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何とか自分の力で起き上がったイータ様は「覚えてなさいよ!」とお話の中で小物がよく言うセリフを叫んでから逃げ帰っていった。
案内の途中で放置されてしまったので、どうしたら良いのか困っていると、屋敷のメイドがやって来て部屋に案内してくれることになった。
レミー様のほうは「ありがとうございますっ!」と一言言ってから、扉を閉めて鍵をかけてしまった。
私たちの任務は囚われた騎士たちを助け出すことだから、別にレミー様に好かれなくても良い。
そのため、それについては何も言わずにメイドの案内に付いていった。
私の部屋は屋敷の奥にあり、ジェドの部屋はその隣だった。
部屋には天蓋付きの大きなベッドにドレッサー、書き物机と何も入っていない本棚、そして、ウォークインクローゼットがあった。
ウォークインクローゼットを開けてみると、なぜか黒のベビードールが何着か置かれていた。
デザインは同じなのでサイズが違うのかもしれない。
見なかったふりをして部屋に戻り、部屋の内部にある少し小さめの扉の意味を確認する。
扉を開けてみると、ジェドの部屋に続いていて廊下に出ずとも行き来できるようになっていた。
メイドたちが私の荷物を部屋に運んでくれて荷解きまでしてくれたけれど、ジェドは自分で荷解きをしていた。
「初っ端から目立ち過ぎだ」
作業が終わったのか、部屋の中の扉を使ってジェドは私の部屋にやって来るなりそう言った。
「そうかしら。でも、あんな歩きにくい格好をしているのだし、あんなことになることは覚悟していても良いと思うのよ」
「普通の令嬢はあんなことをしないんだよ。それに相手も普通じゃないから常識を求めるな」
「では、どうすれば良かったの?」
「レミー様を助けたことは良いことだ。その後のことを言ってるんだよ」
ジェドはそこまで言ってから、胸の前で腕を組み目を閉じてから言葉を続ける。
「……もう遅いか。喧嘩はしたくないし今回は折れる。だけど何度も言うけど、やり過ぎないでくれ」
「わかってるわ。別に私だってジェドと喧嘩したいわけじゃないもの。あなたが心配して言ってくれていることだって理解しているわ」
そう頷いた時だった。
早足で誰かが近づいてくる足音が聞こえてきた。
足音に反応したジェドが私を守るように扉と私の間に入る。
鍵をかけていなかったため、扉が勢い良く開き、エメラルドグリーンのストレートの髪を肩の位置で切り揃えた長身痩躯の男性が勝手に部屋の中に入ってきた。
「イータに嫌がらせをしたのは、あなたですか」
断りもなく部屋に入ってきた男性はジェドの後ろにいる私に向かって叫んだ。
顔だけ出して相手を確認すると、目は細く吊り上がっていて冷たそうな印象を受ける。
見た目としては万人受けするタイプではないけれど、美形タイプではある。
黒の長袖シャツの上から3番目までのボタンを開けていて、白い胸があらわになっている。
帯剣していて、右手はいつでも剣を抜けるようにか、剣の柄に当てられていた。
そんな彼の後ろにはイータ様がいて、口をへの地に曲げて私を睨んでいた。
どうやら、私の目の前にいるのはショーマ様で間違いないらしい。
髪と同じ色の瞳を私に向け、表情を歪ませてショーマ様は私とジェドに言う。
「黙ってないで何とか言いなさい! 自分が特別扱いされているからといって大きな態度ですか? マナーが悪いにも程がありますよ!」
マナーのことをショーマ様に指摘されるとは思わなかったわ。
呆れ返ってしまったけれど、挨拶をしていないことに気が付き、ジェドの横に立ってカーテシーをする。
「クプテン国の国王陛下にご挨拶いたします。イエラ国より参りました、レイティア・ナラシールと申します。陛下にお会いできて光栄ですわ」
「……何ですか。人の言葉が理解できるなら、さっさと話せば良いものを。でももう、遅いですよ。あなたは私を怒らせました。今回のペナルティとして、この令嬢の髪を切りましょう」
そう言って、ショーマ様は廊下のほうを振り返った。
すると、子どものように小さい体型で、まったく感情の読めない無表情の中年男性が私たちに見える位置に姿を現した。
