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五十六話

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【俺の妹になってください】

五十六話

~ あらすじ ~

今日から家には家族がいる。……正直辛いです。

*****

「………姉さん?わかってるの?こういうことするってどうなるか?」

「はぁはぁ………正直、たまりません!!」

睨みつけたらただの痴女になりやがった。もっと隠せよばっかじゃねえのこいつ!!

「あ、そうだ。今日は私がご飯を作っちゃうわよー!!」

「「「それだけは勘弁してくれ!!」」」

「あら、息ぴったり」

そりゃ息も合うわ。なにをいっちゃってんのこの人。姉さんは独学であんなに料理が上手くなってるのにこの人、母親はというと年々酷くなっていく。というか一昨年、父さん母さんの飯食って倒れたんだけど。それでまだ作る気かよ。

「いいから。頼むから母さんは座ってて?」

俺がそういうので他二人に助けを求めようと母は目線を送っていたが、二人からも大きく頷かれてしまい、母さんはあからさまにしょぼーんと落ち込んだ。

「姉さん。ご飯作って?」

このまま何も作らなければ母が暴走する恐れがあるため、早くなにか食わせて黙らせんとまずい。

「わかったわ。母さん拘束して少し待ってて!!」

「わかった!」

まあ、こんな感じで家に荷物が増えるのだ。

ただでさえ姉さんいるのに………

とりあえず、どうにか子離れ、弟離れするまではどうにかしないと本当に何をするかわからない。

母さんは何故か俺に抑えられてるのに嬉しそうだし、父さんは母さんと絡むとろくなことがない。

父さんを離しながら母さんを抑える。

もうめんどくせえ………

早く姉さん帰ってきてくれ………

「はい!!出来たわよ!」

これまでで最速で飯を作って持ってきてくれた。

四人分だぞ………まだ十分経ってねえよ。それをこんな………いとも簡単に………

「久しぶりに本気出したわぁ」

と、満足げに語る姉さんはかっこよく感じた。

………いや、違う。これはヒーローものの助けてもらったヒロイン的な立ち位置だからなんだ。

そして、久しぶりの家族団欒………といえば響きはいいだろうが、家族団欒というよりかは遊園地みたいな騒がしさがある。

家に入ってきた人がいるとしたらここはチンパンジーでもかってるのか。またはパチンコ屋にでも間違えて入ったのかと勘違いされるレベル。

「………お祭り騒ぎね」

「………あぁ………って、柏木!?」

音もなく俺の横に忍び寄ってくるとはお前上忍か?みんな全然気づいてないぞ。というかいいのか。不法侵入されてるんだが……

「一応ピンポンは押したんだけど、中から騒がしいのが聞こえてきたからね……」

「それは………すまなかったな」

ご近所さんごめんなさい。うちの親は馬鹿なんです。止まんねえんですわ。俺なら止めれるという方は是非挙手を。変わってあげます。

「いや、春樹はなにもしてないじゃん」

「あー!!!まいまいじゃーーん!!!」

見つかった………

果たして柏木は逃げ切ることが出来るか!?

「ど、どうも………」

「ささ!!こっちこっち!!」

露骨に嫌そうな顔をして俺に助けを求めてくるが、それは無理な話だ。

ごめんな。舞。と、手を合わせて謝る。

そして、渋々とあっちに行く舞。

「ほらほらぁーー脱げ」

「や、やめてください!酔ってるからってなにしてるんですか!?」

「え?よってらいよ?」

え?いつの間に呑んでたの?飲んだら余計駄目じゃん。

「じゃ、まいまい!!野球挙しよーー!!!」

「しませんよ!!そんなこと!!」

「じゃんけーんぽんっ!」

まるで聞いてない。まあ、飽きればどうにかなるだろうしとりあえずは様子見かな。

「はーい!!まいまいのまけぇ…ということで脱いでね!!」

そして、じゃんけんは続き、母さんの尋常ではないじゃんけんの強さがにじみでる。柏木がみるみるうちに脱がされていく……

そろそろ喝入れないとまずいな。あのままじゃ全裸にされるわ。

「やりすぎだ」

頭にグーで軽く殴ってやると、母さんは俺の顔を見上げてしばらく見つめたあとに、顔を歪めた。

「うぇぇぇーん!!!」

まるで子供のように泣きじゃくる母さん。な、何が起きた?かなり弱めにやったぞ?それも三歳児の子にやるくらいに軽く優しくだ。

「母さんになんてことするんだ!!」

父さんが久しぶりに……いや、はじめて怒った。親を打つのは流石にやりすぎたか?

