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6 第二王子からの申し出
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「私は別にあなたに婚約者の座を譲っても良いと思ってるわ。そうだわ。あなたから、アルフレッド殿下に頼んでくれない?」
「……何をです?」
「婚約者を自分に変更してほしいって頼んでほしいのよ」
笑顔でお願いすると、ルーナは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「あら、お姉さまったら、どうかされました? さっきの勢いはどうしましたの? もしかして言い過ぎたと思って怖くなられました? 今なら謝ってくださったら許してさしあげますよ? あ、お姉さまが今着ているドレスをくれたら、ですけど」
「あなた、本当に私の着ているドレスが好きね。というか、どうして、私が怖がってるなんて思うの?」
「だって似合っていないんですもの。リナお姉さまにはもっと地味なドレスが良いと思います。怖がっていると思う理由は婚約者を変更してほしいと言うだなんて、私に奪われるのが怖いから、先に渡してしまおうということなんでしょう?」
今、私が着ているのは赤色のシュミーズドレスで、リナの雰囲気には合っていない。
だからか、ルーナの後ろに控えていた侍女たちがクスクスと笑った。
(ルーナの侍女は三人ってとこかしら? まるで取り巻きみたいだわ。あと、怖がっているという理由に関しては、面倒だから相手にしないでおきましょう)
「何を着ようが私の勝手でしょう。あなたにどうこう言われたくないわ」
「な! どうしてそんなに偉そうなんですか! 記憶喪失になったからって好き勝手に言って良いわけじゃないんですよ!? 謝ってください!」
「何を謝るの? 謝らないといけないことを言ったかしら」
言い返されると思っていなかったのか、ルーナの口元が引きつった。
「お姉さま、本当に自分で何を言っているかわかってます?」
「わかってるわよ。だから、私はあなたに何を謝らないといけないのか聞いてるの」
「さっきの態度ですよ! 私を馬鹿にしたじゃないですか! フォークを手に結ぶだなんて!」
「そりゃあ馬鹿にするでしょう。あんな無駄なことばかりするんだもの。もちろん、本当に握力がない人ならしょうがないと思うわ。だけど、あなた、フォークくらい持てるんでしょう?」
「ひどいわ、お姉さま。そんなことを言う方じゃなかったのに! 昔のお姉さまに戻ってよ!」
ルーナはアンソニーの前だからか、メソメソと泣き始めてしまった。
そんな彼女を侍女が「お可哀想に」とか言いながら慰め始める。
「ルーナ、泣くなよ。あとで僕がリナを叱っておくから」
アンソニーがルーナを抱きしめて、背中を優しく撫でて言った。
(付き合ってられないわ)
「話を戻すけれど」
「……な、何だって言うんです?」
「お父さまに相談してみてくれない?」
「え?」
俯いて泣いていたルーナはアンソニーの腕の中で、涙目のまま顔を上げた。
「あなたが言う欲しいっていうのは、婚約者になりたいってことでしょう? なら、お父さまにそれを伝えないといけないわ」
「そ、そうだけど、リナお姉さま。アルフレッド殿下の婚約者じゃなくなったお姉さまに何の価値があるの?」
「じゃあ、アルフレッド殿下の婚約者じゃない、今現在のルーナは何の価値もないってことかしら?」
にっこり微笑んで聞き返すと、ルーナは、また顔をくしゃくしゃにして泣き始めた。
「ひっ、ひどいわっ! どうしてそんなひどいことを言うんですか!」
「だってあなたが先に言ったんじゃない」
「私は価値のある人間です! お父さまやお母さま、お兄さまにだって愛されてますし、アルフレッド殿下だって!」
そこまで言ったところで、横にいた侍女が慌ててルーナの口を押さえた。
ルーナもさすがにこれは言ってはいけないことだと思ったのか、しゃくりあげながら口を閉じる。
「アルフレッド殿下だって、何かしら?」
(さあ、お馬鹿さん。どうぞ吐き出してくださいな。ルーナとアルフレッド殿下が恋愛関係に発展しているのなら、リナとの婚約の解消に持っていきやすいもの)
