上 下
18 / 19

最終話 詳しい話を聞かせてくれないかしら

しおりを挟む
 私がショーマ様の息子さんを踏みつけたことにより、彼は白目を剥き泡を吹いて意識を失った。
 ジェドたち男性陣が「死んでるんじゃないか」と焦り始めたので、さすがの私も焦った。
 罪を償ってもらわないといけないのに、今、死なれては困る。
 お医者様に診てもらったところ、私は息子さんだけではなく、二人いる片方のお友達のほうもヒールで踏んでいたらしかった。
 足の裏で息子さんを、ヒールで息子さんの友達を攻撃してしまうという二重攻撃をしてしまっていた。

「死にはしませんわよね?」
「お亡くなりになることはないと思います。ただ、かなりの痛みだったかと思われます」

 お医者様の話を聞いたジェドとセナ様が眉間に深い皺を作った。

 男性にしかわからない痛みといった感じかしら。
 だけど、女性にしかわからない痛みもあることだし、それはそれということにしましょう。

「とにかく、下手に暴れられたりしたら迷惑ですから、縛り付けておくことをおすすめしますわ」

 近くにいたセンマ様にそう伝えてから、私たちはショーマ様の部屋を出た。



*****




 それから数日後、私たちはクプテン国からイエラ王国に帰国した。
 なぜ、数日かかったかというと、私とセナ様以外の婚約者たちや、ショーマ様たちのことがあったからだ。

 セナ様とアーティア様は、また会う約束をして、次の日に帰っていった。
 その後はハーミー様たちが帰っていくのを見送った。
 今回、関わることのなかった令嬢は、知らない内に帰っており、最後まで顔を合わせることはなかった。
 レミー様については、イエラ王国の両陛下には出来事伝えており、彼女のご両親にも連絡がいっていた。

 レミー様は帰国後、両親である両陛下と兄の王太子殿下から、私たちにした発言の真偽を問われて、あっさりそれを肯定した。
 その結果、このまま彼女を公の場に出すわけにはいかないという話になり、レミー様は礼節に厳しいことで有名な辺境伯の家に嫁に出されたのだそう。

 厳しいお姑さんに、レミー様は毎日怒られて泣いているとのことだった。

 ショーマ様は私の攻撃から、何とか立ち直りはしたけれど、やってはいけないことをしたのだから、伯爵の爵位の話は無しになった。

 私たちが帰る時は、ショーマ様の処罰に関してはセナ様の国のシリャール国からの連絡待ちだった。

 私たちが帰国した数日後に、センマ様から連絡が来て、ショーマ様の処罰が決まったと教えてくれた。

 ショーマ様は今まで虐げていた国全てに謝罪にまわることが決まった。
 しかも、全て徒歩でまわらなければならない。
 一生かかっても無理な距離だった。
 しかも、彼が逃げられないように、足枷や手枷だけでなく見張りもつけられ、肉食獣が出る山道でも、彼は丸腰でいなければならなかった。

 イータ様はショーマ様に見捨てられたにも関わらず、思い続けることに決めたらしく、彼女は修道院に送られ、彼の帰りを待つことになったそうだ。

 ただ、ショーマ様が帰って来る確率はほぼない。
 武装をしていても多くの人が命を落としている山道に徒歩で行って、無事に帰ってこれるとは思えない。

 イータ様に対する罰は、自分を迎えに来てくれない愛する人を待って、最終的には絶望する日々になりそうだ。

 センマ様の新国王としての就任は国民だけでなく、他国からも歓迎され、現在は休む暇もないくらい忙しくされているらしい。

 そして、私はとても暇だった。
 
「退屈そうな顔してるな」

 今日はジェドと一緒に王城内で働いている人しか利用することのできないカフェに来ていた。
 働いている人専用と言いつつも、同伴者は身分が証明できれば入ることはできる。

「退屈だもの」

 仕事をすることは嫌いじゃない。
 でも、今までのような刺激がないのは退屈だわ。

「母上と父上がレイティアに会いたいと言ってた。それから、俺もレイティアの挨拶に会いに行きたいんだけど」
「まあ、そうなのね! 手土産は何がいいかしら?」

 ジェドと一緒にいるのに、退屈そうな顔をしているなんて失礼よね。
 そう思って尋ねた時だった。

 少し離れたテーブルのほうから鼻をすする音が聞こえてきた。

 店内には人があまりおらず、鼻をすすっている相手が誰だかすぐにわかった。

 すぐ近くのテーブルに座っている若い女性は向かい側に座る、同じく若い女性に訴えている。

「やめてほしいって言ったら暴力をふるわれるの。別れたいと言ったら監禁されそうになったの。……別れたい。でも、別れられないの」
「あなたの婚約者って、次男とはいえ公爵令息だものね」
「……ええ。別れたいって言ったら……、社交界で生きていけると思うなよって……」

