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四十話

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【俺の妹になってください】

四十話

~ あらすじ ~

文化祭の練習も終わり家に帰ると柏木が家にいた。そうして俺は恋愛をやめさせることに成功した。だが、なぜか柏木の様子が少し変に感じた。

*****

朝起きると姉さんが静かに化粧をしていた。

「………おはよう。」

「あ、起こしちゃった?」

「いや、今なんか起きた」

「なら、飛び込んじゃえー!」

化粧道具を撒き散らしながらこっちへと飛び込んでくる姉に静かに腹パンを決めてると、さっさと制服に着替えて色々身支度を整え学校へ。

なんで柏木は家に帰ってったんだろ?ただ山口との恋愛をやめろって言っただけなのに。

いつもは学校なんて遅刻ギリギリで行くが今日ばかりは早く行かないといけない気がした。

理由はひとつ。それは………文化祭の演劇の練習だっ!!………なんて言えるやつは青春という名薄汚い病にかかってしまった奴らだけだ。

俺はただ、柏木のよそよそしい態度の原因が知りたかった。

それだけのために朝早起きしてきたというのに、まだその張本人である柏木が来ていなかった。

珍しい。いつも早めに来ているはずなんだがな。

そのまま時は流れ朝礼になった。

「柏木舞。柏木?」

いつも通りの出席確認。俺の後に柏木の名前が呼ばれる。

「今日は休みか?なにも聞いてないけどな……」

あの気だるげな先生も一応普通に仕事してるんだな。なんて思いながらもその発言には驚いた。

あの柏木が連絡もなしで休むだと?

おかしい。風邪なら風邪であいつなら連絡の一つくらいはするはずだ。

もしかしてすごい病気なのか?四十度くらいの動けないやつなのかァ!?

「先生っ!!」

「あ?なんだ?朝っぱらから大声出して」

「おれも風邪ひきました!帰ります」

「そんなに元気に風邪発言するとはいい度胸だな」

やべえ。くそ。あんな感じの教師だが根は普通で真面目な教師なんだ。

「………えー。こほんこほん。頭が痛くて死にそうだー」

「………はぁ。全く、こんな棒読みの役者が主役を張るだなんてね………まあ、教師として放って置けないし単位はあんた次第だ。一日くらいお前の頭脳でも…………いや、どうにかしてやるよ。だから、行ってこい」

「はいっ!!ありがとうごさいますっ!!」

ガラガラガラッ………ドンッ!

「………はぁ。あんなに勢いよく風邪ひいた奴が飛び出ていくのかね」

頭を悩ませていた先生なんて知ったこっちゃない。とにかく俺は今、とりあえず柏木に会わないといけない。そんな気がする。

そうして自転車をフル加速させ柏木の家に向かい、そして、インターホンの前に立った。

よし、押すぞ。

なんでか指が震える。

なんて言おう?よくわかんねえ………けどっ!

インターホンを押そうとした時、どっかでみた童女が出てきた。

「あ、春樹ちゃん」

「こ、こんにちは……」

「舞に用?なんか、部屋に篭っちゃってるのよねー」

「風邪ってわけじゃないんですか?」

「うん。あんなに勢いよく物を投げてくる風邪っぴきは居ないと思うわっ!」

「風邪を引いてるのに暴力とは流石だな………」

「本当凄いのよっ!」

「いや、自慢できることじゃないと思いますけどね……」

柏木舞という女が出来上がった経緯がわかった気がした。

「では、私はお仕事に行ってまいります!あ、舞ちゃん多分まだ部屋に篭ってるだろうから出してあげてね」

満面の笑みでウインクし、そう言い残すと、柏木の母さんは去っていった。

柏木の母さん小悪魔レディって感じで愛らしい感じだけど、何歳なんだろ?見た目は小学生……高学年くらいか?ということは柏木のお父さんはアリスコンプレックスの可能性あり。

「これは事件の匂いがするな」

潜入捜査開始だ。

しっかりと安全確認、曲がり角などをクリアリングしあいつの部屋の前まで来た。

心音がドア越しにでも聞こえてしまうくらい高鳴っている。足もガタガタだし……いやいや、これは武者震いだ。

それもそれで違う気もするがもういいっ!

俺は勢いよくドアノブを押し下げて入ろうとした。

ガーンッ!!