たしか、ショーマ様には彼に媚を売っているという側近がいる。
ダイネ・チョーカという名前の伯爵で、金に目がない男性だと調書で読んだ。
チョーカ伯爵は鼻の下に生やしたハの字型の黒い髭に触れたあと、無言で左手を横に伸ばした。
私たちに見えない位置にいた見知らぬ令嬢は、チョーカ伯爵に引っ張られて、部屋に無理矢理入れられた。
「た、助けてくださいませ」
踝まである長く赤い髪をハーフアップにし、紫色のドレスを着た小柄な女性は、ショーマ様の横に座り込んで涙を流す。
「助けてください。お願いです。髪が長いことが私たちの国の女性では重視されているのです」
女性はぶるぶると体を震わせながら、ショーマ様に訴えた。
髪の長さを重視する国というと、プシャン国しかない。
私以外の婚約者の5人の内の1人にプシャン国の令嬢がいるから、彼女はその1人だと思われる。
リシャード国の2人以外はある程度の情報は頭に入れてきているので、そう判断した。
「大丈夫ですよ。髪を切るだけです。命は奪いませんよ? あなたの国では髪が長いほど美しいとも言われるのでしたっけ? それなら髪を切って剃り上げて差し上げましょう。あなたは心が汚いですからね。それから私を恨まないでくださいよ。恨むなら、自分とそこにいる女性を恨みなさい」
そう言って、私を指差してからヒューマ様が剣を抜こうとした。
その瞬間、ゴッという音がして廊下に立っていたチョーカ伯爵が後ろにひっくり返った。
「何事です!?」
大きな音がしたため、ショーマ様は部屋の外の廊下に顔を向ける。
その間に、私は座り込んで泣いている女性、ハーミー・スガニナデカ様に声を掛ける。
「立つことはできますか? 1人で立てないようでしたら、よろしければ私の騎士の手をお貸しましょうか?」
私は普段はワンピースドレスだし、今日は水色のシュミーズドレスを着ていて、動きやすい格好をしている。
でも、普通の令嬢はそうではない。
1人で立ち上がるのも一苦労といったようなドレスをきている人もいるから声を掛けてみた。
「え……」
ハーミー様は私に話しかけられて驚いた顔をしたあと、ジェドに目を向ける。
そして、白い頰を一瞬にしてピンク色に染めた。
学生時代によく見た光景だわ。
ジェドは優しい笑みを浮かべて白手袋をした手をハーミー様に差し出す。
「私の主人がそう言っておりますので、よろしければどうぞ」
「あ、あ、ありがとうございます」
ハーミー様はジェドの顔を見つめたまま、彼の手の上に自分の手をのせて立ち上がった。
「しっかりしなさい! 何があったんですか!?」
ショーマ様は気を失っている男性を揺さぶって起こそうとしたけれど無駄だった。
私はミーハー様をジェドに任せて、様子を見に来たふりをして、さりげなく廊下に落ちていたジェドの放ったコインを回収する。
「気を失っておられるようですわね。お医者様を呼ばれたほうがよろしいかと思いますわ」
「私に指図しないでください!」
ショーマは叫ぶと、今度こそ抜剣しようとしたのか、剣の柄を掴んだ。
けれど、ゴツッという音がして、ショーマ様は手を剣の柄に当てたまま、ばたりと床に倒れた。
銀色のコインが廊下の赤いカーペットの上に落ちたので、すぐに拾ってポーチの中に入れてから叫ぶ。
「まあ、大変! ショーマ様まで倒れてしまいましたわ! イータ様、どうさせていただきましょうか?」
この国にはラオナイナ病院の院長の知り合いが経営しているサオナイナヨ病院がある。
そこに送って差し上げたいけど、王家にはお抱えの医師がいるでしょうから無理よね。
「どうしたもこうしたもないですわ! ああ、お兄様、しっかりしてくださいませ! イータを置いて死なないでくださいませ! お兄様ぁ!」
イータ様は廊下で倒れているショーマ様の傍らにしゃがみ、泣きながら彼の体を揺らす。
動かない大きなゴミが部屋の前で2つもあると厄介だわ。
どうしようかと思っていると、ショーマ様にも騎士がいるらしく、防具を付けた3人の若い男性がこちらを唖然とした表情で見つめていることに気が付いた。
そのため、ゴミを持って帰ってもらおうと話しかける。
「申し訳ないけれど急病人だわ。お部屋に連れ帰ってお医者様を呼んでくださらない?」
「承知いたしました」
「お兄様、お兄様ぁ!」
