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一話

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【俺の妹になってください】

一話

妹なんか要らない。なんて台詞を吐くやつは幸せなやつだ。妹以外要らない。の間違いだと俺は信じたい。多分、兄がいても無駄にこき使われるだけだろうし、弟なんかうるさいだけで、なにもやってくれないと思う。姉は無駄にめんどくさいし………。

だが、妹はどうだ?妹はいい。最高だ。神だ。なんで妹教がこの世にはないのだろうか?おかしい。この世界は壊れてる。妹に「おにーちゃん!」って、言われて起こされたなら毎日元気に過ごせそうなのにな。

「起きな。今日は学校だぞ?」

「…………はぁ」

俺が目覚めて一番最初に飛び込んできた光景は、化粧なんかしなくたっていい顔立ちをしているのに、アイラインやらを入れてブラウンの目を無駄に大きくしている姉の姿だった。

「なんで俺の部屋で化粧するんだよ。化粧道具とかって臭いから嫌いなんだよ」

背中に掛かる無駄に長い髪をアホらしいピンクアッシュに染めて、毛先をくしゅくしゅしてるのは姉さんだ。

「時間の節約。かな?えー別にいいじゃん春樹ー。私は春樹【はるき】と一緒にいたいのー」

と、メイクが終わったのか姉はまだベットに座っている俺の腕にがっしりとしがみついてくる。

「嫌だ。抱きつくな」

柔らかな感触が腕を伝ってくる。いや、別に姉のやたら大きい胸に目を取られたりはしてないからな?あんなの脂肪の塊だからね?

「えー?ダメなの?」

と、目だけをこっちに向けて腕に顔を埋めてる。マスク効果だろうか?少し小顔に見える。

これが妹だったならば俺は「しょうがないなぁ。ちょっとだけだぞぉ」とか気持ち悪い顔を浮かべながらも言うんだろうが、相手は俺より年上のババア。

「ダメだダメだ」

「どーしても?」

目を潤ませて首を少し傾げて上目遣いというトリプルコンボ。これで大体の男は落ちるかもしれないが、俺には通用せん。あざといのは知ってる。元々そんな姉だしな。だからって俺が姉にデレることなんてない。全く、なんでこんなのが姉なんだ?こんなあざと姉さんよりかわいい妹ください。お願いします。

「というか姉さん。時間っ!!」

時間は7時半を指していた。

「あーやばーいっ!!」

ギャル語ですかね?姉さん。若作りしなくても若いってのに………

といっても、一歳しか変わらないか。

なんて思いながらも、俺はやっと重い腰を上げてクローゼットから新しい高校の制服を取り出して着替えを始める。

「えっ?ちょ、……ちょっと!!」

「あ?なに?姉さん」

なんでか知らないが焦る姉さんにパジャマを脱ぎながらもそう聞いてあげる。

「あ、あんた、恥ずかしくないの?」

手で顔を隠しながらも指の間からこっちを見ているのではっきり言って意味がない。というか何のために顔を手で覆ってるんだろ?

「え?なにが?」

少々うんざりしつつも制服の袖に腕を通しながらそう訊く。

「もういい!!」

バタンッ!!

一言言い残すと俺の部屋から勢いよく出て行った。

全く、朝から騒々しいな。というか、なんであんなに怒って出てったんだろ?

別に全裸になったわけでもないのにまるで裸でも見たかのような反応しやがって。おれだけ感情がないみたいな感じになっちまうじゃねえか。

そして、机の上には化粧道具が散乱としていた。

……はぁ。めんどくさい。

身支度を整えて俺は自分の部屋から出て居間に向かった。

俺の家は二階建の一軒家だ。玄関から入って階段がすぐある。一番奥にダイニングキッチンとテレビやら見れるような空間がある。いつもここで俺の姉である美香【みか】姉はぐうたらしている。二階は階段を上ってすぐ右が父母の部屋、俺の部屋は一番奥の部屋で、姉さんの部屋は俺の部屋から出てすぐの右側の部屋だ。

はぁ。すぐそこだというのに、俺の部屋で化粧をするのが当たり前のようになっている。化粧道具も全部俺の部屋に放置して行くし……全く、俺がそういう趣味みたいじゃねえか。

だが、俺も優しいな。毎朝のことながら化粧道具を片付けてあげるなんてすげえいい弟なんじゃね?

「…………姉さん?」

居間に入ると姉さんは髪を右手でかき上げながら本を読んでいた。だが、見た目がなんというか酷いな。バカらしくて本を読んでいるというか本が姉を読んでいるみたいな錯覚までしてしまうほどだ。

「はいこれ」

と、本に栞を挟んでトースターで焼いたパンをおれの前に無造作にポンと投げるように出す。

「………怒ってる?」

「なにが?」

女子のこういうところ………嫌いだな。

嫌悪感思いっきりプンプン出してるじゃん。臭えくらいだよ。それなのになにが『なにが?』なんだよ。わけがわかんねえ……

「いや、怒ってるよね?」

少し呆れたようにそう訊く。

「なに?怒ってないよ?」

ん?え?さっきまでの態度はなに?……コロコロ変わりすぎだろ?感情もいじるものも………今度は携帯か。バカらしさと携帯ってなんか合うよな。ビールには枝豆、パンには生卵みたいな感覚と同じだ。俺は卵かけご飯大好きだ。あれにふりかけをかけて一気にかき込んでも旨いし、納豆なんてあっても旨い。あれほど安上がりで旨い食べ物はないと思っている。親が貧乏性なんだ。移っても仕方ないよね?
 
