10 / 34
9 勘違いされる
しおりを挟む
次の日、昼前にルーザー殿下が私の泊まっている宿にやって来た。
今日は会う予定ではなかったから、だらけた服装をしてたんだけど、出かける用意をすぐに済ませ、殿下と2人で食事をしに外へ出かけた。
姉御達が私を気に入ってくれたようで「逃がすな」と言われたらしく、殿下が今日、視察に行かなければならなかった場所を部下の人達が代わりに見に行ってくれる事になったとの事。
気に入ってもらえたのも嬉しいし、殿下とはデートしてるみたいですごく嬉しい!
気持ちを自覚してしまうと、殿下が今までよりもキラキラして見えてしまう。
といっても、浮かれた気分なのは私だけで、殿下は席について注文を終えるなり、昨日の話を持ち出してきた。
「昨日は悪かった。あれから部下から報告があって、あの男の目的が何だったかはわかった」
「…目的は何だったんでしょうか?」
「あの男はミゲル伯爵令息から、自分が待っている場所に君を連れて来る様に頼まれたらしい」
「私の元婚約者にですか?」
「ああ。どうやら、彼は君を諦めきれないみたいだな」
殿下が苦笑して続ける。
「君の気持ちはどうなんだ? 彼がフリーになったら、よりを戻したいか?」
「絶対にありえません!」
「ならいいけど、君に婚約を申し込む前に調べた様子だと、君と彼はその…」
「深い関係ではありません! もちろん、好きだった事は確かですけど…」
テーブルの上で両手を握りしめて俯くと、殿下が頭を下げた。
「嫌な事を思い出させてごめん」
「全然! それよりも殿下は失望したんじゃないですか? 私があんな男を好きだったなんて」
「何で?」
「だって、おかしい男じゃないですか」
「その時は良く見えたんだろ? 今は気付けたんだからいいと思うし、それに俺はそんな事で君に失望したりしない」
殿下がにこりと笑うから、胸がきゅうんとなる。
何回も自分で言うのもなんだけど、私ってば本当にチョロい!
「どうした?」
「いえ、何でもないです。ちょっと反省しただけです」
「反省する必要ないだろ。それに、俺なんか、元婚約者に虫けらみたいな目で見られてたのに、婚約解消しなかったんだぞ?」
「……殿下は、ビアンカ様が好きだったんですか?」
好きだった、なんて言われたらどうしよう。
そう思って握りしめていた両手を、改めて握りなおす。
「んな訳ないだろ? アイツとだったら、結婚しても俺に興味はないだろうし、愛人でも作るだろうと思って、わざと解消しなかったんだ」
「殿下は、その、あまり、結婚生活には興味がないのでしょうか?」
「ん?」
殿下はきょとんとした後、なぜかアワアワし始めた。
「いや、興味がないわけではなく、知識と経験がないだけで! もちろん、君が望むなら、どんなものかは結婚までに調べるから!」
「知識はまだしも、経験は私もないのですが…?」
「…その、君は相手が……だと」
「はい?」
なぜか声が小さくなってしまったので聞き返すと、殿下は顔を背けてしまった。
気に障るような事を言ってしまった?
そんなに結婚が嫌なの?
無意識に肩を落としていたらしく、殿下が慌てる。
「がっかりしないでくれ! 君がどうしてもと言うなら娼館に行って覚えてくる!」
「はい?」
なんで娼館が出てくるの?
って、ああ!
もしかして、勘違いしてる!?
「あの、殿下。私が言っています結婚生活というのは、夜の方ではなく、ご飯を一緒に食べたりとか、お話したり、お出かけしたりとか、そっちの方です」
「………」
殿下は私の方を見て固まったかと思うと、テーブルに額をぶち当てた。
「ででで、殿下ぁっ!?」
思わず、大きな声を上げてしまったので、口をおさえて、周りを見回したけれど、皆、こちらを気にしていない様で大丈夫そうだった。
「本当にごめん」
「いえ、私の聞き方が悪かったんです」
「いや、俺が悪い。ごめん」
殿下は顔を上げた後、また謝ってくれた。
「では、どちらも悪くないでどうですか?」
「それだと助かるけど」
どこか納得した様子ではなさそうだけれど、殿下が首を縦に振る。
「それにしても、覚えてくるだなんて…」
あはは、と笑うと、殿下は少しムッとした顔をする。
「結婚生活だなんて言うから」
「殿下、私は夜の話とは言っていませんよ」
「ルーでいい」
「はい?」
「殿下呼びはちょっとな。それに、ルーザーと呼ばれるのも名前で身バレしそうだから、仲間にも基本はボス呼びだが、外ではルーと呼ばせてる。様もいらない」
殿下はポリポリと頬をかきながら言った。
「……私も、呼んでもいいんですか?」
「当たり前だろ」
胸がドキドキして、声が震えそうになるのをこらえて聞くと、殿下は笑って頷いた。
今日は会う予定ではなかったから、だらけた服装をしてたんだけど、出かける用意をすぐに済ませ、殿下と2人で食事をしに外へ出かけた。
姉御達が私を気に入ってくれたようで「逃がすな」と言われたらしく、殿下が今日、視察に行かなければならなかった場所を部下の人達が代わりに見に行ってくれる事になったとの事。
気に入ってもらえたのも嬉しいし、殿下とはデートしてるみたいですごく嬉しい!
