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「何考えてんだよ! リアラには殿下がいるんだ」
ミュラーが叫ぶと、キーライズン辺境伯は彼を睨む。
「うるさい。お前みたいな奴と婚約してくれる人間が他にはいるとは思えないから、私が用意してやると言っているんだ」
「そんなの俺は望んでない!」
そこまで言って、傷が痛んだのか、ミュラーは顔を歪めて口を閉じた。
私とルーは、キーライズン辺境伯を押し退けて、ミュラーに近寄る。
「ミュラー、無理しないで」
「無理はしてない…。だけど」
「君はいい奴だな」
私を見て心配げな顔をしたミュラーに、ルーが苦笑して言うと、ミュラーは首を横に振る。
「別にそういう訳じゃありません。無理に婚約者になってもらおうとするのが嫌なだけです」
「贅沢な事を言うな! 勝手な事ばかりしておいて、よくそんな事が言えるものだな!」
キーライズン辺境伯がミュラーに怒鳴った時だった。
さっき、ルーが耳打ちしていた騎士の人がやって来て、ルーに言う。
「とりあえず、会ってみたいという事でした」
「ありがとう。助かった」
ルーはそう言って、騎士の人をねぎらうと、キーライズン辺境伯に向かって言う。
「良かったら、ミュラーに良いんじゃないかという女性がいるんだが、彼女では駄目かな」
「そんなに良い人がいるなら、殿下の婚約者にいかがですか」
キーライズン辺境伯がどこか不遜な態度で言い返すと、ルーは眉間にシワを寄せて首を横に振る。
「俺では絶対に駄目なんだ」
「殿下には駄目で、うちの息子には良いと? 一応、聞いておきましょう。どこの馬の骨なんですか」
キーライズン辺境伯は気が立っているのか、ルーに対して偉そうに聞くと、ルーはけろっとした顔で答える。
「ティナだ」
「ティナ…?」
キーライズン辺境伯ではなく、私が聞き返した。
「知ってるだろ?」
「お、お会いした事はありませんけど、お名前だけは…」
「まさか…」
ミュラーもルーが自分に誰を紹介しようとしているか気が付いた様で、ぽかんとした表情で口を大きく開けた。
「ティナ様とはどこの令嬢で?」
キーライズン辺境伯は誰だかわかっていないようで、横柄な態度のまま聞き返した。
この人、ルーが第5王子だからって、なめてかかってるのかしら?
第5王子でも、辺境伯なんかよりも偉いのに。
さすがのルーも少しムッとした顔で答える。
「ティナ・クレミナル。俺の妹だ。第1王女の名前も知らないのか」
「だ、第1王女様!? ぞ、存じ上げております!」
キーライズン辺境伯が、血相を変えて叫んだ。
そんな彼にルーが不機嫌そうに言う。
「そういえば、俺の妹を馬の骨とか言っていたな。父も母もティナの事をとても可愛がっているから、そんな事を聞いたら怒るだろうな。連続で男ばかりが生まれて、待望の女の子だったから余計に溺愛してるのに」
「と、とんでもございません! ティナ様だとわかっておりましたら」
キーライズン辺境伯は慌てた様子でルーの言葉に首を横に振った。
「他の令嬢だったら馬鹿にしていたという訳か? それもおかしいだろう」
「申し訳ございません、殿下。お許しください」
突然、キーライズン辺境伯は下手に出始めた。
自分の息子が王女を娶るだなんてなったら、爵位は変わらずとも、今まで以上に権力を誇示できる立場になるだろうから、彼にとって好都合なんだろう。
「ルーザー殿下…、お気持ちは嬉しいのですが、俺なんかがそんな」
「そ、そうだ! よろしければうちの長男はどうでしょう? 私に似て優秀な男です。こんなうだつが上がらない次男よりも長男の方が」
キーライズン辺境伯のミュラーに対する評価があまりにも低すぎる気がして、文句を言いそうになったけれど、先にルーが、キーライズン辺境伯の言葉を遮った。
「俺は、ミュラーだから妹の婚約者にしても良いと思ったんだ。あなたの長男はよっぽど優秀な人間なのかもしれないが、あなたに似てるというなら、人間性が好きじゃない」
ルーにはっきりと告げられ、キーライズン辺境伯は、ぐうの音も出ないのか、口をへの時に曲げただけだった。
「というわけなんだが、どうだ?」
ルーがミュラーに笑顔を向けた。
「それは、もちろん、有り難いですけど、俺、口も悪いしマナーもあまり良くないですよ」
「大丈夫だ。もちろん、君にも直していってもらう事があるかもしれないが、そんな事くらいで嫌う子じゃない」
ルーの言葉にミュラーはなんとも言えない顔をしていたけれど、真顔になって頭を下げる。
「ご厚意に感謝いたします」