騎士がショーマ様を抱え上げると、イータ様も立ち上がり、ショーマ様の腕にしがみつく。
歩き出した騎士と共にそのまま去ってくれれば良いものを、イータ様はハッとした顔をしてショーマ様の腕を離した。
「わたくしは絶対にあなたを認めませんわ! あなたのこともよ!」
そう叫んだイータ様は、私の部屋の中に戻り、ハーミー様の髪の毛を掴もうとした。
急いで追いかけて、その手の甲を扇で叩く。
「痛いっ! 何するんですの!?」
「悪さをする虫がいたようですから叩きましたの」
「む、虫ですって!? 追い払ってくれたの!?」
「はい」
手を引っ込めてくれたので頷く。
すると「ならいいわ」と言って、またイータ様がハーミー様の髪に手を伸ばしたので、扇で手の甲を叩いた。
「何がしたいのよ!?」
「ですから虫が……」
「あなた、もしかしてわたくしのことを虫と言ってるんじゃないでしょうね!?」
性懲りもなく、イータ様は私に掴みかかってきたので、横に避けてから彼女の首の後ろに手刀した。
気を失ってし崩れ落ちるイータ様をジェドが抱きとめてくれたので、彼女は床に倒れずに済んだ。
「レイティア様」
イータ様の体を支え、やり過ぎだと言わんばかりに私を見るジェドに謝る。
「ごめんなさい。でも、そうでもしないと闘牛ショーがいつまでも続きそうだったでしょう?」
笑顔で応えると、ジェドは大きく息を吐いた。
そして、それ以上は私に何も言うことはなく、イータ様の騎士に気を失った彼女を任せた。
そんなジェドを見るハーミー様の目にハートが見えたような気がしたけれど、その点については気にしないことにした。
ジェドは呼吸をするのが当たり前のように、人を助けることも当たり前の行為だと思っている。
それを知らない女性たちはハーミー様のように簡単にジェドに恋に落ちてしまう。
今回もそのパターンかしら。
「あなたは本当に悪い人ね。もちろん良い人でもあるんだけど」
「ん?」
横に立って呟くと、ジェドは不思議そうな顔をして私を見つめた。
※
登場人物が多いので、登場人物紹介を1話の前にいれました。
よろしければ見てみてくださいませ。
案内の途中で放置されてしまったので、どうしたら良いのか困っていると、屋敷のメイドがやって来て部屋に案内してくれることになった。
レミー様のほうは「ありがとうございますっ!」と一言言ってから、扉を閉めて鍵をかけてしまった。
私たちの任務は囚われた騎士たちを助け出すことだから、別にレミー様に好かれなくても良い。
そのため、それについては何も言わずにメイドの案内に付いていった。
私の部屋は屋敷の奥にあり、ジェドの部屋はその隣だった。
部屋には天蓋付きの大きなベッドにドレッサー、書き物机と何も入っていない本棚、そして、ウォークインクローゼットがあった。
ウォークインクローゼットを開けてみると、なぜか黒のベビードールが何着か置かれていた。
デザインは同じなのでサイズが違うのかもしれない。
見なかったふりをして部屋に戻り、部屋の内部にある少し小さめの扉の意味を確認する。
扉を開けてみると、ジェドの部屋に続いていて廊下に出ずとも行き来できるようになっていた。
メイドたちが私の荷物を部屋に運んでくれて荷解きまでしてくれたけれど、ジェドは自分で荷解きをしていた。
「初っ端から目立ち過ぎだ」
作業が終わったのか、部屋の中の扉を使ってジェドは私の部屋にやって来るなりそう言った。
「そうかしら。でも、あんな歩きにくい格好をしているのだし、あんなことになることは覚悟していても良いと思うのよ」
「普通の令嬢はあんなことをしないんだよ。それに相手も普通じゃないから常識を求めるな」
「では、どうすれば良かったの?」
「レミー様を助けたことは良いことだ。その後のことを言ってるんだよ」
ジェドはそこまで言ってから、胸の前で腕を組み目を閉じてから言葉を続ける。
「……もう遅いか。喧嘩はしたくないし今回は折れる。だけど何度も言うけど、やり過ぎないでくれ」
「わかってるわ。別に私だってジェドと喧嘩したいわけじゃないもの。あなたが心配して言ってくれていることだって理解しているわ」
そう頷いた時だった。
早足で誰かが近づいてくる足音が聞こえてきた。
足音に反応したジェドが私を守るように扉と私の間に入る。
