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五十二話

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【俺の妹になってください】

五十二話

~ あらすじ ~

学校に行ってみたが柏木は休み、そして、授業も終わり家に帰ると姉さんが柏木とのことを追求してきた。

*****

「ノックくらいしてから入ってこいよ」

コンコン。と、姉さんは開いたドアを叩く。

「全く………」

「ねえねえ。春樹。私とエッチしよ!!」

「……………意味のわからないこと言わないでくれないか?姉さんの相手をしてる暇はないんだけど?」

「私ね、春樹のこと好きじゃん?」

まるで聞いてない。小学校低学年の子ども用のようだ。

「あー。そうね」

「だから、エッチしたいのっ!!」

「………あの、頭大丈夫ですか?姉弟だし、姉さんで童貞を捨てたくないんだけど?」

「大丈夫。私も初めてだから………」

頬から耳を真っ赤に染めて太ももを擦り合わせてもじもじする。

「トイレか?なら、部屋出て左の扉だぞ」

「もう、春樹のいけずっ!」

「で、用はなんだ?」

「えっと………ね?」

と、姉さんがなぜか渋る。なんで言わないんだろうか?仕方なく姉さんの方に目を送ると姉さんはドアの方を見ていた。

姉さんの視線の先には………

アイツがいた。

あいつだ。

「…………な、なんで?なぜ、お前がここに?」

「………ひ、久しぶりだね。春樹」

彼女は愛想笑い程度に笑みを浮かべてそう言った。

「………三日くらいしか経ってないけどな」

柏木だ。俺の彼女だった奴だ。

「今更なんだ?もうお前と俺は………」

「春樹。言ったよね?私は諦めないって」

俺の言葉を遮るって彼女は続けた。

「なら、諦めろ。俺とお前じゃダメなんだよ」

「だったら、一回だけ。一回だけでいいからデートさせて?そうすれば諦めもつくから………」

一回………か。

それやれば諦めてくれるんだ。なら、いいか。

「わかった。じゃ、今度の休日にでも行こうか」

そう言うと、満面の笑みを浮かべて「うんっ!!」と、無垢な子供のように言った。

日程は次の週末ということになった。

それからはこれまでの日々が嘘のことのように流れ、週末になった。

十一月半ばの土曜日。いつもならば俺は家でぐーたらしているような時間帯であるのだが、今日はあいつに振られる日。憂鬱になりつつも幕張駅前まで来ていた。

「にしても………遅い………」

集合は確か十時だったのに、時計はもう十時半を指していた。

九時半から待ってるので、もう一時間は待った。あいつは来なかったんだしならそれならそれでいいだろう。

「きゃぁぁ!!!!」

帰ろうとした途端に悲鳴が聞こえてきた。

まあ、今は午前十時半。ここがもしも夜遅い時間帯の路地だったりすれば俺も助けようだなんて考えに至るのだろうが、この時間ならば人もそこら中に居るし、警察の方だって居るだろう。

一般庶民の俺はさっさと帰るか。

帰ろうとしていたのに、その現場はスグそこにあった。

「…………は?」

誰かが四人組の男共に囲まれて震えていた。

「や、やめてください。今から彼氏とデートなので………」

「えー?そんな奴らより俺らと遊ぼうよー。きっと楽しいよ?いや、絶対かっ!」

……なぜ誰も止めないんだろうか?完全に嫌がってるじゃないか。道を行く人々はみんな見て見ぬ振りをする。警察はこういう時にいるものじゃないんだろうか?

俺はなぜか、その集団に話しかけていた。

「なあ、みんなで何やってるの?」

「あ?」

話しかけると、ギロっと殺気のある目で睨みつけられたが、こっちも負けじと殺気を漂わせてみる。そして、睨み合いが数秒続いてから、リーダーらしき金髪の美少年が大きなため息をついてから

