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ルーが私の婚約者だと言ってくれたからか、その場の人間の殺気がおさまり、張り詰めていた空気が一瞬にして緩んだ。
それにしても、ルーのお仲間さんが怒るのはわかるとしても、騎士さん達が怒るとは思わなかった。
でも、よくよく考えてみたら、私との婚約はルーが先に言い出したのだから、私を馬鹿にするという事は、そんな私を選んだ自分の主人を馬鹿にされたと思ったのかもしれない。
「というわけで、ミュラー。私、ルーザー殿下と婚約する事になったの」
できれば、ルーの胸に身体を寄せたいところだけれど、そんな事をしたら、ルーがどうなるかわからない。
今でも、必死に平静を装ってくれているし…。
こんな状態で、彼と私、ダンスを踊れるのかしら?
って、今はそんな事を考えてる場合じゃなかった。
「嘘だろ…。だけど、お前の親父さんはまだ決まってないって」
「今日の朝にルーザー殿下と婚約しますって手紙を出したのよ。だから、お父様は知らなかったんだわ」
「……そうかよ」
ミュラーは不貞腐れた顔になって続ける。
「相手からも婚約破棄は喜ばれたし、一番惨めなのは俺か」
「どういう事?」
「よくわからないが、誰かは教えてくれなかったが、元婚約者の方に俺と婚約を解消する様に圧力がかかってたらしい。だけど、自分から婚約解消は言い出せなかったんだってさ。まあ、これに関しては向こうの願い通り、俺が言い出したんだから自業自得だけど」
「そんな…」
ミュラーが可哀想だと思うし、気持ちは嬉しいけど、私はルーが好きだから、ミュラーと婚約はできない。
婚約解消の圧力をかけたのは、ビアンカだろうと思う。
ビアンカも馬鹿ね。
婚約破棄をさせて、その後釜におさまるつもりだったけど、ミュラーが私に婚約を申し込もうとしている事に気付いて、私に文句を言ってきた、ってところかしら。
「ごめんなさい、ミュラー」
「リアラは悪くない」
ミュラーが苦笑して首を横に振った。
「聞きたいんだが、どうしてキーライズン卿は、こいつらに追われてたんだ?」
ルーがさりげなく手をはなし、私から距離を取って、横たわっている男を指差して尋ねた。
「俺もよくわかりません。リアラのいる宿に向かっていたら、いきなり絡まれたんです」
「それで鬼ごっこしてたの? 警察に助けを求めれば良かったのに」
「パニックになってそれどころじゃなかったし、大体、どこにあるかわからなかったから」
「場所がわからないのに、どうやって私に会うつもりだったの? それに、あなた、護衛はどうしたの?」
「それは」
「…キーライズン卿、君の宿の場所はわかるか?」
話をしていると、ルーが会話に入ってきて、ミュラーに尋ねる。
「名前しかわかりません。近くに行けばわかると思うんですが」
「俺の部下に送らせよう」
「ありがとうございます、殿下」
ミュラーが頭を下げると、ルーは屋根の上にいた、お仲間さんに指示を始めた。
その間に、ミュラーに話しかける。
「ミュラー、あなた、一度ビアンカ様と話をしてくれない?」
「どうして俺が?」
「あなたの所に、ビアンカ様から婚約の打診は来ていなかった?」
「さあ? というか、あの女はお前の元婚約者が婚約者になったんじゃないのか?」
「そうなんだけど…」
ビアンカがあなたの事を好きなのよ、と言ってしまいたいけれど、さすがに言えなかった。
彼女に頼まれたならまだしも、嫌いだからって何をしてもいいわけじゃない。
「キーライズン卿を追いかけていた男達の目的は、キーライズン卿をビアンカの所へ連れていきたかったようだ」
「普通に会いにこれないものなんでしょうか。あんな奴らに話しかけられたら、普通は逃げると思うんですが…」
ミュラーは、はあと大きく息を吐くとルーに言う。
「申し訳ございませんが、私をエッジホール公爵令嬢の所へ連れていってもらえないでしょうか。次にまた、こんな事をされても困りますので」
「わかった。案内させよう」
ルーは頷き、お仲間さんに新たな指示を与えた。
今日は会った事のない人だけれど、私のことを知っているらしく、ルーにブツブツ言っている。
「ボスは何を呑気にしてるんですか。このままじゃ、お嬢をとられちゃいますよ!」
「ん? 何でだ?」
「いや、あんた、彼の態度を見たらわかるでしょうに!」
「彼女は俺の婚約者だと、はっきり伝えておいただろ?」
「そんな問題じゃない!」
お仲間さんは大きく息を吐くと、私とミュラーに近付いてくる。
「キーライズン卿でしたね。ご案内させてもらいます」
ミュラーには礼儀正しく頭を下げたあと、私に近付くと、小声で話しかけてくる。
「お嬢、ボスはあんなんだけど、よろしく頼みますよ」
「もちろんです!」
婚約者として認められた気がして、笑顔で頷いた。
それにしても、ルーのお仲間さんが怒るのはわかるとしても、騎士さん達が怒るとは思わなかった。
でも、よくよく考えてみたら、私との婚約はルーが先に言い出したのだから、私を馬鹿にするという事は、そんな私を選んだ自分の主人を馬鹿にされたと思ったのかもしれない。
「というわけで、ミュラー。私、ルーザー殿下と婚約する事になったの」
できれば、ルーの胸に身体を寄せたいところだけれど、そんな事をしたら、ルーがどうなるかわからない。
今でも、必死に平静を装ってくれているし…。
こんな状態で、彼と私、ダンスを踊れるのかしら?
