取り出すと、そのお兄さんはニコニコしながらこっちへ近づいてきてそれを受け取る。

「はっはー!!これまた派手にやったねあんちゃん!まあ、いいよ!これなら千ゴールドでどうだい?」

「えっ!?そんなんで直せるんですか!?」

 思わず声を荒らげた。

「あぁ。問題ないぜ!腕によりをかけて直してやるよ!」

 自信満々にそう言われるので、そのお兄さんに任せることにした。
 結構難しいと思うんだけど大丈夫なのかな?
 ちょっと不安もあるが、確かめたいこともあったので店から出た。
 クレープ屋の商品ケースの中を確認する。男一人ではちょっと勇気がいるものだったが、今は人の目なんて気にしてられない。

「スペシャル……スペシャル………」

 その商品棚には、夢の中でバニラが食べたはずのスペシャルがあった。それも価格は千ゴールドだ。値段も見た目も全部が全部一緒だ。

「流石にこれはおかしいだろ……」

 バニラとは多分、この辺を一緒に回った筈なんだ。一度訪れたことがあれば同じ景色の夢を見たりするだろうが、見たこともないのにそんなことはありえない。それも細かいところまで全部一緒だ。ありえるはずがない。
 じゃ、何故俺はベッドで寝てたんだ?

「……なにがあった?」

 考えてみたがやっぱりわからない。でも、知ってそうな奴は一人しかいないよな。
 地図を開き俺はやつの位置情報を手に入れると、そこまですっ飛んでいった。

「おい!バニラ!」

「……え?マルク?どうしたの?」

 彼女は噴水前でのベンチに腰掛けていた。

「どうしたもこうしたもあるか!お前と俺は今日、二人で遊んでたよな!デートしたよな!」

「は、はぁ!?な、ななな何言っちゃってるんですか!?そんなわけないって言ってるじゃないでございまするですよねぇ!?」

「……テンパって日本語が変になってるぞ?」

「あう……」

「……何があったか教えなさい」

 そう訊くと彼女は俯いて、小刻みに肩を震わせ始めた。

「な、なんだ?泣いてるのか?」

「……あーっはっはっは!!!それはできない相談ね!じゃ、サラダバー!」

 そう言って奴は噴水を宙返りで華麗に舞うと、姿を消した。これ多分水が出てるところまで含めたら五、六メートルはあるぞ?

「……マジかよ」

 声が漏れる。
 逃げられちまった。さすが盗賊逃げ足早いぜ。
 まあ、いいや。俺は丁度鍛冶屋付近に来たので、防具のようすを見に行くことにした。まだ出来るには早すぎるしな。
 ドアを開けるとまたさっきの人の良さ気な兄ちゃんが出てきた。

「お、あんちゃん。防具は出来たぜ。ついでに少し強化しといたからな!」

「マジですか!?」

 予想外すぎて声が裏返った。

「あぁ。大マジだ!今商品持ってくっからちょっと待ってな」

 そう言って奥にまた消えたが、すぐに片手に袋を持って戻ってきた。

「じゃ、おだいは千ゴールドな!」

「はい。これで丁度!ありがとうございます!」

 お金を渡し、袋を受け取る。

「おうよ!気ぃつけてな!」

「はいっ!」

 店から出るとすぐに袋の中身を確認した。それは買った時並に綺麗になっていて、ついでに重さはあまり変わらないのに厚さが増していた。
 これが強化ってことか?あの兄ちゃん扱いの難しい鋼を直すだけじゃ飽き足らず強化まで……
 入った時は真っ暗だったからよくわからなかったが、すげえ。やっぱりすげぇよこの街。

「お?勇者ではないか!」

 いつもならこんなに愛想よく話しかけてこないはずのアンナが、妙なハイテンションで話しかけてきた。

「お、おう……どうした?」

「なっ、なにがだ?」

「いや、そっちから話しかけてきたんじゃないか……なんか少し変だな……」

「なにもおかしくなんてないぞ?なにもな!」

「それならそれでいいんだが……」

 どうしたんだ?なんか、いつもの女王様っぽい貫禄がないな。
 洋服屋にでもいって女の子としての部分が出たとか、そんなところか?
 なら、すごく可愛い。可愛いのだが。

「なぁ、俺とバニラは今日の昼頃二人で出かけていた。と、思うんだが夢だと思うか?」

 この問いに大してこいつが夢だ!絶対に夢だ!お前は館でずっと眠ってた。私が保証する。とまで言ってくれさえすれば、確実に嘘だとわかるのでこいつは黒だとわかる。
 祈るような気持ちで答えを待っていると、彼女は口を開いた。

「……あぁ。そうだ。お前は館でずっと眠っていた。私も近くにいたからそれは保証しよう」

 馬鹿め。罠にかかりよったぞ。

「……ねぇ、アンナ」

 今度は逃がさないように、しっかりと小さな肩を両手で掴んでおく。

「な、なに?」

「バニラと俺が朝から出かけたのはもうバニラから聞いたんだ。そのあと何が起きたかを聞こうとしたら逃げられちまったがな……」

 アンナは逃げようとするが、俺がそれを許さない。

「アンナ……一体俺になにをした!」

「ご、ごめんなさいっ!」

 元魔王とは思えないほどの黄色い声を彼女はあげて、今にも泣き出しそうな程に目をうるうるとさせていた。
 ほんの一瞬、そんな姿に俺は油断した。その時だった。魔王は俺の手を振りほどくと両手を空いっぱいに掲げ、巨大な火の玉を作り出した。
 なんだこの既視感は……まさか。ここから元気をくれ。とか言ったりしないよな?