怒られる?俺が?いや、でも本気だ。

「………でも、泣く母さんもいい!!」

親指を立てて嬉しそうに笑う。

………ここから真面目に怒られるのかな?なんて思った俺が馬鹿だった。もう、好きにしてくれよ。

それからもどんちゃん騒ぎは続いた。

*****

「ぐっ!」

俺は腹に痛烈な痛みを覚えて目を覚ました。

痛みの原因は横で寝ていた柏木の蹴りによるものだった。

すやすやと赤子のように心地良さげに眠っているにどうやったらこんな鋭い蹴りが出来るんだか………

すっかり目が覚めてしまったので、とりあえず散らかしっ放しのこの物から片付けないとな。

そして、食器を洗っていると柏木がこっちに目を擦りながらやってきた。

「悪い起こしちまったか?」

そう聞くと柏木はとろんとした寝起きの表情のまま首を横に振って俺の横に立つ。

「……ん?どうしたんだ?」

「手伝う」

「寝起きなんだし別にいいぞ。風邪ひいてもあれだし、そっちいってコタツの中にでも入ってな」

「こうすれば温かいよ?」

そう言って体を擦り付けてくる。

なんだ?いつからこいつはビッチになったんだ?

「ど、どうした?たしかに暖かいかも知れないが、こたつの方が………」

「いいの!!春樹と一緒がいいの!!」

「………そうか。わかったよ」

なんだかんだで俺はこいつに甘いのかもしれない。

でも、まあ、彼女と二人で台所に立って皿洗いってのも悪くは無いかな。

「……あのさ、春樹。私ね、時々不安になることがあるの」

「……なんだ?」

「春樹がどっかに行っちゃうんじゃないかって」

「昔から俺はどこにも行ってないだろ?」

「…………馬鹿」

「ん?なんだよ?」

「いいよ!!もう!バカ春樹!!」

「へいへい馬鹿で悪うござんした」

それから皿洗いも終わってコーヒーを入れる。柏木は甘いのがいいんだっけか?

「柏木は甘いのがよかったっけ?」

さっきからプンスカ怒っていてろくに口を聞いてくれない。………さっきの話まともに聞いておけばよかったかな?

一応両方入れて持っていく。

俺のは気分的にブラックな気分だったため、ブラックだ。

「なぁ、そろそろ機嫌直せよ。俺が悪かったからさ?」

「………春樹はさ、私じゃなくても別にいいもんね。三ヶ森さんとか居るし………」

「え?何の話だ?」

「言ってくれないとわからないって言ったのは春樹だよ!!だから、私は言うようにした!!だけど春樹は私になにも言ってくれない!!」

そう涙ながらに言い残して柏木は家を飛び出して行った。

なんだったんだ?

…………にしてもこのコーヒー苦いな。ブラック注いだだったな。

「あーあ、春樹」

「ね、姉さん………起きてたの?」

「まあねー。」

「さっきの柏木は一体なんだったんだろ?」

「女の子はね、態度もそうだけどしっかり言葉にしてほしいんだよ」

「言葉に?」

「お前を絶対離さないから。みたいな?」

「………なにそれ。引くんですけど……」

「で、も!!女の子ってこういうのに意外と弱いもんなんだぜ?わかったならば行った行った!!青年よ頑張れ!!」

そう言われて俺も家から追い出されるような形で家を出る。

言葉に………か。

確かに俺は柏木に対してはデレないように、本当のことは言わないようにって恥ずかしさを抑えるように自分の心も押し殺してきた。

確かに俺は言われないとわからねえって柏木に向かって言ったことがある。

だから、俺だって言わないと柏木がわかるわけがないのだ。

とりあえず、なんと言おうか考えていると、いつの間にか柏木の家の前まで来てしまっていた。

恐る恐るピンポンに指を伸ばす。

ピーンポーンと、音がなりしばらく待つと知った声が帰ってきた。

「はい?」

「俺だ。風見だ」

「………どちら様ですか?そんな人知りませーん」

ブチッ!!