笑顔で言葉の続きを促すと、ルーナは唇を噛み締めて首を横に振る。
「な、なんでもないわ。でも、お姉さま、記憶がないからって、今までと違いすぎます!」
(さすがに気付くわよね。でも、リナも今まで言いたいことを言わせすぎなのよ)
「ルーナ。私ね、夢でお告げがあったの」
ルーナを見て諭すような口調で言うと、彼女は目を丸くする。
「お告げ?」
「ええ。ワガママな妹に対して遠慮してばかりではなく、自分の好きなように言い返していいんだって」
「ワガママだなんて……! リナお姉さまったら、ひどい!」
「酷くていいの。私は好きなように生きるって決めたから」
これ以上話をしても時間の無駄なので、部屋に戻ろうと決めて立ち上がる。
(ルーナがワガママなのは間違ってない。言わないで陰口叩くよりかは言ってあげるほうがよっぽどマシでしょう)
「おい、リナ! いい加減にするのはお前だぞ!」
アンソニーが立ち上がり、私の前まで回り込んできて叫んだ。
座っていたからわからなかったけど、彼は私よりもかなり背が高かった。
かといって、別に怖くもないので、彼を見上げて睨みつける。
「……お前、そんなに背が高かったか?」
アンソニーが訝しげな顔になった。
(リナと私の身長差はそう無いはずなんだけど?)
「ヒールのせいではないでしょうか?」
「……そうか。それならいいんだが」
(もしくは、リナの背筋が曲がっていたからかもしれない)
「最近のリナお嬢様は人が変わられたようですわね」
ルーナの侍女がルーナにそう話しかける声が聞こえた。
(それはそうでしょう。実際に人が変わってますからね)
「お兄さま、ルーナのことが本当に大事でしたら、ルーナとアルフレッド殿下が婚約できるように尽力してあげてくださいませ」
笑顔でそう言ってから、私はルーナのほうを見ることもなくダイニングルームから出た。
*****
「違う! なんでそうなるんだよ!」
「先生が怖いのでうまく踊れないだけです!」
「そういう問題じゃないだろ!」
ルディがこめかみに手を当てて、ぶつぶつ言っている。
今、私とルディはグルーラ公爵家のダンスホールにいた。
なぜ、ダンスホールにいるかというと、ルディと一緒に行くパーティーで、アル殿下とダンスを踊らないといけないかもしれないからだ。
何も考えていないであろうアル殿下とルーナはパーティーには二人で出席するから、ダンスも二人で踊ると思われる。
(そうなった場合、皆の前で大々的に婚約を破棄していただけるのではないかと思ってるんだけど、甘い考えかしら?)
アル殿下とルーナがダンスを踊るのであれば、私は踊る必要はない。
それなのにどうして私たちがダンスホールにいるかというと、アル殿下の側近が助言した場合、アル殿下はダンスだけは私を誘う可能性があるからだ。
私も子爵令嬢だから、ある程度は踊れるはず。
でも、ステップは優雅ではないし、ルディにしてみればまだまだらしい。
(まあ、さっきから何度もルディの足を踏んでいるから、頭を抱えたくなる気持ちはわかる)
「パーティーに行ったことがないのよ。だから、本番で踊ったりしたことはないの。下手くそなのは認めるわ。ごめんなさい」
「謝る必要はないよ。リナみたいに背中が曲がっているわけではないから、見た目としては悪くない。だけど、ステップが」
「だから、今、頑張って練習してるんじゃない! それに、元々、リナは踊れてたの?」
「リナは体力がなかったから、ダンスなんて出来るわけないだろ」
「じゃあ、私だって躍らなくてもいいんじゃないの!?」
「今、覚えておいても損にはならないだろ?」
相手は王子様だというのに、なぜか話しやすく、ルディには特に言いたいことを言ってしまう。
それに、彼もそれを嫌がる様子もない。
「損ではないかもしれないけど、リナと私が本当の生活に戻った時に困るのはリナよ?」
「元の生活に戻れると思ってるの?」
「どういうこと!?」
リナと入れ替わってから、10日以上が経った。
忙しいはずなのにルディは空いている時間を見つけては、私の所へ来てくれている。
(ルディは世話焼きなのよね。リナに死ぬだとか手紙をもらって、様子を見に来るくらいなんだもの。でも、私にはあまり優しくない気がする)