「春樹ッ!!7時50分っ!!そろそろ行かないと間に合わないよっ!!」

「あ、うん。今行く」

のんびりトーストを食んでいたらそんな時間になっていたらしい。おれは残りのパンを飲み込むように平らげそのまま外に出た。

太陽だけが燦々と輝いている恐ろしいほどの日本晴れ。セミでも鳴き始めるんじゃねえかな?ってくらいにいい天気だった。

「春樹。行くよー」

と、自転車にまたがりながら玄関ポーチにぽつんと立っている俺にまだか?と、ダルそうにこっちにくる。

「あ、うん」

俺と姉さんは一緒に千葉県立小中橋【こちゅうばし】高校に自転車で向かう。距離は家から近く10分くらいだ。

まあ、あの高校に行くのも入試の結果を見に行った時以来だな。

そして、今日は入学式。俺はそんなに早く登校しなくてもいいのだが姉が来い来いうるさいのでついて来てあげた。

なので新入生にしては少し早めの登校になるだろう。

****

「じゃ、またね春樹ー」

と、姉は右手を大きくブンブン振って大声をあげる。

「あー。うん」

と、間の抜けた挨拶だけを返す。

よし、着いたぞ。

桜が満開。これだけでなんだか新学期って感じがする。

入学式っても俺にはそこまでやる気はなかった。高校デビューを果たしたいとかそんなことは微塵も思ってはなかった。ただ、普通に居たいのだ。張り出されていたクラスの一覧表みたいなやつを俺は見ていた。

なんでこんなにある中から探さなきゃならんのじゃ………

だが、人は指折数える程度しかいないため自分のクラスを探すのにそう時間はかからなかった。

あった。風見春樹【かざみ はるき】

えーっと、1ーFか。

で、場所は……下駄箱前の階段上がって四階……で、そこを右か。

それであるはずだ。

「1ーD………1ーE」

トイレを挟んで俺の一年通うことになる教室があった。

ガラガラガラ。

ドアを開けてクラスに入る。

そこにはまだ誰も来ていなかった。

一番か。なんか、優等生みたいで嫌だな。

俺はどっちかといえばバカな方だと自覚している。だからそこらへんの自覚のない「えー。俺僕私は馬鹿じゃないもんッ!!」みたいなことを言っている三流のバカとは一緒にされたくないと思っていたりする。

席も指定されているらしい。

俺は真ん中の一番後ろか。

ギィー。

椅子を引いただけなのに音が大きすぎる気がする。

誰もいない教室ってこんなに静かなものなのか。中学校の頃早く来て一人になったことも居残りさせられて一人になることもなかったし初めての体験だ。

なんだか落ち着かない。新しい環境でそわそわしてしまっている。これじゃ犬や猫と大して変わりゃーしないじゃないか。まあ、でもそこらへんにマーキングするわけでもないところを見ると俺は人間らしい。

だが、気づくと暇だったからか椅子をギシギシやって遊んでいた。

このバランスゲームというかこれ結構楽しいんだよな。後ろの背もたれに体重かけて二本足で椅子を立たせてバランスをとる。

で、どこまで背もたれを地面に近づかせれるかというのを暇だったからやっていた。

あと少しで新記録だ。無論測ったこととかないから見た目で決めている。だが、目印みたいなものもないため、新記録だの言っているがそれが本当に新記録なのかはわからないし、いつやってたのかでさえ定かではないため色々曖昧なことだらけである。

勢いをつけてギッコンバッコンやると一人シーソー的な感じで楽しいし、新記録に近づける気がする。

あと、少し…………

ガラガラガラッ!!ドンッ!!

と、俺が新記録開拓中に勢いよくドアが開いた。

その音にびっくりして俺は椅子ごとひっくり返ってしまう。

ドンッ!!

「………いってて」

「………あ、あの………だ、大丈夫………ですか?」

と、逆光で顔やらは見えないが、扉をあけて大きな物音がして怖かったのか少しビクビクしながらゆっくりとこちらに歩いてきた。

「あ……あはは。だ、大丈夫大丈夫!俺もドジだなぁ」

言い訳をしつつも、倒れた椅子を直しながら女の子の方を見た。

ガシャンッ!!

と、俺は不覚にも椅子から手を離してまた倒してしまう。

ふわりとした肩につくかつかないかくらいのボブカットに暗めのベージュ色の髪の毛が歩くたびにふわふわ踊る。

そして、彼女の顔立ちは童顔で、俺的にはどストライクと言える。え?ロリコン?いやー、そんなまさかねー?俺、風見春樹は決してロリコンではない。童顔な女の子が好きなだけだ。

彼女はすぐに俺から目を逸らしてしまうが、彼女の目は透き通った青い目をしていた。碧眼ってやつだ。そのサファイアのような美しい眼光に不覚にも俺は目を奪われてしまっていた。

「そ、そうですか………」

と、彼女は言うとキョロキョロ、ビクビクしながらも自分の席を確認しに前の黒板に歩いて行く。

彼女の声は弱々しく、目も泳ぎまくっている。心ここに在らずってわけでもないが、座ってからも緊張からかキョロキョロしている。プールなんかに友達といったらすぐに男の不良グループに絡まれそうな女の子だった。

あんなので一人でやっていけるのかね?

一見、クールで無口で高嶺の花。お堅い女の子っぽいがあの感じから言ってそうでもない。

すげえ…守りたい。

多分、こう思うのは俺だけではないはずだ。

***

放課後の教室。風が舞い込みカーテンがひらひらと舞う。そこに夕日が差し込む。なんとも幻想的な光景だ。そこに男子と女子が二人きり。告白やらをして青春の一ページを飾るならこうだ。

『お、俺の妹になってくださいっ!!』

…………と。
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