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四話
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四話
仕方なくタクシーで家に帰り、奴を背負ってリビングに連れていく。
「ほら、着いたぞ」
「んぁ……」
反応はあるが目を覚ます様子はない。
さてはこいつ俺の事男だと思ってないな?
もう学生の頃とは違うんだぞ。世間知らずというかなんというか……
「……はぁ。まあいいや。部屋に連れてくか」
彼女の部屋、というと少し語弊があるな。
一日嫁達が宿泊出来るように嫁を迎える側には、鍵付きの部屋を一つ空けて一日嫁に鍵と共に差し出さなければならない。という規則がある。
そんな家に一年もいたのだが、引っ越してきた時に間取りの確認として入った時以来、中に入ったことは無い。
「今はこいつの部屋なんだよな……」
二十歳超えて何やってんだかって感じだけど、仲良くなったことのある女子なんて居ないし、ましてや女子の部屋ともなると緊張してしまうのは、思春期を上手く過ごせなかった俺みたいなやつには仕方ないことなのだ。
「……いやいや、別に何かをするわけじゃない。ベッドに寝かせたら出てくだけ。よし!」
気合いを入れてドアを開くと、何処を見ても脱ぎ捨てられた服やゴミばかりで、足の踏み場もない。
「マジか……」
俺の家がいつの間にかゴミ屋敷になってるとかこの短期間によくここまで汚したなとか普遍的な反応は全く出来ない。ただ、俺のほんわかとした女の子の部屋に対する期待は木っ端微塵に砕けたのだった。
****
翌朝、俺が目を覚ましたのは八時を回った頃だった。俺にしては遅い目覚めだったがもう早起きする理由もないし、とりあえずなんか少し腹に入れるか。
元々実家では大体俺が家事をしていたから、料理が出来ないとか掃除が苦手というわけではない。むしろ好きな方なため、ちょっとここに立つのが嬉しかったりもする。
「うーん。どうするか。サクッと作って終わらせちまうか」
……でも待てよ? 久しぶりに作るんだし凝ったもん作るのもありだな。
なんて思いながら冷蔵庫の中に目をやると、ビールと卵とハムくらいしかない。野菜室も冷凍庫もすっからかん。
これじゃ目玉焼きとくらいしか作れないな。
「……しゃーない。朝から買い出しは嫌だしな」
***
ご飯の用意がほとんど終わったタイミングで、あの汚部屋の方からドンッ! と、音がした。
「うぅ……」
それと野獣のような呻き声も聞こえてきた。
「……こりゃ結構来てる感じっすかね。おーい。大丈夫か?」
奴の部屋のドア越しにそう聞くと、ドアがゆっくりと開いた。
「おはよう……うぅ。気持ち悪い……」
「ほれ、水……って、お前!」
「うぅ……ありがとう……なに? どうかした?」
昨日の感じを見てたらこうなるのはなんとなく想像できた。
でもさ、ちょっと服装考えてくれんかな。確か昨日はあのままベッドの中に入れて退避したはずだ。それなのに彼女は下着姿だった。
「あ、ああ。朝ごはんはあるから気分良くなったらこいよ」
「うん? わかった……」
俺は逃げるように彼女に水を渡すと、極力その白い肌とか黒い下着とかを視界に入れないようにしてリビングへともどった。
さっきの衝撃的なブツを忘れるためにテレビをつけるとあと少しでゴールデンウィークとか旅行とか書いてある。
世間は休みか。俺も休みたい。だけど、そろそろ長編のやつ片付けないと……はぁ……
朝飯を腹に入れつつ、ノートパソコンを開いてみたがやはり進んでない。勝手に進んでてくれんかね。これ……
「さっきはごめんね」
「うわっ! な、なんだ。お前か……」
いつの間にか奴が背後にいた。俺が剣士だったら俺の後ろに立つな。とか言って斬り捨ててる。
「ふっ! 修行が足りてない。そう簡単に人に背後を取らせちゃいけないよ」
「俺は修行僧でも剣士でもありません」
「で? 私に言うことは?」
「うーん……どうするかな……」
彼女のことは一旦放っておいて、今は仕事に集中だ。
「何書いてるの?」
「ラブコメ」
「そうじゃなくってどんな話?」
「教えない」
「ふーん」
それから彼女は何も言わなくなった。
よし、これで作業に集中……そう思った時だった。彼女が俺の隣に座って彼女もまた自分のPCを開いて作業を始めたのは。
「な、なんだよ?」
「別にー」
そして、流れる沈黙。
そんな中俺に舞い込んできた感情は隣にラベンダーでも咲いてるのかってくらいのいい匂いとか、肩とかがちょっと触れ合っちゃっててドギマギするとかじゃなく、ここから動いた方が負けだなという心情だった。
こいつ、何も思わないのか? 一応俺男だぞ……? 男はみんなケダモノなんだぞ!