「そのままの意味」
「意味がわからないから聞いてるの! というか、もうちょっと私に優しくしてくれても良くない!?」
「優しくしてるだろ」
「意地悪なことを言うじゃない!」
「……ほら、リナ。疲れただろ? 俺の腕の中で休むか?」
ルディは明らかな作り笑顔を浮かべて両手を広げた。
「休むわけないでしょ! なんの嫌がらせ!?」
「失礼だな」
ルディは端正な顔を歪めたけれど、すぐに表情を戻して言葉を続ける。
「君に話しておかないといけないことを話すのを忘れてた」
「どんな話?」
「今、世間的に君は妹に婚約者を奪われそうになっている可哀想な令嬢になっていて、俺が君を慰めているという設定になってる」
「は?」
「そうじゃないと俺が頻繁にこの家に通ってたら怪しまれるだろ?」
「そ、それはそうかもしれない」
王家のことだって全然知らなかったし、貴族のマナーだってかじったくらい。
だから、ルディは私に色々なことを教えてくれている。
ただ、最近は私が知っても良いの? と思う様なことまで話してくれることが多くて、私が元の生活に戻ったら暗殺されるんじゃないかという不安がよぎり始めた。
「殺さないわよね?」
「は?」
「全てが終わって、私が元の生活に戻ったら、なんとか探し出して口封じに殺しに来たりしない?」
「するわけないだろ」
「信じられません」
「じゃあ、こうしよう」
ルディは小さく息を吐いてから、とんでもないことを口にする。
「俺と結婚してくれないか? さすがに俺も妻を殺すような真似はしないよ」
「はい!? それに、ルディと結婚して私に何かメリットある? というか、殺す気満々じゃないの!」
「失礼な奴だな。だから、殺さないって」
「田舎の子爵令嬢と第二王子が結婚できるわけないでしょ! 寝ぼけたこと言わないでよ!」
ルディからの突然の申し出に、正直に言うと、心臓はバクバクしている。
でも、それを悟られないように言い返した。
「……何をです?」
「婚約者を自分に変更してほしいって頼んでほしいのよ」
笑顔でお願いすると、ルーナは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「あら、お姉さまったら、どうかされました? さっきの勢いはどうしましたの? もしかして言い過ぎたと思って怖くなられました? 今なら謝ってくださったら許してさしあげますよ? あ、お姉さまが今着ているドレスをくれたら、ですけど」
「あなた、本当に私の着ているドレスが好きね。というか、どうして、私が怖がってるなんて思うの?」
「だって似合っていないんですもの。リナお姉さまにはもっと地味なドレスが良いと思います。怖がっていると思う理由は婚約者を変更してほしいと言うだなんて、私に奪われるのが怖いから、先に渡してしまおうということなんでしょう?」
今、私が着ているのは赤色のシュミーズドレスで、リナの雰囲気には合っていない。
だからか、ルーナの後ろに控えていた侍女たちがクスクスと笑った。
(ルーナの侍女は三人ってとこかしら? まるで取り巻きみたいだわ。あと、怖がっているという理由に関しては、面倒だから相手にしないでおきましょう)
「何を着ようが私の勝手でしょう。あなたにどうこう言われたくないわ」
「な! どうしてそんなに偉そうなんですか! 記憶喪失になったからって好き勝手に言って良いわけじゃないんですよ!? 謝ってください!」
「何を謝るの? 謝らないといけないことを言ったかしら」
言い返されると思っていなかったのか、ルーナの口元が引きつった。
「お姉さま、本当に自分で何を言っているかわかってます?」
「わかってるわよ。だから、私はあなたに何を謝らないといけないのか聞いてるの」
「さっきの態度ですよ! 私を馬鹿にしたじゃないですか! フォークを手に結ぶだなんて!」
「そりゃあ馬鹿にするでしょう。あんな無駄なことばかりするんだもの。もちろん、本当に握力がない人ならしょうがないと思うわ。だけど、あなた、フォークくらい持てるんでしょう?」
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ルーナはアンソニーの前だからか、メソメソと泣き始めてしまった。
