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四十四話

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【俺の妹になってください】

四十四話

~ あらすじ ~

文化祭まであと一週間となり、俺の練習量も格段に増えた。というのは建前で、俺は一つ山口と橘とをくっつけるためにこんなことになっている。すべて妹のため。その計画は上手いこと進みあとは彼女らの判断次第となった。だが………

******

「お、おいっ!舞!」

なんだよ。あんなことでキレるか?ただ、知り合いの恋路を手伝って、褒美に妹と話して帰ってきただけなのに………

柏木が走り去ったあと、すぐにあの二人が戻ってきた。

様子を見るに仲直りは出来たらしい。

その先のことまではわからないが。

「あ、風見くん!」

なんて言ってイケメンが爽やかな笑顔を向けてきた。

「あ、あぁ」

柏木を追いたいところではあるが、別に俺は悪くないはずだし………大丈夫か。

「で?どうなったんだ?」

なんとなくはわかるんだけどな。

「………お陰様で」

と、山口はいつもとはまた違った笑顔を浮かべた。

いつもの張り付いた爽やかな笑顔とは比べ物にならないくらいその笑顔は輝いて見えた。

「そうか。そりゃよかったな」

と、もう一人の方を見やるとプイっと顔を逸らした。

………演技ヘタだからなぁ。わかり易すぎる。まあ、恥ずかしいのはわかる。わかりますよ。さっき三ヶ森さんに率直に聞かれてかなり恥ずかしかったしな。

「…………まあ、末永くお幸せに」

「え?あ、うん」

間が持たなすぎる。まあ、普通に考えればこうなるのが必然なのかもしれないけどな……

なんでも出来立ては脆い。

そして、山口が横を通り過ぎた後に橘が通り過ぎようとした時、耳元で「………ありがとう」なんて、囁かれた。

なんというか、悪くない……な。

「そんなことより、柏木さんさっき走ってどっかいってたけどいいの?私らなんかに構ってて」

「問題ない………と思う」

「…………そ。でもねっ!!主役がいないと練習出来ないでしょ!!ほら、さっさと呼び戻してきてっ!あ、言っとくけど連れ戻してくるまでは教室に入れないからっ!」

「ちょっ!待っ………」

バチンっ!!

教室の戸を閉められてしまった。

全く、母さんかよ。

練習出来ないってのは本当のことだし、仕方ねえ。柏木探すか。

とは言ってもなぁ。高校広いんだよなぁ。

何処に行ったんだろ?あいつの行きそうな場所と言えば見晴らしのいいところだけど、屋上なんて空いてるわけないよなぁ。

なんて思いながら、屋上へと足を運んだ。

案の定、空いてない。

そりゃ、そうだよな。

他には………思い、つかねえ。

……は?

あいつとは俺、ずっと一緒に居たのに。俺、あいつのこと何一つ知らねえ………

彼氏なのに。幼馴染なのに……

人のことってわからないんだ………あんなに一緒にいたと言えど、わからない。そうだよな。わかるわけない。そんなの常識じゃないか。知っていたはずなのに距離が近過ぎてわからなかった。まさに灯台もと暗しってやつだな。………柏木がさっき拗ねたのも頷ける………

早く謝らないと……

******

あれから学校の隅から隅まで走って探し回ってみたが、結局見つからなかった。

そして、最後に来た校庭も外れだ。

本当にどこに行った?

叫びすぎて声枯れてきちまったし、ふくらはぎもパンパンだ………

あと、探してないのは………教室くらいだよな?