不意に目と目が合い、彼女は不思議そうにこちらを見る。
「さっきからジロジロ見てどーしたの?」
……どっちだ? 分って言ってるのか?
俺を童貞呼ばわりするような腐れビッチだし、わかってて俺をからかうために言ってる可能性もあるが、さっきの首を傾げるような反応………どっちだ? もしかしてわかってないのか? 昔から少し抜けてる所があるやつではあったし、男子だろうと女子だろうと同じようにやつは接してきていたのだ。その刷り込みのせいで俺にはまだ彼女の真意に判断が付かずにいた。
「なんでもねえよ……」
大きな当たりを上げさせないために俺は外角にスライダーを投げ込む。
「……コーヒー飲む?」
「えっ?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
「うん? どーしたの?」
「あ、あぁ。別に。お願いするよ」
「砂糖とミルクは?」
「多めで頼む」
「りょーかい!」
そう言って彼女はキッチンへと向かっていった。意外といいところあるじゃないか。
って、いかんいかん。手は止まってたし無駄なことを考えすぎたな。まずは原稿だ。そろそろ缶ずめらないと間に合いそうにない。
締切の期限は刻一刻と迫ってきていたのだった。
仕方なくタクシーで家に帰り、奴を背負ってリビングに連れていく。
「ほら、着いたぞ」
「んぁ……」
反応はあるが目を覚ます様子はない。
さてはこいつ俺の事男だと思ってないな?
もう学生の頃とは違うんだぞ。世間知らずというかなんというか……
「……はぁ。まあいいや。部屋に連れてくか」
彼女の部屋、というと少し語弊があるな。
一日嫁達が宿泊出来るように嫁を迎える側には、鍵付きの部屋を一つ空けて一日嫁に鍵と共に差し出さなければならない。という規則がある。
そんな家に一年もいたのだが、引っ越してきた時に間取りの確認として入った時以来、中に入ったことは無い。
「今はこいつの部屋なんだよな……」
二十歳超えて何やってんだかって感じだけど、仲良くなったことのある女子なんて居ないし、ましてや女子の部屋ともなると緊張してしまうのは、思春期を上手く過ごせなかった俺みたいなやつには仕方ないことなのだ。
「……いやいや、別に何かをするわけじゃない。ベッドに寝かせたら出てくだけ。よし!」
気合いを入れてドアを開くと、何処を見ても脱ぎ捨てられた服やゴミばかりで、足の踏み場もない。
「マジか……」
俺の家がいつの間にかゴミ屋敷になってるとかこの短期間によくここまで汚したなとか普遍的な反応は全く出来ない。ただ、俺のほんわかとした女の子の部屋に対する期待は木っ端微塵に砕けたのだった。
****
翌朝、俺が目を覚ましたのは八時を回った頃だった。俺にしては遅い目覚めだったがもう早起きする理由もないし、とりあえずなんか少し腹に入れるか。
元々実家では大体俺が家事をしていたから、料理が出来ないとか掃除が苦手というわけではない。むしろ好きな方なため、ちょっとここに立つのが嬉しかったりもする。
「うーん。どうするか。サクッと作って終わらせちまうか」
……でも待てよ? 久しぶりに作るんだし凝ったもん作るのもありだな。
なんて思いながら冷蔵庫の中に目をやると、ビールと卵とハムくらいしかない。野菜室も冷凍庫もすっからかん。
これじゃ目玉焼きとくらいしか作れないな。
「……しゃーない。朝から買い出しは嫌だしな」
***
ご飯の用意がほとんど終わったタイミングで、あの汚部屋の方からドンッ! と、音がした。
「うぅ……」
それと野獣のような呻き声も聞こえてきた。