鍵をかけていなかったため、扉が勢い良く開き、エメラルドグリーンのストレートの髪を肩の位置で切り揃えた長身痩躯の男性が勝手に部屋の中に入ってきた。
「イータに嫌がらせをしたのは、あなたですか」
断りもなく部屋に入ってきた男性はジェドの後ろにいる私に向かって叫んだ。
顔だけ出して相手を確認すると、目は細く吊り上がっていて冷たそうな印象を受ける。
見た目としては万人受けするタイプではないけれど、美形タイプではある。
黒の長袖シャツの上から3番目までのボタンを開けていて、白い胸があらわになっている。
帯剣していて、右手はいつでも剣を抜けるようにか、剣の柄に当てられていた。
そんな彼の後ろにはイータ様がいて、口をへの地に曲げて私を睨んでいた。
どうやら、私の目の前にいるのはショーマ様で間違いないらしい。
髪と同じ色の瞳を私に向け、表情を歪ませてショーマ様は私とジェドに言う。
「黙ってないで何とか言いなさい! 自分が特別扱いされているからといって大きな態度ですか? マナーが悪いにも程がありますよ!」
マナーのことをショーマ様に指摘されるとは思わなかったわ。
呆れ返ってしまったけれど、挨拶をしていないことに気が付き、ジェドの横に立ってカーテシーをする。
「クプテン国の国王陛下にご挨拶いたします。イエラ国より参りました、レイティア・ナラシールと申します。陛下にお会いできて光栄ですわ」
「……何ですか。人の言葉が理解できるなら、さっさと話せば良いものを。でももう、遅いですよ。あなたは私を怒らせました。今回のペナルティとして、この令嬢の髪を切りましょう」
そう言って、ショーマ様は廊下のほうを振り返った。
すると、子どものように小さい体型で、まったく感情の読めない無表情の中年男性が私たちに見える位置に姿を現した。
たしか、ショーマ様には彼に媚を売っているという側近がいる。
ダイネ・チョーカという名前の伯爵で、金に目がない男性だと調書で読んだ。
チョーカ伯爵は鼻の下に生やしたハの字型の黒い髭に触れたあと、無言で左手を横に伸ばした。
私たちに見えない位置にいた見知らぬ令嬢は、チョーカ伯爵に引っ張られて、部屋に無理矢理入れられた。
「た、助けてくださいませ」
踝まである長く赤い髪をハーフアップにし、紫色のドレスを着た小柄な女性は、ショーマ様の横に座り込んで涙を流す。
「助けてください。お願いです。髪が長いことが私たちの国の女性では重視されているのです」
女性はぶるぶると体を震わせながら、ショーマ様に訴えた。
髪の長さを重視する国というと、プシャン国しかない。
私以外の婚約者の5人の内の1人にプシャン国の令嬢がいるから、彼女はその1人だと思われる。
リシャード国の2人以外はある程度の情報は頭に入れてきているので、そう判断した。
「大丈夫ですよ。髪を切るだけです。命は奪いませんよ? あなたの国では髪が長いほど美しいとも言われるのでしたっけ? それなら髪を切って剃り上げて差し上げましょう。あなたは心が汚いですからね。それから私を恨まないでくださいよ。恨むなら、自分とそこにいる女性を恨みなさい」
そう言って、私を指差してからヒューマ様が剣を抜こうとした。
その瞬間、ゴッという音がして廊下に立っていたチョーカ伯爵が後ろにひっくり返った。
「何事です!?」
大きな音がしたため、ショーマ様は部屋の外の廊下に顔を向ける。
その間に、私は座り込んで泣いている女性、ハーミー・スガニナデカ様に声を掛ける。
「立つことはできますか? 1人で立てないようでしたら、よろしければ私の騎士の手をお貸しましょうか?」
私は普段はワンピースドレスだし、今日は水色のシュミーズドレスを着ていて、動きやすい格好をしている。
でも、普通の令嬢はそうではない。
1人で立ち上がるのも一苦労といったようなドレスをきている人もいるから声を掛けてみた。
「え……」
ハーミー様は私に話しかけられて驚いた顔をしたあと、ジェドに目を向ける。
そして、白い頰を一瞬にしてピンク色に染めた。
学生時代によく見た光景だわ。
ジェドは優しい笑みを浮かべて白手袋をした手をハーミー様に差し出す。
「私の主人がそう言っておりますので、よろしければどうぞ」