気持ちを自覚してしまうと、殿下が今までよりもキラキラして見えてしまう。
といっても、浮かれた気分なのは私だけで、殿下は席について注文を終えるなり、昨日の話を持ち出してきた。
「昨日は悪かった。あれから部下から報告があって、あの男の目的が何だったかはわかった」
「…目的は何だったんでしょうか?」
「あの男はミゲル伯爵令息から、自分が待っている場所に君を連れて来る様に頼まれたらしい」
「私の元婚約者にですか?」
「ああ。どうやら、彼は君を諦めきれないみたいだな」
殿下が苦笑して続ける。
「君の気持ちはどうなんだ? 彼がフリーになったら、よりを戻したいか?」
「絶対にありえません!」
「ならいいけど、君に婚約を申し込む前に調べた様子だと、君と彼はその…」
「深い関係ではありません! もちろん、好きだった事は確かですけど…」
テーブルの上で両手を握りしめて俯くと、殿下が頭を下げた。
「嫌な事を思い出させてごめん」
「全然! それよりも殿下は失望したんじゃないですか? 私があんな男を好きだったなんて」
「何で?」
「だって、おかしい男じゃないですか」
「その時は良く見えたんだろ? 今は気付けたんだからいいと思うし、それに俺はそんな事で君に失望したりしない」
殿下がにこりと笑うから、胸がきゅうんとなる。
何回も自分で言うのもなんだけど、私ってば本当にチョロい!
「どうした?」
「いえ、何でもないです。ちょっと反省しただけです」
「反省する必要ないだろ。それに、俺なんか、元婚約者に虫けらみたいな目で見られてたのに、婚約解消しなかったんだぞ?」
「……殿下は、ビアンカ様が好きだったんですか?」
好きだった、なんて言われたらどうしよう。
そう思って握りしめていた両手を、改めて握りなおす。
「んな訳ないだろ? アイツとだったら、結婚しても俺に興味はないだろうし、愛人でも作るだろうと思って、わざと解消しなかったんだ」
「殿下は、その、あまり、結婚生活には興味がないのでしょうか?」
「ん?」
殿下はきょとんとした後、なぜかアワアワし始めた。
「いや、興味がないわけではなく、知識と経験がないだけで! もちろん、君が望むなら、どんなものかは結婚までに調べるから!」
「知識はまだしも、経験は私もないのですが…?」
「…その、君は相手が……だと」
「はい?」
なぜか声が小さくなってしまったので聞き返すと、殿下は顔を背けてしまった。
気に障るような事を言ってしまった?
そんなに結婚が嫌なの?
無意識に肩を落としていたらしく、殿下が慌てる。
「がっかりしないでくれ! 君がどうしてもと言うなら娼館に行って覚えてくる!」
「はい?」
なんで娼館が出てくるの?
って、ああ!
もしかして、勘違いしてる!?
