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12 叩きのめして差し上げますけれど?

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 ショーマ様が眠っているうちに、あらゆる関係者に連絡を入れた。
 センマ様にはクプテン国の宰相たちなど、政治に関わる人たちに連絡を入れてもらい、本当にショーマ様が国王の座から降りても支障はないかの確認をしてもらった。

 元々、ショーマ様は政治には関わっておらず、国王がやらなければいけない仕事もセンマ様がやっていたそうなので、ショーマ様がいなくなっても困ることはないとわかった。

 各国の国王陛下からの返信はさすがにそう早くには来ない。
 でも、世論もショーマ様にはうんざりしているようだし、彼が降りると言うのであれば、センマ様やクプテン国の宰相たちの判断で、ショーマ様を国王の座から降ろしてあげて幸せに暮らしてもらおうという話でまとまった。

 しばらくすると、ショーマ様が目を覚まし、私に対してとても怒っているから、すぐにショーマ様の元に来るようにという連絡があった。

 ジェドと一緒にショーマ様のところへ行こうとエントランスホールまで来た時、扉の前に誰かが立っていることに気が付いた。

 ショーマ様を好きだと言っていた女性、ルヨレ様とその騎士のヨカバオダだった。
 ルヨレ様は私達が近付いていくと叫んでくる。

「ちょっとあなた! いい加減にしたらどうなの! ショーマ様を傷付けてどうしたいのよ!?」
「別に傷付けたいわけではありませんわ。今回に関しては、処刑だなんてしなくても良いことをされようとしていたので止めただけですわ」
「力技で止めるのがおかしいと言っているのよ!」

 ルヨレ様はそんな風に言うけれど、以前、ヨカバオダに「痛い目に遭わせて」とか命令していたわよね。

「もしかして、ルヨレ様もあまり記憶力はよろしくないのかしら? もしくは自分のことは棚に上げるタイプなのでしょうか」 
「は!?」
「もうお忘れでしたら結構ですわ」

 にこりと微笑んで、ポーチの中から扇を取り出す。
 以前はシルバートレイで対応させてもらったから、ヨルレ様達は私の扇のことを知らない。
 だからか、扇を取り出した私を見ても、驚いたり怯えたりする様子は見せなかった。

「くそっ! ルヨレ様に対してなんて生意気な態度なんだ!」

 ヨカバオダが剣を抜いたので、ジェドが私に話しかけてくる。

「こちらの相手は私がしますので、ルヨレ様のお相手をお願いできますでしょうか。もちろん、やり過ぎないようにお願い致します」
「もちろんよ。今回の件に関してやり過ぎたかどうかは、その人の捉え方によって違うと思うから、私なりにやり過ぎないようにするわね」

 バシバシと扇を左手の手のひらに当てながら笑顔で言うと、ジェドは呆れた顔をした。
 でもすぐに、表情を厳しいものにして、ヨカバオダに視線を移す。

 私に負けるようなヨカバオダにジェドが負けるとは思えないので、安心して任せることにする。
 そして、私とルヨレ様は巻き込まれないように、少しだけ離れた場所に移動した。

「一応、お聞きしますけれど、ルヨレ様は本当に私と戦うつもりですの?」
「あんたなんか私一人で十分よ!」

 どこからそんな自信が湧いてくるのかわからないけれど、ルヨレ様はそう叫んで勢いよく両手で私に掴みかかってきたので、その頭を扇で叩く。

「いっ! 痛いっ!」
「申し訳ございませんが忙しいんですの。これ以上、邪魔をされるようでしたら容赦なく叩きのめして差し上げますけれど? ですが、出来れば女性相手に酷いことはしたくありません。引いてもらえませんか?」

「な、何よ! あんたなんて、ヨカバオダがあなたの騎士を倒したらすぐに痛い目に」

 ルヨレ様が涙目で言ったところで「終わりました」とジェドの声が聞こえた。
 広いエントランスホールに視線を向けると、床に倒れているヨカバオダと、こちらに目を向けているジェドがいた。
 気絶しているのかヨカバオダは一切動かない。

「え? 嘘、そんな? もしかしてヨカバオダって弱いの!?」
「そうですね。弱くはありませんが強くもないと思います」

 ジェドが桁違いに強いだけなのか、それともヨカバオダの実力が大したものではないのかはわからない。

 ルヨレ様の質問に苦笑して答えたジェドの言葉を聞いて、ルヨレ様は私を見て焦った顔をして言う。

「え、えーと、その、暴力反対?」
「ええ、私もそう思いますわ」

 にっこりと笑顔を見せてから、彼女の顎近くに扇の飛び出し式ナイフの先を突きつける。

「ですから、これ以上、私の邪魔をされないようにお願い致します」

 ルヨレ様は何度も無言で首を縦に振ったあと、ぺたんとその場に崩れ落ちた。
 
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