「………なんか、シラケたし行こうぜ?」

と、続けた。

残りの三人もそいつに乗って逃げていった。いや、去っていってくれた。

ふ、ふぅ………助かった。

じゃなくて、女の子どうなったんだ!!ぱっと見ると、彼女は蹲っていた。

「もう大丈………」

そこまで言ったところで、既視感を覚えた。

ん?なんだろ?このサイズ感………どっかで見たことあるな………

「って、柏木か!?」

驚きのあまり声を上げる。

「…………へ?」

彼女は顔を上げるとあっけらかんとしていたが、俺の顔を数秒見つめると、彼女は涙をながらに満面の笑みで胸の中に飛び込んできた。

「は、春樹っ!!」

「…………まあ、いいか」

それもつかの間、人の視線が痛い。

駅前なんだし、少しは考えてくれないものか……

「なぁ、柏木。………そのさ、どうする?」

「………え?なんのこと?」

「………デートするのか?今日は災難だったし特別にまた今度でもいいんだぞ?」

「デートするに決まってるじゃないっ!行くわよ。春樹っ!!」

また今日も振り回されるのか……

でも、これが最後だ。

そして、幕張巡りが始まった。

やることと言えば、俺を引っ連れ回して洋服屋やら雑貨屋巡りをしたり…………なんかもう、無茶苦茶だ。

流石に体力的な面で持ちそうにないので、一旦トイレへと避難する。

はぁ。やべえ………あいつテンション高すぎる。まだ昼前なのにかなり疲れた。

でも、嫌ではない。むしろ…………いや、ダメだ。あいつと俺は釣り合わないってところを今日証明して、しっかり別れてあいつには幸せになってもらうんだ。

そう決意し、トイレから戻る。

「よし、じゃ、続き行くよーー!!!」

決意して戻ったのはいいのだが、結局あいつのペースに巻き込まれてあちらこちらへと行き来しまくる。

なんの部活だこれは?辛すぎるだろ。部活、やったことないけど。

「な、なぁ?そろそろ休憩しないか?」

「あ、あぁ………そうね。休憩にしましょうか」

「一般庶民に優しいお店にでも入ってのんびりしようか?」

「別にいいけどって、またサイゼ?」

「ま、まあ、いいだろう?」

財布の中、前のステーキでかなりピンチだから節約しないといけねえんだよ………

純粋に高校生には財力がない。

*****

店員に連れられるがまま二人用の席につき、いつも通りにドリアとドリンクバーを頼む。

柏木はたらこスパゲッティとドリンクバーにしたようだ。

店員が去ってから柏木は前髪をいじってみたり、ポニーテールを撫でてみたりとそんなことをして遊んでいた。

それに不覚にも見とれてしまった。というのは言わなければバレないのである。

あいつが話しかけてくることもないので、俺は静かにスマホを取り出して今日ログインですらしてなかったゲームを起動させていた。

なんでかわからないが、今日はなぜか柏木らしさがない。

どこか可愛らしい。

こんなことを言えばいつもは可愛くなかったのか?ということにもなりそうだが、そういう訳ではなく、いつもよりもそう、女子力が高いような気がした。

服装はピンク色のマフラーとちょっと明るめのベージュコートに黒い手提げバッグ。そして、化粧をしているのかしてないのかも分からないほどのナチュラルメイク。別段、服装やらメイクなどをいつもより奇抜にしたとかそういうものは見受けられない。………のに何故だ?なぜこんなに可愛らしく見えるのだろうか?

なんてことを考えていると頼んでいたものが運ばれてきた。

「わぁ」

と、柏木は子供のようにぱっと笑顔になる。

…………妹っぽいから可愛く見えるのか?