「……勇者よ。思い出さない方がいい記憶ってのもあるのさ。君は知ろうとしすぎた」

「待て!待ってくれ!いいから落ち着け?な?」

 ジョークもクソもなく奴は、俺に向かってそれを投げようとしてくる。

「だから、待てって!!そう焦るなって!」

 魔王は優しい笑みを浮かべて見せた後に、その玉をこちらへと向ける。
 あぁ、終わった。さよなら俺の人生……

「待ちなさい!!」

 諦めかけていた俺の命を鶴の一声で繋ぎとめたのは、ミカエルさんだった。マジ天使。大好き!

「……何故だ?なぜ止めるの?」

「流石にやりすぎだ。本当に死んだらまずいでしょ?」

「それもそうか……」

 ん?…………あれ?本当に死んだらまずい?やりすぎだ?……それはおかしい。俺、死んでもよかったんですかね?
 ミカエルさんがこれ全部仕組んだのか?なら、さっきの発言にも納得がいく。でも、動機がわからない。なぜ俺の記憶を消したんだ?

「ねえ、ミカエルさん!」

「……なに?立て込んでいるのだけれど」

「全部あんたがやったのか?」

「どうでしょうね。でも、ヒントをあげるわ。実行犯は私ではないの。その犯人が分かればその人から動機くらいなら聞けるんじゃない?私はそれの手助けをしただけよ」

「手助けをしただけ?」

「そうよ」

 なら、俺の記憶を消して得するやつが犯人ってことになる……一体、誰だ?
 バニラは多分違う。あいつの剛腕で殴られて気を失った。とかだったら俺がベットで目を覚ますことは無かっただろうし、ライドンさんには犯行がまず不可能だ。そして、最有力候補だったミカエルさんでもないとなるともう、一人しかいない。

「犯人は……あなただ!!」

 そう言って、超高校級の元魔王であるアンナを指さした。
 決まった。一度やってみたかったんだよなぁ。

「……え?ななななんでそうなるの!?私はそんなことしないわよ!動機なんてないし!」

「それは今から聞くよ。犯人はアンナしかいないんだ。それしか考えられない」

「なんでよ!ミカエルさんが嘘をついてるかもしれないし、バニラの可能性だってあるでしょ!?」

「いや、それはない。ミカエルさんは嘘が大嫌いだからな。バニラはない。だって馬鹿だし」

「……そうね。私よ。私がやったわ」

 案外あっさり認められたのであまりそれっぽさがなかったが、事件ということでもないので別にいいか。

「なんでこんなことをした?」

 すると、ゆっくりと口を開いた。

「……だ、だって…あんなの……は、は恥ずかしいし……」

 人差し指と人差し指の先をツンツン当てながら、こちらをチラチラと見て、噴水の音にかき消される程の小声で何かを言った。

「ん?なに?聞こえないんだが?」

「うぅ……」

 彼女は目を見開いて怒ったような表情をするが、言葉に詰まったのか唸るだけだった。なにこれかわいいんすけど?

「あ、ひとつ言い忘れたわ」

 横にいたミカエルさんが、急に思い出したようにそういう。

「……なにをですかね?」

「あまりしつこい男は嫌われるってね」

 彼女は意地悪な笑顔を浮かべてそういう。

「……嫌われる……だと?」

 それだけは絶対に嫌だ……

「ご、ごめん……」

  謝るとアンナはぷいっとあさっての方向を向いて、俺から逃げるようにどこかに行った。

「やっちまった……」

 というか、なんでそんなことをミカエルさんは早く教えてくれないんだ。見ろ!嫌われちまったじゃねえか……膝を折り、地面へと崩れ落ちる。
 告白の答えですらまで貰えてないのに。

「無様ね。勇者とは思えないわ」

「……まあ、敵の仕業じゃねえなら問題はないしな。理由は気になるが、そこまで気にしてないさ」

「そう。ならよかったわ。私、そろそろ用事があるからまたね」

 そう言って彼女も去っていった。

「用事か。旅してんのにそんなものがあるのか。忙しいな……」

 みんなと別れた後、特にやることがなくなった俺は、先に館に戻ることにした。ライドンさんも心配だしな。
 館に戻るとあのおじさんが丁寧に出迎えてくれた。
 靴をスリッパに履き替えると、自分の部屋に装備やらの荷物を置くために戻ろうとすると、後から声がかかった。

「あ、そういえば旅のお方、お仲間の方がが目を覚ましましたよ」

「えっ!マジっすか!?」

 自分でも思ってないくらいの速度で反応した。いや、今はそんなこと関係ない。今はそんなことよりもライドンさんだ!

「はい。左様でございます」

「今どこにいます!?」

「今は簡単な軽食の方を部屋に運んだので、そちらにいらっしゃると思いますよ。よろしければご案内しましょうか?」

「お願いします!」

 おじさんに頭を下げると彼は快く「では、こちらへ」と、言って俺を先導してくれた。
 そして、ずらぁっと並んだドアの中のひとつ。彼はそこで立ち止まった。といえど中から聞き覚えのある「がっはっはっはっはー!!」という特徴的な笑い声が聞こえてくる。

「こちらになります」

「ありがとうございます」

 礼を言って頭を下げて執事さんを見送ると、ゆっくりドアを開いた。
 すると、そこにはライドンさんはいた。

「ライドンさん!」

「おう!!マルク!」

「マルクおっそい!!」

 中にはベットで横になってるライドンさんの横の椅子に腰掛けて、頬をぷくぅっと膨らませているバニラ。
 うん。至って普通のことだ。でも、なんだろ?妙な違和感があった。

続く。
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