って、今はそんな事を考えてる場合じゃなかった。
「嘘だろ…。だけど、お前の親父さんはまだ決まってないって」
「今日の朝にルーザー殿下と婚約しますって手紙を出したのよ。だから、お父様は知らなかったんだわ」
「……そうかよ」
ミュラーは不貞腐れた顔になって続ける。
「相手からも婚約破棄は喜ばれたし、一番惨めなのは俺か」
「どういう事?」
「よくわからないが、誰かは教えてくれなかったが、元婚約者の方に俺と婚約を解消する様に圧力がかかってたらしい。だけど、自分から婚約解消は言い出せなかったんだってさ。まあ、これに関しては向こうの願い通り、俺が言い出したんだから自業自得だけど」
「そんな…」
ミュラーが可哀想だと思うし、気持ちは嬉しいけど、私はルーが好きだから、ミュラーと婚約はできない。
婚約解消の圧力をかけたのは、ビアンカだろうと思う。
ビアンカも馬鹿ね。
婚約破棄をさせて、その後釜におさまるつもりだったけど、ミュラーが私に婚約を申し込もうとしている事に気付いて、私に文句を言ってきた、ってところかしら。
「ごめんなさい、ミュラー」
「リアラは悪くない」
ミュラーが苦笑して首を横に振った。
「聞きたいんだが、どうしてキーライズン卿は、こいつらに追われてたんだ?」
ルーがさりげなく手をはなし、私から距離を取って、横たわっている男を指差して尋ねた。
「俺もよくわかりません。リアラのいる宿に向かっていたら、いきなり絡まれたんです」
「それで鬼ごっこしてたの? 警察に助けを求めれば良かったのに」
「パニックになってそれどころじゃなかったし、大体、どこにあるかわからなかったから」
「場所がわからないのに、どうやって私に会うつもりだったの? それに、あなた、護衛はどうしたの?」
「それは」
「…キーライズン卿、君の宿の場所はわかるか?」
話をしていると、ルーが会話に入ってきて、ミュラーに尋ねる。
「名前しかわかりません。近くに行けばわかると思うんですが」
「俺の部下に送らせよう」
「ありがとうございます、殿下」
ミュラーが頭を下げると、ルーは屋根の上にいた、お仲間さんに指示を始めた。
その間に、ミュラーに話しかける。
「ミュラー、あなた、一度ビアンカ様と話をしてくれない?」
「どうして俺が?」
「あなたの所に、ビアンカ様から婚約の打診は来ていなかった?」
「さあ? というか、あの女はお前の元婚約者が婚約者になったんじゃないのか?」
「そうなんだけど…」
ビアンカがあなたの事を好きなのよ、と言ってしまいたいけれど、さすがに言えなかった。
彼女に頼まれたならまだしも、嫌いだからって何をしてもいいわけじゃない。
「キーライズン卿を追いかけていた男達の目的は、キーライズン卿をビアンカの所へ連れていきたかったようだ」
「普通に会いにこれないものなんでしょうか。あんな奴らに話しかけられたら、普通は逃げると思うんですが…」
ミュラーは、はあと大きく息を吐くとルーに言う。
「申し訳ございませんが、私をエッジホール公爵令嬢の所へ連れていってもらえないでしょうか。次にまた、こんな事をされても困りますので」
「わかった。案内させよう」
ルーは頷き、お仲間さんに新たな指示を与えた。
今日は会った事のない人だけれど、私のことを知っているらしく、ルーにブツブツ言っている。
「ボスは何を呑気にしてるんですか。このままじゃ、お嬢をとられちゃいますよ!」
「ん? 何でだ?」
「いや、あんた、彼の態度を見たらわかるでしょうに!」
「彼女は俺の婚約者だと、はっきり伝えておいただろ?」
「そんな問題じゃない!」
お仲間さんは大きく息を吐くと、私とミュラーに近付いてくる。
「キーライズン卿でしたね。ご案内させてもらいます」
ミュラーには礼儀正しく頭を下げたあと、私に近付くと、小声で話しかけてくる。
「お嬢、ボスはあんなんだけど、よろしく頼みますよ」
「もちろんです!」
婚約者として認められた気がして、笑顔で頷いた。
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