「あ、あ、ありがとうございます」
ハーミー様はジェドの顔を見つめたまま、彼の手の上に自分の手をのせて立ち上がった。
「しっかりしなさい! 何があったんですか!?」
ショーマ様は気を失っている男性を揺さぶって起こそうとしたけれど無駄だった。
私はミーハー様をジェドに任せて、様子を見に来たふりをして、さりげなく廊下に落ちていたジェドの放ったコインを回収する。
「気を失っておられるようですわね。お医者様を呼ばれたほうがよろしいかと思いますわ」
「私に指図しないでください!」
ショーマは叫ぶと、今度こそ抜剣しようとしたのか、剣の柄を掴んだ。
けれど、ゴツッという音がして、ショーマ様は手を剣の柄に当てたまま、ばたりと床に倒れた。
銀色のコインが廊下の赤いカーペットの上に落ちたので、すぐに拾ってポーチの中に入れてから叫ぶ。
「まあ、大変! ショーマ様まで倒れてしまいましたわ! イータ様、どうさせていただきましょうか?」
この国にはラオナイナ病院の院長の知り合いが経営しているサオナイナヨ病院がある。
そこに送って差し上げたいけど、王家にはお抱えの医師がいるでしょうから無理よね。
「どうしたもこうしたもないですわ! ああ、お兄様、しっかりしてくださいませ! イータを置いて死なないでくださいませ! お兄様ぁ!」
イータ様は廊下で倒れているショーマ様の傍らにしゃがみ、泣きながら彼の体を揺らす。
動かない大きなゴミが部屋の前で2つもあると厄介だわ。
どうしようかと思っていると、ショーマ様にも騎士がいるらしく、防具を付けた3人の若い男性がこちらを唖然とした表情で見つめていることに気が付いた。
そのため、ゴミを持って帰ってもらおうと話しかける。
「申し訳ないけれど急病人だわ。お部屋に連れ帰ってお医者様を呼んでくださらない?」
「承知いたしました」
「お兄様、お兄様ぁ!」
騎士がショーマ様を抱え上げると、イータ様も立ち上がり、ショーマ様の腕にしがみつく。
歩き出した騎士と共にそのまま去ってくれれば良いものを、イータ様はハッとした顔をしてショーマ様の腕を離した。
「わたくしは絶対にあなたを認めませんわ! あなたのこともよ!」
そう叫んだイータ様は、私の部屋の中に戻り、ハーミー様の髪の毛を掴もうとした。
急いで追いかけて、その手の甲を扇で叩く。
「痛いっ! 何するんですの!?」
「悪さをする虫がいたようですから叩きましたの」
「む、虫ですって!? 追い払ってくれたの!?」
「はい」
手を引っ込めてくれたので頷く。
すると「ならいいわ」と言って、またイータ様がハーミー様の髪に手を伸ばしたので、扇で手の甲を叩いた。
「何がしたいのよ!?」
「ですから虫が……」
「あなた、もしかしてわたくしのことを虫と言ってるんじゃないでしょうね!?」
性懲りもなく、イータ様は私に掴みかかってきたので、横に避けてから彼女の首の後ろに手刀した。
気を失ってし崩れ落ちるイータ様をジェドが抱きとめてくれたので、彼女は床に倒れずに済んだ。
「レイティア様」
イータ様の体を支え、やり過ぎだと言わんばかりに私を見るジェドに謝る。
「ごめんなさい。でも、そうでもしないと闘牛ショーがいつまでも続きそうだったでしょう?」
笑顔で応えると、ジェドは大きく息を吐いた。
そして、それ以上は私に何も言うことはなく、イータ様の騎士に気を失った彼女を任せた。
そんなジェドを見るハーミー様の目にハートが見えたような気がしたけれど、その点については気にしないことにした。
ジェドは呼吸をするのが当たり前のように、人を助けることも当たり前の行為だと思っている。
それを知らない女性たちはハーミー様のように簡単にジェドに恋に落ちてしまう。
今回もそのパターンかしら。
「あなたは本当に悪い人ね。もちろん良い人でもあるんだけど」
「ん?」
横に立って呟くと、ジェドは不思議そうな顔をして私を見つめた。
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登場人物が多いので、登場人物紹介を1話の前にいれました。
よろしければ見てみてくださいませ。
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