上 下
19 / 34

17  追いかける

しおりを挟む
 その後、ルーと一緒に出かける事になり、今日の宿の予約をしてくるという彼を見送ってから、侍女に部屋に入ってきてもらい、慌てて出かける支度をした。
 それから、約一時間後、私は姉御達にウザ絡みしていた。

「聞いてくださいよ、姉御ぉ、マスター」
「どうした、今日はえらく絡んでくるねぇ」

 以前に連れてきてもらったお店のカウンター席で姉御と並んで座り、前回も相手をしてくれた女装が好きな店員さんに悩み相談をしていた。
 ルーはやる事があるから、と店を出ていってしまったのと、昼間は開いていない店のため、貸し切り状態だから、少しハメをはずしてしまったというのもある。
 ちなみに店員さんは皆からマスターと呼ばれているので、私もそう呼ぶ事にした。

「ルーが呼んでくれないんですよ」
「何に?」
「何にじゃないですよぉ! 名前をですよぉ! いっつも君、君、君、ですよ! まだ外でならわかるんです。でも2人っきりの時とかなら、名前を呼んでくれたっていいと思いません!?」
「あーーー」

 姉御達も気付いていたのか、2人で声を揃えて納得された。
 
「まあ、ボスの中で意味があるんじゃないの? ほら、麗しの君とか言うしさ、それじゃない?」
「絶対に違いますよね」

 投げやりな感じで言う姉御に言葉を返すと、マスターが苦笑して言う。

「理由があるんだよ」
「理由? 私を君としか言わない理由ですか?」
「そうそう。気になるんなら聞いてみな。俺らが言っていいのかわかんねぇしさ」
「……わかりました。教えてくれてありがとうございます」

 その時は納得したのだけれど、よくよく考えてみると、なんて切り出したら良いのかわからない。
 普通に聞いていいのかしら。
 どうして名前で呼んでくれないんですか…って。
 まさか、名前を覚えてないって事はないわよね?
 今日はルーも私と同じ宿に泊まると言ってくれているし、勇気を出して聞いてみよう!

 それから、数時間ほど話をして、まだおやつの時間だというのに、ほろ酔い気分の状態で、迎えに来てくれたルーと一緒に宿屋に向かって歩いている時だった。
 前方の路地から、誰かが勢い良く飛び出してきて、男性が私達の前を横に駆け抜けていく。
 
 誰かに追われてる?
 
 注意してみていなかったので、顔まではわからないけれど、若い男性だった。

 誰かに似てるような気がしたんだけど…。
 
 するとすぐに、昨日とは違う人間だけれど、いかつい顔をした男達が、彼の後を追って走っていく。
 通りにはあまり人がいないので、通行の邪魔になっているわけではないけれど、見過ごすのもな、と思ったら、ルーが指示を出す。

「おい。状況を確認しろ」
「承知しました!」

 騎士の人が頷き、騎士さんの何人かが男達を追いかけていく。

「何があったんでしょう」
「気になるのか?」
「はい。それに、なんだか知り合いに似ていた様な気がしたんです…」
「知り合いに? 誰かはわかるのか?」
「たぶんなんですけど…」

 お酒のせいで、ふわふわしている思考をなんとか整理して名前を口に出そうとした時だった。

 逃げていたはずの男性が、さっきとは違う路地から出てきたかと思うと、今度は私達がいる方向とは反対側の方に向かって走っていく。
 
「おい、あっちは行き止まりだぞ」

 ルーは呟くと、近くにいた騎士に指示をする。

「彼女を頼む」
「私も行きます!」

 緊迫した状況だからか、一瞬にして酔いが吹っ飛び、騎士さんが返事をする前に言うと、ルーは小さく息を吐く。

「来るなって言っても来るよな」
「行きます」
「じゃあ、行くか」
「はい!」

 ルーと一緒に男性が向かった方向に走り出す。
 男性が向かった先は、広いスペースではあるけれど、三方が石造りの民家に囲まれた場所で、数人のガラの悪そうな男性は、ルーに言われて追っていた騎士さん達が相手をしていて、ほとんどの人間が組み伏せられていた。

 こんな状況だというのに、諦めの悪い、がっしりとした体格の男が1人いて、若い男性にじりじりと近付いていっているのが見えた。

 それと同時、若い男性の姿がはっきりと確認できて、大きく息を吐いた。

 とりあえず助けないと。
 
 そう思い、ルーと一緒に彼らに近付いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】結婚しておりませんけど?

