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三話
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【俺は至って正常なんだか世間が狂っている】
三話
俺は間違っちゃいない。とは思っているが、彼らにしたことは俺が悪いことはよくわかってる。先生が言うように矛先を間違えたんだ。けれど、その日は奴らとは目すら合わせずに家に帰った。
僕が長年帰り続けてきたマイホームは残念ながら大きな一軒家とかではなく、普通のどこにでもある小さなアパートだ。
それの105号室に入ると、いい匂いが漂ってくる。着替えを済ましてリビングに入ると、長い黒髪を揺らしながらエプロン姿の母さんがキッチンに立っていた。
俺が認める母はこの松平政子以外に居ない。たとえ血が繋がって無かろうとも、俺をあの人生のどん底のような状況から救ってくれた母なのだ。
「あらおかえり。今日はカレーよ」
「よかった……カレーか。ただいま。母さん今日は早いんだね」
「いつも賢人にはご飯とかさ負担をかけちゃってるからね。ごめんね」
「気にしないでよ。母さんには感謝してるんだ。恩返しくらいさせてよ。リビングでくつろいでて」
「でも……」
「いいから!」
「うん……」
母さんからおたまを奪い取ると、母さんはしゅんとしてリビングに行った。
とはいえ、母さんの料理は不器用だからか酷く歪で、今鍋に入ってる野菜の大きさもバラバラでとても精巧とは言えない。でも、まあ、カレーなら煮込んでいる内に溶けていくし、大して気にならなくなる。逆にそれが程よく野菜が残る要因にもなるから、カレーは母さんの唯一の得意料理になるかもしれない。
とはいえ、母さんの飯が食えないほど不味いかと言われるとそうではない。ただ形が歪なのだ。
あとはルーを入れれば終わりってところだったからすぐに終わった。
食卓にはカレーと福神漬け、カレーを煮立たせている間に作ったシーザーサラダなんかも並んだ。
「いただきます」
手を合わせてからご飯を食べ始めると、不思議そうに俺の顔を覗き込んでくる母さん。
「……なに?」
「学校でなんかあった?」
時より母さんはエスパーなんじゃないかと思う。
「なんでわかるの?」
「そりゃ我が子だもん。わかるわよ」
母さんは偉そうに笑った。少し鬱陶しいようにも思えるが、やはり母は凄い。
「言ってみなさい?」
何故だが母さんを前にすると、素直に言ってしまう自分が居る。俺は陸斗と喧嘩したことを話した。
「うん。言い分はわかる。痛いくらいにわかる。でもさ、その二人はあの人達とは違うんだ。君と違う答えを持っているからって頭ごなしに否定しちゃダメだよ。友達なら応援してあげなくちゃ。で、道を誤ってるって思ったら、ぶん殴ってやりなさい。私が彼女にそうしたように」
母さんは拳を作ってキリッとした目をした。
いつもは大人しそうな顔しているのに、やることは結構えげつない。でも、多分それは正しいのだろう。母さんの言ってることは説得力があった。
「そう……だね。あいつらがまだ失敗した訳じゃないし、覚悟だって決めてるのかもしれない。うん。明日話してみるよ」
「分かればよろしい」
母さんは安心したように微笑んだ。
「あ、そうだ。母さんはさ。子供が子供を作ることどう思ってる?」
母さんはすこし考えるように顎の下に拳を置き「お母さんは反対かな」と、言った。
「どうして?」
「おかしいのよ。今の若い子達見るとみんな老けてるように見えるのよね」
冗談交じりに言っていたが、案外核心をついたものなのかもしれない。駅や人の集まる場所に行ってみると、若い人であろう人達が老けてるように感じることがある。
「……確かに」
「でしょ! それも子連ればっかりなのよ? まあ、子供を作るってことは若さを吸い取られるようなもんだから仕方ないんだけどね。必死に働いて給料の半分くらい国に持ってかれるのよ? そりゃやさぐれちゃうわよね」
「休みの日は子供の面倒に追われ、平日は仕事に追われ、必死こいて働いた金も国に半分くらい持ってかれるか……」
やさぐれてしまうのに充分すぎる内容だ。考えただけで鬱になりそう。
「……子供を作れ作れ言う前に、良い国を作れっての」
呟く母は珍しく怒ってるように見えた。
「あ、あら? ごめんなさい。つい口が滑っちゃったっ」
舌をぺろっと出して頭をコツンッ! と、叩いた。
でも、母がそう思うのは仕方ないのかもしれない。子供を作ることを承認しておきながら金銭的補助もほとんどない。もしかしたら、あの俺の血の繋がったあいつらだって国の支援さえあればどうにかなったのかもしれないのに……
だが、そんなことを考えるのは意味が無いことだ。起きてしまったことをいつまでもグダグダ言いたくはない。
「ご馳走様。じゃ、私は先にお風呂入っちゃうね」
母さんはそう言うと席を立った。
「その……ありがとう」
「あはは。みっともないところ見せちゃったかな?」
照れたように笑う母さんに、俺は首を横に振ってやるとさっさと廊下に出ていってしまった。
母さんは国が悪いと言った。でも、国だけか? いや、それを考えて実行するのは自分自身だ。だからこそ、俺は訴え続ける子供が子供を作るのは間違っている。と。