いや、これだと子供っぽいって方があってるか………

ってことは、俺はロリコン………いや、それはない。一応柏木は見た目はあれだが高校生だ。一応セーフだよな。

「ふんっ!」

その刹那、足の甲に鋭い痛みが走る。

「痛ってぇぇ!!!」

こ、こいつ、ブーツで人の足を踏みやがった。

「ど、どうなさいましたか?お客様っ!」

店員が俺が悲鳴をあげたものだから駆けつけてきた。

「い、いや………ごめんなさい」

「……大丈夫ですか?」

「は、はい。大丈夫です」

そう返すと店員は仕事へと戻っていった。

「………全く、恥かいちまったじゃねえか」

ため息ながらにそう言うと、ギロっと睨みつけられ、俺は蛇に睨まれたカエルのように縮こまってしまう。

「自分の胸に今一度聞いてみたら?」

んだよ。こいつ。エスパーかよ。

「なんか、懐かしいな……」

ホロッと言葉が出た。

「懐かしくなんかないでしょ?これから毎日こんなことばっかり起きるんだからっ!」

柏木は笑顔でそう言った。

だけど、俺はやっぱりダメなんだ。無理に決まってるんだよ。俺にはお前は眩しすぎる……

昔はあいつが太陽、俺は月。だからこんなに長く友達………いや、親友になれた。そう思っていた。でも、違った。

ただ家が近くて小さい頃から遊んでいただけ。ただの腐れ縁。

そんな腐りかけの縁なんて俺がここで切ってやる。

いや、違うか。柏木はこれに縛られてたんだ。だから、解き放つ。正確にはこっちの方が正解なのかもしれない。

「なぁ、柏木。俺はもう一回お前に別れ話をする。」

「………嫌だ」

「その方がお前のためだから、俺はもう一回別れ話を………」

「私のため?じゃ、あんたは私の事好きじゃないのね?」

「俺のことなんていいだろ?俺はお前にな……」

「じゃ、私のこと好きなんだ」

と、無邪気に笑う。

「別に」

と、ミラノ風ドリアにまた手をつける。

「ふぅん。まあいいや。ご飯食べよっ!あ、このあともまだまだデートは続けるからねっ!」

はぁ、まだ諦めさせれないか………

「じゃ、続きいくよー!!」

サイゼから出て柏木は駅の方へと歩き始めた。それに俺もついていく。

「はいはい………というか、どこ行くの?朝っぱらからあんなに飛ばしたからもう行く所なんて無いんじゃないのか?」

「今から映画見に行って遊園地行って、ホテルでお泊まりって予定なのだけれど?」

「…………え?なにそれ。一日で終わるんじゃないの?ホテルって、え?」

「あれ?週末って言ったよね?」

「…………確かに言ったが泊まるの?部屋とかは?」

「そこら辺も全部私がやっておきましたっ!」

「………待ってくれ。それ本当なのか?」

「なぜくだらない嘘なんかつかないといけないの?」

質問に質問で返すなって両親に教わらなかったのかよこいつは。

「泊まるって当然違う部屋……」

と、言いかけたところで柏木が満面の笑みで「同じ部屋だよっ!」と、言いやがった。

ということは、そういうことなんだよな……

なぜこうなる?フラレに来てるのに………いやいや、今日で振られよう。どうにかしてあいつにはほかの幸せの道を見つけてもらうんだ。俺となんかとじゃ掴めない幸せを。

そんなことを決心していると、次の目的地である映画館についていた。

「んで?何見るんだ?」

そう訊くと柏木は携帯で何かを調べていた。

「……吊り橋効果で彼との距離を縮めろ………ね。」

そしてなにかをぼそっと呟いた。

「ん?なんだ?」

「ホラー映画………」

俺は一瞬言葉を失った。

「…………な、何言ってるんだ?お前映画館の暗闇ですら怖いくせに…」

「う、うるさいわねっ!見るったら見るのっ!!」

そう言って俺の手を引っ張ってチケット購入の機械の前まで来た。

「………まだ引き返せるぞ?それにこれ、テレビで取り上げられるほどにむっちゃくちゃ怖いらしいし………」

そんな忠告に柏木は目をうるうるさせていたが「だ、大丈夫だしっ!!」と、強がってそのまま二枚ほどチケットを購入した。

「ポップコーン買うか?」

「うん。ふたりで食べよ?」

泣きかけの女の子に上目遣いでそんなこと言われたら断れるわけもなく、俺はLサイズのポップコーンを一つ購入し、映画館に入場した。

映画館のポップコーンってなんでかうまいよな。なんでだろ?

なんて思いつつポップコーンをつまんでいると周りの光は消えてそして、映画が始まった。

柏木が少しだけこっちへと寄ってくる。

暗いだけで怖いんだもんな………始まる前からこんなので大丈夫かよ。

でも俺はこの後の方が不安だがな。
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