ミュラーの言葉を聞いて、ルーは静かに微笑んだ。
ミュラーが叫ぶと、キーライズン辺境伯は彼を睨む。
「うるさい。お前みたいな奴と婚約してくれる人間が他にはいるとは思えないから、私が用意してやると言っているんだ」
「そんなの俺は望んでない!」
そこまで言って、傷が痛んだのか、ミュラーは顔を歪めて口を閉じた。
私とルーは、キーライズン辺境伯を押し退けて、ミュラーに近寄る。
「ミュラー、無理しないで」
「無理はしてない…。だけど」
「君はいい奴だな」
私を見て心配げな顔をしたミュラーに、ルーが苦笑して言うと、ミュラーは首を横に振る。
「別にそういう訳じゃありません。無理に婚約者になってもらおうとするのが嫌なだけです」
「贅沢な事を言うな! 勝手な事ばかりしておいて、よくそんな事が言えるものだな!」
キーライズン辺境伯がミュラーに怒鳴った時だった。
さっき、ルーが耳打ちしていた騎士の人がやって来て、ルーに言う。
「とりあえず、会ってみたいという事でした」
「ありがとう。助かった」
ルーはそう言って、騎士の人をねぎらうと、キーライズン辺境伯に向かって言う。
「良かったら、ミュラーに良いんじゃないかという女性がいるんだが、彼女では駄目かな」
「そんなに良い人がいるなら、殿下の婚約者にいかがですか」
キーライズン辺境伯がどこか不遜な態度で言い返すと、ルーは眉間にシワを寄せて首を横に振る。
「俺では絶対に駄目なんだ」
「殿下には駄目で、うちの息子には良いと? 一応、聞いておきましょう。どこの馬の骨なんですか」
キーライズン辺境伯は気が立っているのか、ルーに対して偉そうに聞くと、ルーはけろっとした顔で答える。
「ティナだ」
「ティナ…?」
キーライズン辺境伯ではなく、私が聞き返した。
「知ってるだろ?」
「お、お会いした事はありませんけど、お名前だけは…」
「まさか…」
ミュラーもルーが自分に誰を紹介しようとしているか気が付いた様で、ぽかんとした表情で口を大きく開けた。
「ティナ様とはどこの令嬢で?」
キーライズン辺境伯は誰だかわかっていないようで、横柄な態度のまま聞き返した。
この人、ルーが第5王子だからって、なめてかかってるのかしら?
第5王子でも、辺境伯なんかよりも偉いのに。
さすがのルーも少しムッとした顔で答える。
「ティナ・クレミナル。俺の妹だ。第1王女の名前も知らないのか」
「だ、第1王女様!? ぞ、存じ上げております!」
キーライズン辺境伯が、血相を変えて叫んだ。
そんな彼にルーが不機嫌そうに言う。
「そういえば、俺の妹を馬の骨とか言っていたな。父も母もティナの事をとても可愛がっているから、そんな事を聞いたら怒るだろうな。連続で男ばかりが生まれて、待望の女の子だったから余計に溺愛してるのに」
「と、とんでもございません! ティナ様だとわかっておりましたら」
キーライズン辺境伯は慌てた様子でルーの言葉に首を横に振った。
「他の令嬢だったら馬鹿にしていたという訳か? それもおかしいだろう」
「申し訳ございません、殿下。お許しください」
突然、キーライズン辺境伯は下手に出始めた。
自分の息子が王女を娶るだなんてなったら、爵位は変わらずとも、今まで以上に権力を誇示できる立場になるだろうから、彼にとって好都合なんだろう。
「ルーザー殿下…、お気持ちは嬉しいのですが、俺なんかがそんな」
「そ、そうだ! よろしければうちの長男はどうでしょう? 私に似て優秀な男です。こんなうだつが上がらない次男よりも長男の方が」
キーライズン辺境伯のミュラーに対する評価があまりにも低すぎる気がして、文句を言いそうになったけれど、先にルーが、キーライズン辺境伯の言葉を遮った。
「俺は、ミュラーだから妹の婚約者にしても良いと思ったんだ。あなたの長男はよっぽど優秀な人間なのかもしれないが、あなたに似てるというなら、人間性が好きじゃない」
ルーにはっきりと告げられ、キーライズン辺境伯は、ぐうの音も出ないのか、口をへの時に曲げただけだった。
「というわけなんだが、どうだ?」
ルーがミュラーに笑顔を向けた。
「それは、もちろん、有り難いですけど、俺、口も悪いしマナーもあまり良くないですよ」
「大丈夫だ。もちろん、君にも直していってもらう事があるかもしれないが、そんな事くらいで嫌う子じゃない」
ルーの言葉にミュラーはなんとも言えない顔をしていたけれど、真顔になって頭を下げる。
「ご厚意に感謝いたします」
ミュラーの言葉を聞いて、ルーは静かに微笑んだ。
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