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30  胸が高鳴る

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 次の日、ルーと一緒にミュラーを見送りに向かった。
 
「申し訳ないけど、落ち着いたらまた、こっちに来てくれないか。ティナに紹介したいんだ。連絡をくれれば、迎えのものをそちらに送ろう」
「ありがとうございます、ルーザー殿下」

 ミュラーはルーに頭を下げたあと、私を見て微笑む。

「今回の件はお前のせいじゃないから気にすんなよ?」
「気にはするわよ。だけど、ウジウジはしない事にする」
「その方がお前らしい」
「ところで、ビアンカとは昨日、何の話をしたんだ? 差し支えなければ教えてほしいんだが」

 私とミュラーが話をしていると、ルーがミュラーに尋ねたので、彼はその時の事を思い出すように眉を寄せてから答える。

「大した話はしてませんが、俺の婚約者はどうするのかとか、自分の事はどう思うかとか、そんな話でした」
「ビアンカ様についてはなんて答えたの?」

 野次馬根性が出てしまい聞いてみると、ミュラーは眉を寄せたままで言う。

「あまりお話をした事がないので判断できませんって答えた」
「どんな反応してた?」
「ショックを受けたような顔をしてたな。一体、なんだったんだ?」
「私からは言えないわ」

 苦笑して首を横に振ると、ミュラーは不思議そうな顔をした。
 それから少し話をして、私達は日にちは決めていないけれど、また会う約束をして別れた。

 ミュラーを見送ったあと、宿に向かって帰りながら、ルーに尋ねる。

「ビアンカ様は勝手に自滅してくれそうですし、あとの問題はタントスの事なんですけど、彼は今はどうしてるんでしょう?」
「その件なんだが、やはり、ビアンカは婚約を破棄した」
「何を考えてるんでしょう。まだ、ミュラーの件は知らないんですよね?」
「みたいだな。キーライズン家に手紙を送ったようだから、ミュラーに対しての婚約の申込みの手紙かもしれない」
「ちょっと気の毒になってきますね」

 ミュラーにビアンカとは結婚してほしくないけど、ここまでして報われないビアンカの事も少し気の毒に思えてきた。
 まあ、自業自得ではあるけど。

「それはしょうがないだろう。それに、俺がミュラーだったら、好き勝手に婚約や婚約破棄を繰り返すビアンカなんてお断りだし」
「そうですね。それに、ミュラーと話がしたいからって、変な男を雇って、彼を怖がらせるくらいですからね」 
「まあな…。で、ミゲル伯爵令息の話に戻るけど、リアラの泊まっている宿まで、さっきは来ていたみたいなんだ。だけど、宿の人間が不審者として通報した」
「不審者扱いされるって、どんな感じで訪ねてきてたんですか…」
「宿の受付の前でウロウロしているから、宿の人間が声をかけたらしい。そうすると、リアラが泊まっているだろうから、リアラを呼び出せと、宿の受付に詰め寄ったらしいんだ」
「宿の方にご迷惑をおかけしてしまったんですね…」

 大きくため息を吐いてから、意を決して、ルーに相談してみる。

「本当はあんな奴に会いたくはないんですが、このままでは色々な人に迷惑をかけてしまいそうなので、こちらから会いに行こうと思うんですが駄目ですかね? もしくは会う機会を設けようかと」
「あの男がどんな事をしてくるかわからないから、あまり良くないんじゃないか?」
「でも、どうせ、不審者で捕まったとしても、貴族ですからお金を積んですぐに出てきて、また、私に会おうとしますよね? そうなると、私に関係のない他の人にまで迷惑がかかってしまうので、それは嫌なんですよ。もちろん、家に帰ればいいだけなのかもしれませんが、それはそれで追いかけてきそうですし」
「どうするつもりだ? 話し合いの場を設けて付きまとうなって警告するのか?」
「ええ。もうタントスに興味がない事を伝えようと思います。だから、周りをウロウロされるよりかは、日にちを決めて会った方が良い気がするんです。絶対に二人きりでは会いたくないですけど」

 私の考えを聞いて、ルーは顎に手を当てて考えるような仕草を見せたあと頷いてくれる。

「わかった。でも、俺も同席する。何かあったらいけないからな」
「それは心強いです!」
「当たり前の事だけど、リアラが危なくなるかもしれないのに、何もせずに黙って待っていられないだろ?」

 照れくさそうに微笑んだルーを見て、胸が高鳴る。

 ルーも少しは私を意識してくれているのかしら?
 そうだと嬉しいな。
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