そんな彼女を侍女が「お可哀想に」とか言いながら慰め始める。
「ルーナ、泣くなよ。あとで僕がリナを叱っておくから」
アンソニーがルーナを抱きしめて、背中を優しく撫でて言った。
(付き合ってられないわ)
「話を戻すけれど」
「……な、何だって言うんです?」
「お父さまに相談してみてくれない?」
「え?」
俯いて泣いていたルーナはアンソニーの腕の中で、涙目のまま顔を上げた。
「あなたが言う欲しいっていうのは、婚約者になりたいってことでしょう? なら、お父さまにそれを伝えないといけないわ」
「そ、そうだけど、リナお姉さま。アルフレッド殿下の婚約者じゃなくなったお姉さまに何の価値があるの?」
「じゃあ、アルフレッド殿下の婚約者じゃない、今現在のルーナは何の価値もないってことかしら?」
にっこり微笑んで聞き返すと、ルーナは、また顔をくしゃくしゃにして泣き始めた。
「ひっ、ひどいわっ! どうしてそんなひどいことを言うんですか!」
「だってあなたが先に言ったんじゃない」
「私は価値のある人間です! お父さまやお母さま、お兄さまにだって愛されてますし、アルフレッド殿下だって!」
そこまで言ったところで、横にいた侍女が慌ててルーナの口を押さえた。
ルーナもさすがにこれは言ってはいけないことだと思ったのか、しゃくりあげながら口を閉じる。
「アルフレッド殿下だって、何かしら?」
(さあ、お馬鹿さん。どうぞ吐き出してくださいな。ルーナとアルフレッド殿下が恋愛関係に発展しているのなら、リナとの婚約の解消に持っていきやすいもの)
笑顔で言葉の続きを促すと、ルーナは唇を噛み締めて首を横に振る。
「な、なんでもないわ。でも、お姉さま、記憶がないからって、今までと違いすぎます!」
(さすがに気付くわよね。でも、リナも今まで言いたいことを言わせすぎなのよ)
「ルーナ。私ね、夢でお告げがあったの」
ルーナを見て諭すような口調で言うと、彼女は目を丸くする。
「お告げ?」
「ええ。ワガママな妹に対して遠慮してばかりではなく、自分の好きなように言い返していいんだって」
「ワガママだなんて……! リナお姉さまったら、ひどい!」
「酷くていいの。私は好きなように生きるって決めたから」
これ以上話をしても時間の無駄なので、部屋に戻ろうと決めて立ち上がる。
(ルーナがワガママなのは間違ってない。言わないで陰口叩くよりかは言ってあげるほうがよっぽどマシでしょう)
「おい、リナ! いい加減にするのはお前だぞ!」
アンソニーが立ち上がり、私の前まで回り込んできて叫んだ。
座っていたからわからなかったけど、彼は私よりもかなり背が高かった。
かといって、別に怖くもないので、彼を見上げて睨みつける。
「……お前、そんなに背が高かったか?」
アンソニーが訝しげな顔になった。
(リナと私の身長差はそう無いはずなんだけど?)
「ヒールのせいではないでしょうか?」
「……そうか。それならいいんだが」
(もしくは、リナの背筋が曲がっていたからかもしれない)
「最近のリナお嬢様は人が変わられたようですわね」
ルーナの侍女がルーナにそう話しかける声が聞こえた。
(それはそうでしょう。実際に人が変わってますからね)
「お兄さま、ルーナのことが本当に大事でしたら、ルーナとアルフレッド殿下が婚約できるように尽力してあげてくださいませ」
笑顔でそう言ってから、私はルーナのほうを見ることもなくダイニングルームから出た。
*****
「違う! なんでそうなるんだよ!」
「先生が怖いのでうまく踊れないだけです!」
「そういう問題じゃないだろ!」
ルディがこめかみに手を当てて、ぶつぶつ言っている。
今、私とルディはグルーラ公爵家のダンスホールにいた。
なぜ、ダンスホールにいるかというと、ルディと一緒に行くパーティーで、アル殿下とダンスを踊らないといけないかもしれないからだ。
何も考えていないであろうアル殿下とルーナはパーティーには二人で出席するから、ダンスも二人で踊ると思われる。
(そうなった場合、皆の前で大々的に婚約を破棄していただけるのではないかと思ってるんだけど、甘い考えかしら?)
