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7 軽く暴れる
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空いていた2席は、ルーザー殿下と私が座る席だったようで、殿下から皆に紹介してもらった後は、女性同士で話が盛り上がったので、テーブル席からカウンターに移動して話をする事になった。
酒場の店員さんは女性かと思ったけれど、女装が好きな男性らしく、恋人は女性らしい。
だけど、女心は知りたいという事で、会話に参加してくれる事になった。
ちなみに、このお店は殿下がオーナーらしい。
店員さんから過去の恋愛についての話を聞かれて、元婚約者の話をしたら、姉御と一緒に気の毒がってくれた。
「ふざけた事を言う奴がいるんだな、しかも大勢の前で、そんな事を言うなんて」
「それに待っててくれだなんて、そんな馬鹿な事を言う男がいたんだねぇ」
ウイスキーの水割りを飲み干したあと、姉御が言った。
姉御とは、ルーザー殿下が紹介してくれた女性で、本名は教えられないけれど、自分のあだ名はリッカで、年下の人間からは姉御と呼ばれていると教えてくれた。
姉御は25歳らしく、私よりも年上なので、仲間の年下の人間からは姉御ど呼ばれているから、私も姉御と呼んでも良いという許可をもらった。
スレンダーな体型で茶色のショートヘアーの美人な姉御はカラカラ笑いながら続ける。
「別れられて良かったじゃん。土下座して浮気を謝るならまだしも、どうせ捨てられるから待っとけなんて、何を1人だけ美味しいとこどりしようと思ってんのって感じだよねぇ」
「ですよね!」
私が大きく頷くと、姉御は呆れた表情で言う。
「まあ、ハニートラップって言葉があるくらいだから、大概の男はひっかかんのかもしれないけど、婚約者を目の敵にしてる女にはせめてひっかかんなよなと思うよね。そいつ、馬鹿じゃないの?」
「私、自分で言うのもなんなんですけど、惚れっぽいんです。好きって思ったら猪突猛進なんで、そのせいかもしれないです。だから、相手があんな奴だったなんて、一緒にいる時は気付けなかったんだと思います」
あはは、と笑うと、店員さんに聞かれる。
「で、どうよ、うちのボスは?」
「はい!?」
突然の話題変更に、動揺してしまい、持っていたグラスを落としそうになった。
ルーザー殿下は仲間内ではボスと呼ばれているらしい。
答えに困っていると、姉御も一緒になって聞いてくる。
「今、お試し期間中なわけでしょ? ボスの婚約者になったら、お嬢はボスの嫁になるわけだし、詳しくあたし達の事を教えてあげられるんだけど」
「そ、そうですねぇ」
お嬢というのは私の事で、あまり本名は口にしない方が良いだろうと気にして下さって、お嬢というあだ名を姉御がつけてくれた。
姉御の言葉を聞いて、ちらりと、私の後ろのテーブルで話をしている、殿下の背中を見る。
たくましい体付きを見ると、好みのタイプだからドキドキしてしまう。
顔もカッコ良いし、素敵だとは思うけど、性格がまだわからないし、もうちょっと過ごしたら見えてくるかしら?
「このままいけば、婚約する形にはなるかとは思いますが、決めかねているところです」
そう答えた時だった。
今日は貸し切りという事になり、店の前に立っていた人も店の中に入っていたから、侵入を防げなかったのだけど、クローズの札が掛かっている扉を開けて、ガラの悪そうな男が店の中に入ってきた。
それと同時に、扉近くにいた人が立ち上がった。
「リアラ・フレブルスだな?」
男はカウンターの端、扉から1番近い席に座っていた私に近付きながら尋ねてきた。
「人違いだ」
「お前に言ってるんじゃねぇんだよ!」
言葉を返した殿下にチンピラは叫んだあと、私に向かって手を伸ばそうとしたので、素早く立ち上がって、彼の手を払った。
「触んな」
「なんだとこのアマ! ふざっ!」
チンピラが叫んだと同時に腹に前蹴りを入れた。
腹をおさえて、後ろに下がった男を追い、両方の足の脛に素早く軽い蹴りを入れると、声にならない声を上げて、膝から崩れ落ちる。
そりゃ痛いでしょ。
このパンプス、底とつま先と踵に鉄板入ってるから。
膝をついて下を向いたのを確認したあと、私は男の左肩に踵落としをした。
「私と話したいなら礼儀を学んでから来てくれる?」
「お、覚えてろよ!」
左肩をおさえながら、チンピラは捨て台詞を吐いて店から出ていく。
その様子を見て、小さく息を吐いた。
店の中は狭いから動きにくかったし、お酒を飲んでしまっていたからか、本調子じゃないなあ、と思った時だった。
私は、自分が1人でいたわけではない事に気が付いた。
恐る恐る店内を見回すと、ルーザー殿下だけではなく、姉御達も驚いた顔で私を見ていた。
わ、私ったら、やってしまったあ!