 そこまで聞いた私は、思わず立ち上がる。

「おい、レイティア」

 止めてくるジェドに笑顔を向けると、諦めたような表情に変わった。

 ジェドが認めてくれたと判断して、私は泣いている女性に話し掛ける。

「盗み聞きをしてしまったみたいでごめんなさいね。でも、聞いてしまった以上は知らないフリをしていられないわ。良かったら詳しい話を聞かせてくれないかしら」

 どうやら、私は普通の人生を送ることは難しそうだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです!
お気に入り登録、しおり、エール、感想も励みになりました。
ありがとうございました。

急遽考えた話ですので、ちょっと設定が……、物足りないなどあるかと思いますが、そちらはお許しくださいませ。
ラブコメですから、そこは深く考えずにお願いします。
あと、ざまぁが足りないという報告もお控えください。
一応、続編を考えており、この続きに書くかもしれません。
もし、続きが気になられる方は、お気に入りはそのままにしておいていただければと思います。


※追記
レイティアたちのその後を読みたいと言ってくださる方がいらっしゃいますので、新作のほうにもサブキャラにはなりますが出そうと思います!
その辺につきましては近いうちに番外編を投稿しますので、お待ちいただけますと幸せです。

新作というのが下記になります。

「追放された令嬢は追放先を繁栄させるために奔走する」になります。
男性運は悪いけれど、とても金運の良い、気の強いヒロインでございます。

ご興味ありましたら、読んでいただけますと幸せです。


 最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。

待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。 妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。 ……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。 けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します! 自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】婚約者の好みにはなれなかったので身を引きます〜私の周囲がそれを許さないようです〜

葉桜鹿乃
恋愛
第二王子のアンドリュー・メルト殿下の婚約者であるリーン・ネルコム侯爵令嬢は、3年間の期間を己に課して努力した。 しかし、アンドリュー殿下の浮気性は直らない。これは、もうだめだ。結婚してもお互い幸せになれない。 婚約破棄を申し入れたところ、「やっとか」という言葉と共にアンドリュー殿下はニヤリと笑った。私からの婚約破棄の申し入れを待っていたらしい。そうすれば、申し入れた方が慰謝料を支払わなければならないからだ。 この先の人生をこの男に捧げるくらいなら安いものだと思ったが、果たしてそれは、周囲が許すはずもなく……? 調子に乗りすぎた婚約者は、どうやら私の周囲には嫌われていたようです。皆さまお手柔らかにお願いします……ね……? ※幾つか同じ感想を頂いていますが、リーンは『話を聞いてすら貰えないので』努力したのであって、リーンが無理に進言をして彼女に手をあげたら(リーンは自分に自信はなくとも実家に力があるのを知っているので)アンドリュー殿下が一発で廃嫡ルートとなります。リーンはそれは避けるべきだと向き合う為に3年間頑張っています。リーンなりの忠誠心ですので、その点ご理解の程よろしくお願いします。 ※HOT1位ありがとうございます!(01/10 21:00) ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも別名義で掲載予定です。

まさか、こんな事になるとは思ってもいなかった

あとさん♪
恋愛
 学園の卒業記念パーティでその断罪は行われた。  王孫殿下自ら婚約者を断罪し、婚約者である公爵令嬢は地下牢へ移されて——  だがその断罪は国王陛下にとって寝耳に水の出来事だった。彼は怒り、孫である王孫を改めて断罪する。関係者を集めた中で。  誰もが思った。『まさか、こんな事になるなんて』と。  この事件をきっかけに歴史は動いた。  無血革命が起こり、国名が変わった。  平和な時代になり、ひとりの女性が70年前の真実に近づく。 ※R15は保険。 ※設定はゆるんゆるん。 ※異世界のなんちゃってだとお心にお留め置き下さいませm(_ _)m ※本編はオマケ込みで全24話 ※番外編『フォーサイス公爵の走馬灯』(全5話) ※『ジョン、という人』(全1話) ※『乙女ゲーム“この恋をアナタと”の真実』(全2話) ※↑蛇足回2021,6,23加筆修正 ※外伝『真か偽か』(全1話) ※小説家になろうにも投稿しております。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます

柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。 社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。 ※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。 ※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意! ※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。

本当に妹のことを愛しているなら、落ちぶれた彼女に寄り添うべきなのではありませんか?

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアレシアは、婿を迎える立場であった。 しかしある日突然、彼女は婚約者から婚約破棄を告げられる。彼はアレシアの妹と関係を持っており、そちらと婚約しようとしていたのだ。 そのことについて妹を問い詰めると、彼女は伝えてきた。アレシアのことをずっと疎んでおり、婚約者も伯爵家も手に入れようとしていることを。 このまま自分が伯爵家を手に入れる。彼女はそう言いながら、アレシアのことを嘲笑っていた。 しかしながら、彼女達の父親はそれを許さなかった。 妹には伯爵家を背負う資質がないとして、断固として認めなかったのである。 それに反発した妹は、伯爵家から追放されることにになった。 それから間もなくして、元婚約者がアレシアを訪ねてきた。 彼は追放されて落ちぶれた妹のことを心配しており、支援して欲しいと申し出てきたのだ。 だが、アレシアは知っていた。彼も家で立場がなくなり、追い詰められているということを。 そもそも彼は妹にコンタクトすら取っていない。そのことに呆れながら、アレシアは彼を追い返すのであった。

処理中です...