だからと言って否定だけをするのも間違いだそうだ。どれが正解なのか。いくら悩んでも答えは出てこない。
三話
俺は間違っちゃいない。とは思っているが、彼らにしたことは俺が悪いことはよくわかってる。先生が言うように矛先を間違えたんだ。けれど、その日は奴らとは目すら合わせずに家に帰った。
僕が長年帰り続けてきたマイホームは残念ながら大きな一軒家とかではなく、普通のどこにでもある小さなアパートだ。
それの105号室に入ると、いい匂いが漂ってくる。着替えを済ましてリビングに入ると、長い黒髪を揺らしながらエプロン姿の母さんがキッチンに立っていた。
俺が認める母はこの松平政子以外に居ない。たとえ血が繋がって無かろうとも、俺をあの人生のどん底のような状況から救ってくれた母なのだ。
「あらおかえり。今日はカレーよ」
「よかった……カレーか。ただいま。母さん今日は早いんだね」
「いつも賢人にはご飯とかさ負担をかけちゃってるからね。ごめんね」
「気にしないでよ。母さんには感謝してるんだ。恩返しくらいさせてよ。リビングでくつろいでて」
「でも……」
「いいから!」
「うん……」
母さんからおたまを奪い取ると、母さんはしゅんとしてリビングに行った。
とはいえ、母さんの料理は不器用だからか酷く歪で、今鍋に入ってる野菜の大きさもバラバラでとても精巧とは言えない。でも、まあ、カレーなら煮込んでいる内に溶けていくし、大して気にならなくなる。逆にそれが程よく野菜が残る要因にもなるから、カレーは母さんの唯一の得意料理になるかもしれない。
とはいえ、母さんの飯が食えないほど不味いかと言われるとそうではない。ただ形が歪なのだ。
あとはルーを入れれば終わりってところだったからすぐに終わった。
食卓にはカレーと福神漬け、カレーを煮立たせている間に作ったシーザーサラダなんかも並んだ。
「いただきます」
手を合わせてからご飯を食べ始めると、不思議そうに俺の顔を覗き込んでくる母さん。
「……なに?」
「学校でなんかあった?」
時より母さんはエスパーなんじゃないかと思う。
「なんでわかるの?」
「そりゃ我が子だもん。わかるわよ」
母さんは偉そうに笑った。少し鬱陶しいようにも思えるが、やはり母は凄い。
「言ってみなさい?」
何故だが母さんを前にすると、素直に言ってしまう自分が居る。俺は陸斗と喧嘩したことを話した。
「うん。言い分はわかる。痛いくらいにわかる。でもさ、その二人はあの人達とは違うんだ。君と違う答えを持っているからって頭ごなしに否定しちゃダメだよ。友達なら応援してあげなくちゃ。で、道を誤ってるって思ったら、ぶん殴ってやりなさい。私が彼女にそうしたように」
母さんは拳を作ってキリッとした目をした。
いつもは大人しそうな顔しているのに、やることは結構えげつない。でも、多分それは正しいのだろう。母さんの言ってることは説得力があった。
「そう……だね。あいつらがまだ失敗した訳じゃないし、覚悟だって決めてるのかもしれない。うん。明日話してみるよ」
「分かればよろしい」
母さんは安心したように微笑んだ。
「あ、そうだ。母さんはさ。子供が子供を作ることどう思ってる?」
母さんはすこし考えるように顎の下に拳を置き「お母さんは反対かな」と、言った。
「どうして?」
「おかしいのよ。今の若い子達見るとみんな老けてるように見えるのよね」
冗談交じりに言っていたが、案外核心をついたものなのかもしれない。駅や人の集まる場所に行ってみると、若い人であろう人達が老けてるように感じることがある。
「……確かに」
「でしょ! それも子連ればっかりなのよ? まあ、子供を作るってことは若さを吸い取られるようなもんだから仕方ないんだけどね。必死に働いて給料の半分くらい国に持ってかれるのよ? そりゃやさぐれちゃうわよね」
「休みの日は子供の面倒に追われ、平日は仕事に追われ、必死こいて働いた金も国に半分くらい持ってかれるか……」
やさぐれてしまうのに充分すぎる内容だ。考えただけで鬱になりそう。
「……子供を作れ作れ言う前に、良い国を作れっての」
呟く母は珍しく怒ってるように見えた。
「あ、あら? ごめんなさい。つい口が滑っちゃったっ」
舌をぺろっと出して頭をコツンッ! と、叩いた。
でも、母がそう思うのは仕方ないのかもしれない。子供を作ることを承認しておきながら金銭的補助もほとんどない。もしかしたら、あの俺の血の繋がったあいつらだって国の支援さえあればどうにかなったのかもしれないのに……
だが、そんなことを考えるのは意味が無いことだ。起きてしまったことをいつまでもグダグダ言いたくはない。
「ご馳走様。じゃ、私は先にお風呂入っちゃうね」
母さんはそう言うと席を立った。
「その……ありがとう」
「あはは。みっともないところ見せちゃったかな?」
照れたように笑う母さんに、俺は首を横に振ってやるとさっさと廊下に出ていってしまった。
母さんは国が悪いと言った。でも、国だけか? いや、それを考えて実行するのは自分自身だ。だからこそ、俺は訴え続ける子供が子供を作るのは間違っている。と。
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