酒場の店員さんは女性かと思ったけれど、女装が好きな男性らしく、恋人は女性らしい。
だけど、女心は知りたいという事で、会話に参加してくれる事になった。
ちなみに、このお店は殿下がオーナーらしい。
店員さんから過去の恋愛についての話を聞かれて、元婚約者の話をしたら、姉御と一緒に気の毒がってくれた。
「ふざけた事を言う奴がいるんだな、しかも大勢の前で、そんな事を言うなんて」
「それに待っててくれだなんて、そんな馬鹿な事を言う男がいたんだねぇ」
ウイスキーの水割りを飲み干したあと、姉御が言った。
姉御とは、ルーザー殿下が紹介してくれた女性で、本名は教えられないけれど、自分のあだ名はリッカで、年下の人間からは姉御と呼ばれていると教えてくれた。
姉御は25歳らしく、私よりも年上なので、仲間の年下の人間からは姉御ど呼ばれているから、私も姉御と呼んでも良いという許可をもらった。
スレンダーな体型で茶色のショートヘアーの美人な姉御はカラカラ笑いながら続ける。
「別れられて良かったじゃん。土下座して浮気を謝るならまだしも、どうせ捨てられるから待っとけなんて、何を1人だけ美味しいとこどりしようと思ってんのって感じだよねぇ」
「ですよね!」
私が大きく頷くと、姉御は呆れた表情で言う。
「まあ、ハニートラップって言葉があるくらいだから、大概の男はひっかかんのかもしれないけど、婚約者を目の敵にしてる女にはせめてひっかかんなよなと思うよね。そいつ、馬鹿じゃないの?」
「私、自分で言うのもなんなんですけど、惚れっぽいんです。好きって思ったら猪突猛進なんで、そのせいかもしれないです。だから、相手があんな奴だったなんて、一緒にいる時は気付けなかったんだと思います」
あはは、と笑うと、店員さんに聞かれる。
「で、どうよ、うちのボスは?」
「はい!?」
突然の話題変更に、動揺してしまい、持っていたグラスを落としそうになった。
ルーザー殿下は仲間内ではボスと呼ばれているらしい。
答えに困っていると、姉御も一緒になって聞いてくる。
「今、お試し期間中なわけでしょ? ボスの婚約者になったら、お嬢はボスの嫁になるわけだし、詳しくあたし達の事を教えてあげられるんだけど」
「そ、そうですねぇ」
お嬢というのは私の事で、あまり本名は口にしない方が良いだろうと気にして下さって、お嬢というあだ名を姉御がつけてくれた。
姉御の言葉を聞いて、ちらりと、私の後ろのテーブルで話をしている、殿下の背中を見る。
たくましい体付きを見ると、好みのタイプだからドキドキしてしまう。
顔もカッコ良いし、素敵だとは思うけど、性格がまだわからないし、もうちょっと過ごしたら見えてくるかしら?
「このままいけば、婚約する形にはなるかとは思いますが、決めかねているところです」
そう答えた時だった。
今日は貸し切りという事になり、店の前に立っていた人も店の中に入っていたから、侵入を防げなかったのだけど、クローズの札が掛かっている扉を開けて、ガラの悪そうな男が店の中に入ってきた。
それと同時に、扉近くにいた人が立ち上がった。
「リアラ・フレブルスだな?」
男はカウンターの端、扉から1番近い席に座っていた私に近付きながら尋ねてきた。
「人違いだ」
「お前に言ってるんじゃねぇんだよ!」
言葉を返した殿下にチンピラは叫んだあと、私に向かって手を伸ばそうとしたので、素早く立ち上がって、彼の手を払った。
「触んな」
「なんだとこのアマ! ふざっ!」
チンピラが叫んだと同時に腹に前蹴りを入れた。
腹をおさえて、後ろに下がった男を追い、両方の足の脛に素早く軽い蹴りを入れると、声にならない声を上げて、膝から崩れ落ちる。
そりゃ痛いでしょ。
このパンプス、底とつま先と踵に鉄板入ってるから。
膝をついて下を向いたのを確認したあと、私は男の左肩に踵落としをした。
「私と話したいなら礼儀を学んでから来てくれる?」
「お、覚えてろよ!」
左肩をおさえながら、チンピラは捨て台詞を吐いて店から出ていく。
その様子を見て、小さく息を吐いた。
店の中は狭いから動きにくかったし、お酒を飲んでしまっていたからか、本調子じゃないなあ、と思った時だった。
私は、自分が1人でいたわけではない事に気が付いた。
恐る恐る店内を見回すと、ルーザー殿下だけではなく、姉御達も驚いた顔で私を見ていた。
わ、私ったら、やってしまったあ!
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