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17 追いかける
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その後、ルーと一緒に出かける事になり、今日の宿の予約をしてくるという彼を見送ってから、侍女に部屋に入ってきてもらい、慌てて出かける支度をした。
それから、約一時間後、私は姉御達にウザ絡みしていた。
「聞いてくださいよ、姉御ぉ、マスター」
「どうした、今日はえらく絡んでくるねぇ」
以前に連れてきてもらったお店のカウンター席で姉御と並んで座り、前回も相手をしてくれた女装が好きな店員さんに悩み相談をしていた。
ルーはやる事があるから、と店を出ていってしまったのと、昼間は開いていない店のため、貸し切り状態だから、少しハメをはずしてしまったというのもある。
ちなみに店員さんは皆からマスターと呼ばれているので、私もそう呼ぶ事にした。
「ルーが呼んでくれないんですよ」
「何に?」
「何にじゃないですよぉ! 名前をですよぉ! いっつも君、君、君、ですよ! まだ外でならわかるんです。でも2人っきりの時とかなら、名前を呼んでくれたっていいと思いません!?」
「あーーー」
姉御達も気付いていたのか、2人で声を揃えて納得された。
「まあ、ボスの中で意味があるんじゃないの? ほら、麗しの君とか言うしさ、それじゃない?」
「絶対に違いますよね」
投げやりな感じで言う姉御に言葉を返すと、マスターが苦笑して言う。
「理由があるんだよ」
「理由? 私を君としか言わない理由ですか?」
「そうそう。気になるんなら聞いてみな。俺らが言っていいのかわかんねぇしさ」
「……わかりました。教えてくれてありがとうございます」
その時は納得したのだけれど、よくよく考えてみると、なんて切り出したら良いのかわからない。
普通に聞いていいのかしら。
どうして名前で呼んでくれないんですか…って。
まさか、名前を覚えてないって事はないわよね?
今日はルーも私と同じ宿に泊まると言ってくれているし、勇気を出して聞いてみよう!
それから、数時間ほど話をして、まだおやつの時間だというのに、ほろ酔い気分の状態で、迎えに来てくれたルーと一緒に宿屋に向かって歩いている時だった。
前方の路地から、誰かが勢い良く飛び出してきて、男性が私達の前を横に駆け抜けていく。
誰かに追われてる?
注意してみていなかったので、顔まではわからないけれど、若い男性だった。
誰かに似てるような気がしたんだけど…。
するとすぐに、昨日とは違う人間だけれど、いかつい顔をした男達が、彼の後を追って走っていく。
通りにはあまり人がいないので、通行の邪魔になっているわけではないけれど、見過ごすのもな、と思ったら、ルーが指示を出す。
「おい。状況を確認しろ」
「承知しました!」
騎士の人が頷き、騎士さんの何人かが男達を追いかけていく。
「何があったんでしょう」
「気になるのか?」
「はい。それに、なんだか知り合いに似ていた様な気がしたんです…」
「知り合いに? 誰かはわかるのか?」
「たぶんなんですけど…」
お酒のせいで、ふわふわしている思考をなんとか整理して名前を口に出そうとした時だった。
逃げていたはずの男性が、さっきとは違う路地から出てきたかと思うと、今度は私達がいる方向とは反対側の方に向かって走っていく。
「おい、あっちは行き止まりだぞ」
ルーは呟くと、近くにいた騎士に指示をする。
「彼女を頼む」
「私も行きます!」
緊迫した状況だからか、一瞬にして酔いが吹っ飛び、騎士さんが返事をする前に言うと、ルーは小さく息を吐く。
「来るなって言っても来るよな」
「行きます」
「じゃあ、行くか」
「はい!」
ルーと一緒に男性が向かった方向に走り出す。
男性が向かった先は、広いスペースではあるけれど、三方が石造りの民家に囲まれた場所で、数人のガラの悪そうな男性は、ルーに言われて追っていた騎士さん達が相手をしていて、ほとんどの人間が組み伏せられていた。
こんな状況だというのに、諦めの悪い、がっしりとした体格の男が1人いて、若い男性にじりじりと近付いていっているのが見えた。