アル殿下とルーナがダンスを踊るのであれば、私は踊る必要はない。
それなのにどうして私たちがダンスホールにいるかというと、アル殿下の側近が助言した場合、アル殿下はダンスだけは私を誘う可能性があるからだ。
私も子爵令嬢だから、ある程度は踊れるはず。
でも、ステップは優雅ではないし、ルディにしてみればまだまだらしい。
(まあ、さっきから何度もルディの足を踏んでいるから、頭を抱えたくなる気持ちはわかる)
「パーティーに行ったことがないのよ。だから、本番で踊ったりしたことはないの。下手くそなのは認めるわ。ごめんなさい」
「謝る必要はないよ。リナみたいに背中が曲がっているわけではないから、見た目としては悪くない。だけど、ステップが」
「だから、今、頑張って練習してるんじゃない! それに、元々、リナは踊れてたの?」
「リナは体力がなかったから、ダンスなんて出来るわけないだろ」
「じゃあ、私だって躍らなくてもいいんじゃないの!?」
「今、覚えておいても損にはならないだろ?」
相手は王子様だというのに、なぜか話しやすく、ルディには特に言いたいことを言ってしまう。
それに、彼もそれを嫌がる様子もない。
「損ではないかもしれないけど、リナと私が本当の生活に戻った時に困るのはリナよ?」
「元の生活に戻れると思ってるの?」
「どういうこと!?」
リナと入れ替わってから、10日以上が経った。
忙しいはずなのにルディは空いている時間を見つけては、私の所へ来てくれている。
(ルディは世話焼きなのよね。リナに死ぬだとか手紙をもらって、様子を見に来るくらいなんだもの。でも、私にはあまり優しくない気がする)
「そのままの意味」
「意味がわからないから聞いてるの! というか、もうちょっと私に優しくしてくれても良くない!?」
「優しくしてるだろ」
「意地悪なことを言うじゃない!」
「……ほら、リナ。疲れただろ? 俺の腕の中で休むか?」
ルディは明らかな作り笑顔を浮かべて両手を広げた。
「休むわけないでしょ! なんの嫌がらせ!?」
「失礼だな」
ルディは端正な顔を歪めたけれど、すぐに表情を戻して言葉を続ける。
「君に話しておかないといけないことを話すのを忘れてた」
「どんな話?」
「今、世間的に君は妹に婚約者を奪われそうになっている可哀想な令嬢になっていて、俺が君を慰めているという設定になってる」
「は?」
「そうじゃないと俺が頻繁にこの家に通ってたら怪しまれるだろ?」
「そ、それはそうかもしれない」
王家のことだって全然知らなかったし、貴族のマナーだってかじったくらい。
だから、ルディは私に色々なことを教えてくれている。
ただ、最近は私が知っても良いの? と思う様なことまで話してくれることが多くて、私が元の生活に戻ったら暗殺されるんじゃないかという不安がよぎり始めた。
「殺さないわよね?」
「は?」
「全てが終わって、私が元の生活に戻ったら、なんとか探し出して口封じに殺しに来たりしない?」
「するわけないだろ」
「信じられません」
「じゃあ、こうしよう」
ルディは小さく息を吐いてから、とんでもないことを口にする。
「俺と結婚してくれないか? さすがに俺も妻を殺すような真似はしないよ」
「はい!? それに、ルディと結婚して私に何かメリットある? というか、殺す気満々じゃないの!」
「失礼な奴だな。だから、殺さないって」
「田舎の子爵令嬢と第二王子が結婚できるわけないでしょ! 寝ぼけたこと言わないでよ!」
ルディからの突然の申し出に、正直に言うと、心臓はバクバクしている。
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