そう言って切られてしまった。

どうしようかね………

もう一度ピンポンを押してみるが反応がない。

………家パジャマのまま追い出されてクソ寒いが、とりあえず少し待ってみるか。

………出てこない。

それに追い打ちをかけるように雪まで降ってきた。

「本当にどうしよう………」

こいつに謝るのが先か雪に殺されるのが先か………

まだ深夜帯だし寒さが尋常ではない。それに雪だ。

本当に死ぬかもな………

玄関前に腰を下ろしてとりあえず、死なないように眠らないように意識を持つ。

…………

眠るな…………俺………

あれから何時間という時がたったのだろう。時間の流れが止まっているかのように感じる。

ガチャ。

と、扉が開いた。

やっと出てきてくれた………

早く謝らないと………

あ、あれ?身体が言うことを聞かない………立てない……

「は、春樹くん!?舞!!大変!!はるきくんが死んじゃう!!!」

******

「……………んぁ?」

ここは?目覚めると号泣している柏木が布団を濡らしていた。

「は。春樹が………春樹が………」

「どうしたんだよ………」

「死んじゃう…………ん?て、は、春樹!?起きた!お母さん!はるき起きた!」

涙を拭いながら部屋から勢いよく出ていった。

そう言えばなにがあったんだっけか………頭というよりかは身体が痛い。

起き上がろうとすると足の指がビクビクと痙攣を起こしている。

すげえな。なんか、勝手に動くわ。でも、起き上がれない。体に鉛でもつけられてるみたいだ。

「春樹くん!?起きたのね!お医者さん呼んだんだけど、すごい吹雪でね………」

「確かに凄そうですね………」

音だけでもわかるほどに外は荒れまくっていた。

「春樹………ごめんなさい………」

「あ、そうだ……舞………ごめんな。俺はお前のことがす………」

「待って!!それ以上言わないで!!」

涙をポロポロとこぼして大声で俺の言おうとした言葉を封じてきた。

「………なんでだよ?」

色々と身体が痛いのもあるのだが、頭まで痛くなってきた。

「それから先は治ってからまた聞かせて……」

そう言い残し、柏木は部屋から出ていった。

………なんでだよ。

俺がここに来た意味がないじゃないかよ……

「……治したら話聞いてくれるってよ?」

なんだ?この人………って、柏木のお母さんか。まだ居たのか。

「そ、そうですか………というか、今何時ですか?」

「もうそろそろ日暮れだよ」

「そうなんですか………って、あれ?お仕事は……」

「休みを貰ったわ」

「………ごめんなさい」

「そんなことは気にしないで?………私こそごめんね。あの子、ずっと私たちが共働きで世話なんて全くしてこなかった……だけどね、今更って感じもするけど、私はあの子に幸せになって欲しいって、泣かないで欲しいって思うんだ。変だよね。親らしいことなんて何一つしてないのにね…」

その表情はなによりも優しく暖かなものだった。

「何言ってるんですか……そんな優しい顔ができる人がなにもしてないわけないじゃないですか……きっと舞だってそんなこと微塵も思ってないですよ………」

「ありがとね……そう言ってもらえて嬉しいわ………舞に男の見分け方なんて教えてないのに、本当にいい子を連れてきたわね。本当に舞には勿体無いほどの優しい子をね………前までこんなに小さな子供だったのに、もう男を見れるまでに大きくなったのね………」

………流石にそんなことを涙を浮かべながら語られても反応に困る。

すげえ、恥ずかしいわ………

「春樹くん。わがままで不出来な子だけどよろしくね」

「………任せてください。と言っても迷惑かけてばっかりなんですけどね……」

と、冗談を挟んで笑っておく。そうすると彼女も微笑んでみせた。

やっぱり、この親御さんの元で育てられたからあんな子になったんだろう。

誰よりも心優しい芯の強い子に。本当に俺にはもったいないくらいだ。でも、舞が言ってくれた。好きだって。だから、お母さん。ありがとう。こんなにいい子を俺なんかに預けてくれて………

さて、俺、今どうなってるんだろ?

体がいうことを聞かない。起き上がれない。そんなところだ。

だがそれがなんだというのだ。俺は頑丈に出来てる。絶対にこんなところじゃ死なねえよ。

自分自身に暗示をかける。

折角舞を預かったのに、こんなところに舞を一人で置いて訳の分からんところには行けないからな。

だが、いくら毛布をかけてもらっても寒い………なんだよ。雪にでもくるまってんのか?

俺の体は思いとは裏腹にどんどんと蝕まれていく。

眠ったら終わりだ。もう目覚めれないような気がする。

眠るな………眠るな………

「先生!!」

意識朦朧の中、そんな声が聞こえたのを最後に俺は気を失った。


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