それと同時、若い男性の姿がはっきりと確認できて、大きく息を吐いた。
とりあえず助けないと。
そう思い、ルーと一緒に彼らに近付いた。
それから、約一時間後、私は姉御達にウザ絡みしていた。
「聞いてくださいよ、姉御ぉ、マスター」
「どうした、今日はえらく絡んでくるねぇ」
以前に連れてきてもらったお店のカウンター席で姉御と並んで座り、前回も相手をしてくれた女装が好きな店員さんに悩み相談をしていた。
ルーはやる事があるから、と店を出ていってしまったのと、昼間は開いていない店のため、貸し切り状態だから、少しハメをはずしてしまったというのもある。
ちなみに店員さんは皆からマスターと呼ばれているので、私もそう呼ぶ事にした。
「ルーが呼んでくれないんですよ」
「何に?」
「何にじゃないですよぉ! 名前をですよぉ! いっつも君、君、君、ですよ! まだ外でならわかるんです。でも2人っきりの時とかなら、名前を呼んでくれたっていいと思いません!?」
「あーーー」
姉御達も気付いていたのか、2人で声を揃えて納得された。
「まあ、ボスの中で意味があるんじゃないの? ほら、麗しの君とか言うしさ、それじゃない?」
「絶対に違いますよね」
投げやりな感じで言う姉御に言葉を返すと、マスターが苦笑して言う。
「理由があるんだよ」
「理由? 私を君としか言わない理由ですか?」
「そうそう。気になるんなら聞いてみな。俺らが言っていいのかわかんねぇしさ」
「……わかりました。教えてくれてありがとうございます」
その時は納得したのだけれど、よくよく考えてみると、なんて切り出したら良いのかわからない。
普通に聞いていいのかしら。
どうして名前で呼んでくれないんですか…って。
まさか、名前を覚えてないって事はないわよね?
今日はルーも私と同じ宿に泊まると言ってくれているし、勇気を出して聞いてみよう!
それから、数時間ほど話をして、まだおやつの時間だというのに、ほろ酔い気分の状態で、迎えに来てくれたルーと一緒に宿屋に向かって歩いている時だった。
前方の路地から、誰かが勢い良く飛び出してきて、男性が私達の前を横に駆け抜けていく。
誰かに追われてる?
注意してみていなかったので、顔まではわからないけれど、若い男性だった。
誰かに似てるような気がしたんだけど…。
するとすぐに、昨日とは違う人間だけれど、いかつい顔をした男達が、彼の後を追って走っていく。
通りにはあまり人がいないので、通行の邪魔になっているわけではないけれど、見過ごすのもな、と思ったら、ルーが指示を出す。
「おい。状況を確認しろ」
「承知しました!」
騎士の人が頷き、騎士さんの何人かが男達を追いかけていく。
「何があったんでしょう」
「気になるのか?」
「はい。それに、なんだか知り合いに似ていた様な気がしたんです…」
「知り合いに? 誰かはわかるのか?」
「たぶんなんですけど…」
お酒のせいで、ふわふわしている思考をなんとか整理して名前を口に出そうとした時だった。
逃げていたはずの男性が、さっきとは違う路地から出てきたかと思うと、今度は私達がいる方向とは反対側の方に向かって走っていく。
「おい、あっちは行き止まりだぞ」
ルーは呟くと、近くにいた騎士に指示をする。
「彼女を頼む」
「私も行きます!」
緊迫した状況だからか、一瞬にして酔いが吹っ飛び、騎士さんが返事をする前に言うと、ルーは小さく息を吐く。
「来るなって言っても来るよな」
「行きます」
「じゃあ、行くか」
「はい!」
ルーと一緒に男性が向かった方向に走り出す。
男性が向かった先は、広いスペースではあるけれど、三方が石造りの民家に囲まれた場所で、数人のガラの悪そうな男性は、ルーに言われて追っていた騎士さん達が相手をしていて、ほとんどの人間が組み伏せられていた。
こんな状況だというのに、諦めの悪い、がっしりとした体格の男が1人いて、若い男性にじりじりと近付いていっているのが見えた。
それと同時、若い男性の姿がはっきりと確認できて、大きく息を吐いた。
とりあえず助けないと。
そう思い、ルーと一緒に彼らに近付いた。
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