鍵がしまっていてドアにぶち当たった。

「いってー」

頭をさすりながら痛みで声が漏れた。

「……………だ、誰かいるの?」

少しこわばった声が部屋の中からした。

「柏木!?俺だ俺!!風見!!」

「は、はぁ!?な、何でここにいるのよっ!!バカっ!!」

ドン!!という鈍い音と共になにか重たいものがドアに当たったのかドアがビクついた。

「落ち着け落ち着け。大丈夫。大丈夫だから……」

さっきの衝動でか鍵が開いたようだ。

ゆっくりと戸を開くと柏木がいた。居たのだが………まずい。

これは実にまずいぞ。

「へっ!!変態!!!こっち見んなばかっ!!」

「ご、ごめん。」

一瞬しか見てなかったがあれは裸体………女の………いや、ロリっ子の裸だった。

これはまずい。今の状況も法的にも……

いや、一応大丈夫。ロリではない。ギリギリセーフだ。

とりあえずそう思うことにし、この次の手を考えて………

「………おい。そこの変態」

声のトーンがいつもよりいくらか低い。

これはマジギレってやつか………?

……そしてこれは振り返っていいのか?まるでホラーゲームでもしているみたいだ。

後ろから感じる圧だけで死にそう。

「…………何しに来た?」

「風邪って聞いてな……看病しに来た」

振り返らずにそう返す。

「別に風邪じゃないから看病はいい。できれば帰ってくれない?」

ものすごくよそよそしく俺を突き放すみたいにそういう。

「………早く」

柏木に背中を押されて部屋から出されそうになる。

いいのか?このまま出てしまって。なんで俺は学校をサボってまでここへ来たんだ?

「嫌だ」

「………は?」

腑抜けた返事が返ってきた。

「いや、出て行ってもいいが条件がある」

「………なによ?」

俺は意を決して振り向き、タオルに身を包んだ柏木をまっすぐ見つめる。

「昨日なんでお前は俺を避けて帰った?今日だって学校休むしよ………」

「それは………だって………」

「だってなんだ!?」

顔を歪めて悩んでるような泣いているような柏木を問いただす。

「だって、だって………あんた、私を……私を………ふ、振ったじゃない………」

「…………は?」

「だって、恋やめろって………風見は確かにそう言った。言ったよね!?」

顔を真っ赤にして柏木は頬をふくらませた。

「………言ったけど……え?………え!?お前、山口のことが好きだったんじゃないの?」

「は!?な訳ないでしょ!!私は昔からあんたの事が好きだったわよっ!!…………はっ!?な、何言ってんだ私!?」

な、なんだ?俺、ん?告白された?

いや、気のせいか?いや、はっきりそう言ったしそれならあの昨日の反応に辻褄が合う。

ということは、完全に俺らはすれ違って俺も勘違いを………

俺だってあいつのことが………好きに決まってる。何年前からかはわからないけど好きだった。でも、隠してたしわからねえよな。

「って、柏木ぃぃ!!」

柏木は顔から火が出そうなほどに真っ赤っかにしていた。こんなのじゃ話すどころか倒れちまう。

「落ち着け!!落ち着け柏木………ドードー」

なんて言いながら犬を宥めるように腰を低くして目線を合わせながら近づいて行くと柏木は少し大人しくなった気がした。

「落ち着いたか?」

「うぅ…………近いのよっ!!馬鹿っ!!」

「痛えっ!!」

そして、回し蹴りが飛んできてそれをもろに食らって宙を五六回転し重力に従って地面に落下した。

そんな痛みはでも始まりに過ぎなかった。俺はとりあえず落ち着かせるために微妙な距離感を保って落ち着かせようとするが、闘牛並に暴れる柏木にまた蹴られたり殴られたり………