「……こりゃ結構来てる感じっすかね。おーい。大丈夫か?」
奴の部屋のドア越しにそう聞くと、ドアがゆっくりと開いた。
「おはよう……うぅ。気持ち悪い……」
「ほれ、水……って、お前!」
「うぅ……ありがとう……なに? どうかした?」
昨日の感じを見てたらこうなるのはなんとなく想像できた。
でもさ、ちょっと服装考えてくれんかな。確か昨日はあのままベッドの中に入れて退避したはずだ。それなのに彼女は下着姿だった。
「あ、ああ。朝ごはんはあるから気分良くなったらこいよ」
「うん? わかった……」
俺は逃げるように彼女に水を渡すと、極力その白い肌とか黒い下着とかを視界に入れないようにしてリビングへともどった。
さっきの衝撃的なブツを忘れるためにテレビをつけるとあと少しでゴールデンウィークとか旅行とか書いてある。
世間は休みか。俺も休みたい。だけど、そろそろ長編のやつ片付けないと……はぁ……
朝飯を腹に入れつつ、ノートパソコンを開いてみたがやはり進んでない。勝手に進んでてくれんかね。これ……
「さっきはごめんね」
「うわっ! な、なんだ。お前か……」
いつの間にか奴が背後にいた。俺が剣士だったら俺の後ろに立つな。とか言って斬り捨ててる。
「ふっ! 修行が足りてない。そう簡単に人に背後を取らせちゃいけないよ」
「俺は修行僧でも剣士でもありません」
「で? 私に言うことは?」
「うーん……どうするかな……」
彼女のことは一旦放っておいて、今は仕事に集中だ。
「何書いてるの?」
「ラブコメ」
「そうじゃなくってどんな話?」
「教えない」
「ふーん」
それから彼女は何も言わなくなった。
よし、これで作業に集中……そう思った時だった。彼女が俺の隣に座って彼女もまた自分のPCを開いて作業を始めたのは。
「な、なんだよ?」
「別にー」
そして、流れる沈黙。
そんな中俺に舞い込んできた感情は隣にラベンダーでも咲いてるのかってくらいのいい匂いとか、肩とかがちょっと触れ合っちゃっててドギマギするとかじゃなく、ここから動いた方が負けだなという心情だった。
こいつ、何も思わないのか? 一応俺男だぞ……? 男はみんなケダモノなんだぞ!
不意に目と目が合い、彼女は不思議そうにこちらを見る。
「さっきからジロジロ見てどーしたの?」
……どっちだ? 分って言ってるのか?
俺を童貞呼ばわりするような腐れビッチだし、わかってて俺をからかうために言ってる可能性もあるが、さっきの首を傾げるような反応………どっちだ? もしかしてわかってないのか? 昔から少し抜けてる所があるやつではあったし、男子だろうと女子だろうと同じようにやつは接してきていたのだ。その刷り込みのせいで俺にはまだ彼女の真意に判断が付かずにいた。
「なんでもねえよ……」
大きな当たりを上げさせないために俺は外角にスライダーを投げ込む。
「……コーヒー飲む?」
「えっ?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
「うん? どーしたの?」
「あ、あぁ。別に。お願いするよ」
「砂糖とミルクは?」
「多めで頼む」
「りょーかい!」
そう言って彼女はキッチンへと向かっていった。意外といいところあるじゃないか。
って、いかんいかん。手は止まってたし無駄なことを考えすぎたな。まずは原稿だ。そろそろ缶ずめらないと間に合いそうにない。
締切の期限は刻一刻と迫ってきていたのだった。
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