との
恋愛
「アリーシャ⋯⋯愛してる」 「私も愛してるわ、イーサン」 真実の愛復活で盛り上がる2人ですが、イーサン・ボクスと私サラ・モーガンは今日婚約したばかりなんですけどね。 しかもこの2人、結婚式やら愛の巣やらの準備をはじめた上に私にその費用を負担させようとしはじめました。頭大丈夫ですかね〜。 盛大なるざまぁ⋯⋯いえ、バリエーション豊かなざまぁを楽しんでいただきます。 だって、私の友達が張り切っていまして⋯⋯。どうせならみんなで盛り上がろうと、これはもう『ざまぁパーティー』ですかね。 「俺の苺ちゃんがあ〜」 「早い者勝ち」 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結しました。HOT2位感謝です\(//∇//)\ R15は念の為・・

あなたの事はもういりませんからどうぞお好きになさって?

高瀬船
恋愛
婚約を交わして5年。 伯爵令嬢のミリアベル・フィオネスタは優しい婚約者を好きになり、優しい婚約者である侯爵家の嫡男ベスタ・アランドワと良い関係を築いていた。 二人は貴族学院を卒業したら結婚が決まっていたが、貴族学院に通い始めて2年目。 学院に「奇跡の乙女」と呼ばれる女性が入学した。 とても希少な治癒魔法の力を持った子爵令嬢である奇跡の乙女、ティアラ・フローラモはとても可愛らしい顔立ちで学院の男子生徒の好意を一身に受けている。 奇跡の乙女が入学してから、婚約者であるベスタとのお茶の時間も、デートの約束も、学院での二人きりで過ごす時間も無くなって来たある日、自分の婚約者と奇跡の乙女が肩を寄せ合い、校舎裏へと姿を消したのを見てしまったミリアベルは行儀が悪い、と分かってはいても二人の姿を追ってしまったのだった。

まさか、こんな事になるとは思ってもいなかった

あとさん♪
恋愛
 学園の卒業記念パーティでその断罪は行われた。  王孫殿下自ら婚約者を断罪し、婚約者である公爵令嬢は地下牢へ移されて——  だがその断罪は国王陛下にとって寝耳に水の出来事だった。彼は怒り、孫である王孫を改めて断罪する。関係者を集めた中で。  誰もが思った。『まさか、こんな事になるなんて』と。  この事件をきっかけに歴史は動いた。  無血革命が起こり、国名が変わった。  平和な時代になり、ひとりの女性が70年前の真実に近づく。 ※R15は保険。 ※設定はゆるんゆるん。 ※異世界のなんちゃってだとお心にお留め置き下さいませm(_ _)m ※本編はオマケ込みで全24話 ※番外編『フォーサイス公爵の走馬灯』(全5話) ※『ジョン、という人』(全1話) ※『乙女ゲーム“この恋をアナタと”の真実』(全2話) ※↑蛇足回2021,6,23加筆修正 ※外伝『真か偽か』(全1話) ※小説家になろうにも投稿しております。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう

さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」 殿下にそう告げられる 「応援いたします」 だって真実の愛ですのよ? 見つける方が奇跡です! 婚約破棄の書類ご用意いたします。 わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。 さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます! なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか… 私の真実の愛とは誠の愛であったのか… 気の迷いであったのでは… 葛藤するが、すでに時遅し…

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。

待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。 妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。 ……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。 けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します! 自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

処理中です...