まあ、結構走り回ってたしな。俺が探してた間に戻ったのかもしれない。

そんな期待を胸に昇降口へ戻って靴を上履きに変えようとした時、若干柏木の靴入れが開いていることに気づいた。

「もしかして………」

そして、中を確認すると、柏木の靴はなかった。

見事に予想通り。テストなんかでの予想は一向に当たる気がしないのに、こういうのは本当によく当たるよな。

今すぐ柏木の家にいきたいところだが、全部教室だ………

まあ、事情を説明すれば橘も今日は諦めて練習とか言わなくなるだろうし大丈夫か。

****

「うーす。」

皆集は自分らの仕事を着々とこなし、衣装合わせとかが始まっていた。

「あ、風見。………柏木さんは?」

「………それが、家に帰ったっぽい」

「ならさっさと追って仲直りしてきなさい。私らに強引にさせたみたいにね………」

「どうしたの?」

と、横から急に入り込んできたのは木だった。

「な、なんでそんな格好してるのよっ!」

「え?だって、衣装合わせだし………」

「………意外と本格的だな」

「そこ感心しないっ!!」

やはり男二人がかりでも女には勝てない。

「じゃなくて、とりあえず、今日はいいからあの眠らないお姫様を連れ戻してきなさい?ヘタレ王子。そして、また明日から特訓よっ!」

「お、おう………」

******

やる気を最後の一言ですべて剥がされたが、俺は柏木の家の前に立っていた。

よし、やるぞ………

ピンポーン。と、静かな住宅街にそんな音が響く。

「はーいっ!お母さんでーすっ!!」

ものすごいテンションのがインターホン越しになんか言っていた。

「あの、かしわ……んん、舞さんは居ますか?」

「少し待ってて今そっち行くから」

「はい」

「じゃじゃーんっ!柏木のお母さんですっ!」

かなりのハイテンションで出てきた。

「お久しぶりです。」

もういい歳にはなってるはずなのにこんなだ。だからいつまでも子供っぽいんだよなぁ。

「舞ちゃんとなにかあった?」

すぐに人の顔を確認してそんなことを聞いてきた。本当に鋭いよな……

「まあ、そうです……」

「そういえばねっ!舞が帰ってきたから驚かそうとして玄関前で『わーっ!!』ってやったのに、私をスルーして自分の部屋に行くから逆に驚いちゃった!」

「へ、へぇ……」

すげえ。この母親すげえ。子供より子供ぽいことして遊んでるや。

「舞なら部屋にいるから。そして、私はお仕事にまた戻らないといけないので行ってまいりますっ!」

と、ぴしっと敬礼を決めてからるんるんとスキップを踏んでどこかに行ってしまった。

嵐みたいな人だ。

****

子供(母)を送り出して俺は舞の部屋の前にいた。

「舞、いるか?」

コンコン、と一応ノックして一言そう言った後、ゆっくりと扉が5センチほど開き、目を赤くした柏木が顔を覗かせた。

「………なんでここにいるの?」

「彼氏が彼女に会いに来るのに理由なんているのか?」

「帰って」

バタン。

「いやいやいや!!嘘嘘。冗談だから話を聞いてくれっ!!」

そうやって、切実に願うと扉はまたゆっくりと開いた。

「………人の部屋のドアを馬鹿みたいに叩かないでくれる?うるさいのよ。で、なに?」

「………謝りに来た」

「ふぅん」

「ごめん。お前の事考えてなかった」

「で?」

本音は言わないとわからないから、恥ずかしくても言わねえといけない時は言わねえとな……

「俺はお前が好きだ」

言っちまった………

「やっと、好きって言ってくれたね」

なんて、無邪気な笑顔を浮かべながら恥ずかしそうにそういう柏木。

「そうだったか?」

「うん。女の子はこういうの意外と気にするんだからねっ!」

「ご、ごめん」

「これだからこの男は………」

と、溜息をつきながらもベッドをトントンと柏木が叩いた。座れということらしい。

そして、俺が座ると柏木は距離を詰めてきた。

「な、なんだよ?」

近いしいい匂いはするし可愛いし……おっと
いい事だらけじゃないか。

「ふふーん。なんでも~」

と、柏木は悪戯に微笑む。

それに不覚にも目を奪われてしまった………

「………流石にそんなにじっと見つめられると恥ずかしいんですけど」

「あ、ご、ごめんっ!」

顔をトマトみたいに赤く染めている柏木から即座に視線を逸らす。

やべえよ。なんであんなに可愛い顔をしてきやがったんだよ………

そして、少しの間静寂が続いた。

「ね、ねえ、春樹」

「ん?どうかしたか?」

「お腹減った」

「そういやそうだな。もういい時間になってるし」

時刻はもう六時半になっていた。

「という訳で、春樹の奢りねっ!」

「……なぜそうなるんだ?」

「あの時の埋め合わせ忘れたとは言わせないわよ?だから、わたしに付き合いなさいっ!」

「そういえばそんなこともあったな………」

******

制服のまま行くのが嫌だったので、一旦柏木と別れ、駅前で落ち合うことになった。

「あ、春樹ー!!」

準備も終わったので家から出るとなぜか柏木が家の前で待っていた。

「駅前で落ち合うんじゃなかったのか?」

「別にいいでしょっ!馬鹿」

「へいへい。で、どこに行くんだ?」

何故か少しキレ気味に馬鹿呼ばわりされたが、この際あまり気にしないで置くことにする。

「うーん、春樹は何食べたい?」

全く、質問を質問で返すなよな。ならこっちも考えがあるぞ。

「奢られるのはお前だろ?だから決めていいぞ」

「なら、ステーキ食べに行こー!!」

「肉本当に好きだな」

「美味しいんだもんっ!」

そんな笑顔で言われたら連れていくしかないじゃないですか。
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