「流石に同じパンチは避ける………って、あっ!」

「きゃっ!!」

ドンッ!と、いう衝撃音がした後、目を開くと、目と鼻の先には柏木の顔があった。

暴れる柏木を抑えるために体を張った結果、押し倒してしまったみたいだ。

「な、なに!!?」

もう、あいつは落ち着かねえ。だから、俺の気持ちをそのまま実行するしかねえな。

暴れる柏木に蹴られながらも柏木の口を自分の口で塞いだ。

「んー!!!ん!!」

雰囲気もクソもないが柏木の唇は柔らかくて、一つになっているという喜びとちょっとの恥じらいが俺の心臓を締め付ける。

次第に柏木も暴れなくなり……

「………ちょっとは落ち着いたか?」

「………え、えぇ………」

柏木の上から退きながら即刻柏木をできるだけ見ないようにして背を向けた。

くそぉ………緊張しすぎて手汗ヤバイし色々混乱してきた……

「か、風見………」

「な、なんだよ?」

すっと、俺の背中に温かみのある柔らかななものが当たり、すこーしだけ振り向き野球のピッチャーが牽制する時のようにチラッとみると、柏木が背中合わせに立っていた。

「あんたもさ?私の事好きなの?」

「…………ま、まあ………う、うん。そうだな。」

「そ、そう……」

そういう柏木の声は心做しか嬉しそうに聞こえた。

「俺ら、勘違いしてたみたいだな……」

「そ、そうね……」

そうして、また少しの沈黙が訪れる。

さっきのこともあって少しだけ息が荒い柏木の呼吸音が聞こえる。

「ね、ねえ。風見。こっち向いて?」

「お、おう……」

恥ずかしいが振り向くと柏木が頬を膨らまして、怒りを顕にしていた。

「さっきのキス。私のファーストキスだったんだけど?」

「そ、そうか………」

「………もうっ!言ってわからないの?」

「な、なんのことだ?」

床を強く踏みつけてキレる柏木。……全く意味がわからないが、柏木は呆れたような顔をした。

「はぁ。全くこんなのだからモテないのよ?」

「はいはい。そうですね」

「んっ!」

柏木は目をつぶり恥ずかしげに頬を朱に染め、唇を少し尖らせた。

恥ずかしいことさせんなよな……

そして、唇と唇が重なる。

やっぱり柔らかく気持ちいいこれがキスなんだな。

「………あんたの唇カサついてるわね……こんなのがセカンドキスだなんて!」

「キス後の発言がそれかっ!!」

すっかり俺らは仲直りをしていた。というか、ただの思い違いだったわけだ。でも、こんなにうまく事が運んで良いのだろうか?絶対なんかあるだろ……

「まあ、いいわ。今日は学校サボるの?」

「………彼女が初めて出来た日くらいまあ、いいかな?」

「そ、そう………不良みたいなことしてるけど、たまにはこういうのもいいわね」

なんていいながら、柏木は微笑んだ。

「あ、あぁ………」

このときは上手くいってもいいのかもしれないと思いましたよ。そりゃーあんな笑顔見たんですもん。ときめきましたよ。でもね………神様の悪戯なのか柏木が纏っていたタオルがすっと静かに落ちちゃったんですよー。

なぁにー?やっちまったなぁ!?

「………春樹。殺すね?」

「ごめんなさいでしたぁぁ!!!」

そして、まあ、いつも通りのようにボッコボコにされました。

******

目を覚ますといつもとは違う知らない天井があった。

あれが夢じゃないなんてな……

柏木の告白を受け入れ、そして、ボコボコに……

「いってて……」

痛みを堪えつつゆっくりと体を起こして柏木の部屋にあった可愛らしいピンク色の豚さんの目覚まし時計を確認すると、十三時を回ったところだった。

柏木はどこに行ったんだ?学校は流石にないだろうけど……なんて思いつつ、階段を降りリビングに向かうといい匂いがしてきた。

それに誘われるかのようにリビングルームの扉を開くと、柏木が丁度出来上がった料理をテーブルに運んでいる最中だった。

「お、おはよ?」

「あっ!風見!起きたのね!おはよっ!」

さっき俺の気を飛ばすほどに殴っていたやつの表情だとは思えないほどの満面の笑みでそう返された。

「お、おう」

「ご飯できたから食べましょ!」

「う、うん………」

柏木に言われるがまま席について食卓についた。

ちなみに料理は赤飯、鯛の煮付け、赤味噌を使った味噌汁と、マグロの赤身、人参の胡麻和え………と、赤ずくしであった。

「どうぞっ!召し上がれっ!」

「いただきますっ!」

まるで新婚さんみたいなそんな幸せな雰囲気に包まれながら柏木の作った飯を食べる。

「ね、風見!文化祭一緒に回ろうねっ!」

「おう」

「で?ご飯はどう?」

昨日なんて適当にチンで出来るようなレトルトカレーで済ませたのに今日の料理の腕の入れようは凄いものだ。

「うん。この鯛の煮付けも味がしっかりしてるのに鯛の甘みもあって美味いし、人参の胡麻和えも甘辛なのに後味がさっぱりしていてすごい食べやすいし、どれもこれも上手いよっ!」

「そう。よかったー」

付き合う前ならばもっと冷たいような反応を見せていたんだろうが、柏木は小さくだがガッツポーズをしてしまうほどに喜んでいた。いつもいつもこんなに喜んでいてくれたのだろうか?

まあ、いいか。喜んでくれるのはいい事だしな。

柏木の作った少し遅めの昼飯を食い終わり、二人でソファーに座り心地の良い余韻に浸っていると、柏木が俺の横に座った。

「なんか、不思議な感じよね。横にいたって前はそんなに気にならなかったのに、今は心臓が痛いくらいだわ」

「そうだな。心音聞こえてきてるし……」

「は、はぁ!?あんたのほうがうるさいわよ!!」

ドスンっ!!

と、鈍い音がし腹に激痛が走った。

「相変わらず痛いパンチだぜ……」

「少しは思い知ったかしら?私の想い」

「あ、あぁ………そうだな。本当に重いぜ……改めて、よろしくな。かしわ…いや、舞」

「うんっ!春樹っ!」

天真爛漫な可愛らしい笑顔。全く、俺の彼女は最高だぜっ!
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