「あの、殿下。私が言っています結婚生活というのは、夜の方ではなく、ご飯を一緒に食べたりとか、お話したり、お出かけしたりとか、そっちの方です」
「………」
殿下は私の方を見て固まったかと思うと、テーブルに額をぶち当てた。
「ででで、殿下ぁっ!?」
思わず、大きな声を上げてしまったので、口をおさえて、周りを見回したけれど、皆、こちらを気にしていない様で大丈夫そうだった。
「本当にごめん」
「いえ、私の聞き方が悪かったんです」
「いや、俺が悪い。ごめん」
殿下は顔を上げた後、また謝ってくれた。
「では、どちらも悪くないでどうですか?」
「それだと助かるけど」
どこか納得した様子ではなさそうだけれど、殿下が首を縦に振る。
「それにしても、覚えてくるだなんて…」
あはは、と笑うと、殿下は少しムッとした顔をする。
「結婚生活だなんて言うから」
「殿下、私は夜の話とは言っていませんよ」
「ルーでいい」
「はい?」
「殿下呼びはちょっとな。それに、ルーザーと呼ばれるのも名前で身バレしそうだから、仲間にも基本はボス呼びだが、外ではルーと呼ばせてる。様もいらない」
殿下はポリポリと頬をかきながら言った。
「……私も、呼んでもいいんですか?」
「当たり前だろ」
胸がドキドキして、声が震えそうになるのをこらえて聞くと、殿下は笑って頷いた。
56
お気に入りに追加
2,196
あなたにおすすめの小説
【完結】結婚しておりませんけど?
との
恋愛
「アリーシャ⋯⋯愛してる」
「私も愛してるわ、イーサン」
真実の愛復活で盛り上がる2人ですが、イーサン・ボクスと私サラ・モーガンは今日婚約したばかりなんですけどね。
しかもこの2人、結婚式やら愛の巣やらの準備をはじめた上に私にその費用を負担させようとしはじめました。頭大丈夫ですかね〜。
盛大なるざまぁ⋯⋯いえ、バリエーション豊かなざまぁを楽しんでいただきます。
だって、私の友達が張り切っていまして⋯⋯。どうせならみんなで盛り上がろうと、これはもう『ざまぁパーティー』ですかね。
「俺の苺ちゃんがあ〜」
「早い者勝ち」
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結しました。HOT2位感謝です\(//∇//)\
R15は念の為・・
まさか、こんな事になるとは思ってもいなかった
あとさん♪
恋愛
学園の卒業記念パーティでその断罪は行われた。
王孫殿下自ら婚約者を断罪し、婚約者である公爵令嬢は地下牢へ移されて——
だがその断罪は国王陛下にとって寝耳に水の出来事だった。彼は怒り、孫である王孫を改めて断罪する。関係者を集めた中で。
誰もが思った。『まさか、こんな事になるなんて』と。
この事件をきっかけに歴史は動いた。
無血革命が起こり、国名が変わった。
平和な時代になり、ひとりの女性が70年前の真実に近づく。
※R15は保険。
※設定はゆるんゆるん。
※異世界のなんちゃってだとお心にお留め置き下さいませm(_ _)m
※本編はオマケ込みで全24話
※番外編『フォーサイス公爵の走馬灯』(全5話)
※『ジョン、という人』(全1話)
※『乙女ゲーム“この恋をアナタと”の真実』(全2話)
※↑蛇足回2021,6,23加筆修正
※外伝『真か偽か』(全1話)
※小説家になろうにも投稿しております。
あなたの事はもういりませんからどうぞお好きになさって?
高瀬船
恋愛
婚約を交わして5年。
伯爵令嬢のミリアベル・フィオネスタは優しい婚約者を好きになり、優しい婚約者である侯爵家の嫡男ベスタ・アランドワと良い関係を築いていた。
二人は貴族学院を卒業したら結婚が決まっていたが、貴族学院に通い始めて2年目。
学院に「奇跡の乙女」と呼ばれる女性が入学した。
とても希少な治癒魔法の力を持った子爵令嬢である奇跡の乙女、ティアラ・フローラモはとても可愛らしい顔立ちで学院の男子生徒の好意を一身に受けている。
奇跡の乙女が入学してから、婚約者であるベスタとのお茶の時間も、デートの約束も、学院での二人きりで過ごす時間も無くなって来たある日、自分の婚約者と奇跡の乙女が肩を寄せ合い、校舎裏へと姿を消したのを見てしまったミリアベルは行儀が悪い、と分かってはいても二人の姿を追ってしまったのだった。
【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?
との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」
結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。
夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、
えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう
さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」
殿下にそう告げられる
「応援いたします」
だって真実の愛ですのよ?
見つける方が奇跡です!
婚約破棄の書類ご用意いたします。
わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。
さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます!
なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか…
私の真実の愛とは誠の愛であったのか…
気の迷いであったのでは…
葛藤するが、すでに時遅し…
五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。
あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。
夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中)
笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。
え。この人、こんな人だったの(愕然)
やだやだ、気持ち悪い。離婚一択!
※全15話。完結保証。
※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。
今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
第三弾『妻の死で思い知らされました。』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。
※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる