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19 お近づきの印

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 次の日の昼過ぎ、トロット公爵令嬢からの使いだと名乗る人物が、トロット家の執事と共に訪ねてきたと連絡があった。
 先にリュカに連絡にいったらしく、その話はリュカが私に伝えに来てくれた。
 城内にある応接室に通すようにメイドに指示をしたとも教えてくれた。
 使いの男性は私に会いに来たらしい。
 でも、一人では行かずにリュカと一緒に応接室へと向かった。
 応接室の前の廊下には年配の男性が立っていた。

「トロット公爵家の執事だ」

 リュカが耳元で囁くように教えてくれた。

 執事は私たちに気付くと深々と頭を下げた。
 だから、私も軽く頭を下げてから、応接室の中に入る。

「昨日ぶりです」

 部屋にいたのは、若い男性だった。
 
「あなたは……」

 声で昨日の騎士だとわかった。

 今日は騎士の格好はしておらず、平民の服装に近いラフな出で立ちで全然雰囲気が違う。
 声を聞かなければ、同一人物だとわからなかった。
 ブラウンの長い髪を後ろでシニヨンにした男性は立ち上がって、私に軽く一礼したあと、リュカには深々と頭を下げる。

「リュカ殿下もいらっしゃるとは思っておりませんでした。お目にかかれて光栄です」
「一緒に話を聞かせてもらうが、かまわないな?」
「もちろんでございます」

 男性が頷いたのを確認すると、リュカは男性の正面に腰を下ろした。
 私はそんなリュカの隣に座る。

 すでに男性の分のお茶は淹れられており、私たちの分のお茶は待たずに、リュカは男性に話し掛けた。

「で、リリーに何のようだ?」
「リリー様とはお約束がありまして」
「約束?」
「ええ。知りたい情報を渡す代わりに、とある方のお願いをきくという約束です」

 男性は笑顔を浮かべたのか、細い目をより目を細くしてから私に聞いてくる。

「リュカ殿下の前でお話をしてもよろしいですか?」
「ええ」

 頷くと、男性は満足そうな顔をして話し始める。

「レイクウッド家の令息である、ザライス様の件ですが、ザライス様は自分の妹をリュカ殿下の妻にしたいようですね」
「なんだって?」

 リュカは信じられないといった様子で、声を大きくして聞き返した。

 どういうこと?
 レイクウッドに妹がいたのも初耳だけど、妹をリュカの妻にしたいだなんて――

 動揺を抑えつつ、リュカに聞いてみる。

「リュカ、あなた何か心当たりはないの? レイクウッドの妹さんに告白されただとか、好意を寄せられていると感じたこととか」
「ない。とても大人しい子で、顔を合わせたのも数回くらいしかないんだよ」

 リュカは女性の扱いに慣れていないけど、優しいし、外見が整っているから、それだけで好きになる人がいてもおかしくはない。

 鈍い人だから、口に出さないと思いは伝わらないみたいだし、アピールをされていても気付いていない可能性はある。

「アグリタ王国の第一王女殿下の暗殺未遂の件を調べておられるようですが、ザライス様が関わっていると思われていますか?」

 男性の言葉に、私は驚いて聞き返す。

「どうして、調べているなんて思うの?」
「それは秘密です。私が調べた結果、王女の暗殺を企んだのは彼ではありません。何者かに、あの場所にリュカ殿下を連れて来たら、リュカ殿下と妹を結婚させてやると言われたようですね」
「確認したいんだが、ザライスは何も知らなかったと言うのか?」

 今度はリュカが尋ねた。

「何も知らないことはないでしょう。わざわざその日時を指定されたのですから、何か起こることは知っていたはずです」

 リュカが難しい顔をして口を閉ざした。
 暗殺未遂の黒幕じゃないにしても、時間を巻き戻す前の記憶があるリュカには、簡単にこの人の言うことを信じられないわよね。

 でも、そうなると、レイクウッドはどうしてトロット公爵令嬢の肩を持とうとしたの?

 黒幕はトロット公爵令嬢ではないということかしら。

 この人の言うことを信用していいのかわからない。
 だけど、この人は全て調べているはず。
 聞き出せる情報は聞き出しておくことにする。

「レイクウッドにリュカを連れて来るように指示したのは誰なの?」
「さあ? 契約外ですから、そこまでは調べていません」

 男性はわかっているけれど教えないといった感じだった。

「これも契約外と言われるかもしれないけど、あなたはトロット公爵家に付いている人間なの?」
「うーん、まあ、それくらいは答えてもいいでしょう。私はトロット公爵家の犬ではありません。彼らとはお金で繋がった関係ですかね。まあ、それを犬扱いする人もいるかもしれませんが」
「なら、誰の味方というより金次第ってことか」
「ええ、そうです。お金は大好きですよ。裏切りませんから」

 リュカの言葉に、ははは、と男性は笑ってから、私に尋ねてくる。

「リリー様は私に興味がおありですか?」
「ええ、とっても」
「あなたのような可愛らしいお嬢さんにそんなことを言ってもらえるなんて、なんだか照れてしまいますね」
「あなたのことを詳しく知りたいのですが、お金を払えば教えていただけますか?」

 私が尋ねると、男性は笑みを浮かべたまま頷く。

「お高いですけど、それでもよろしければ」
「お前は金のためになら何でもするんだな?」

 今度はリュカが尋ねると、男性は少し考えるように首を傾ける。

「何でも、とは言い難いですねぇ。お金がいくらあっても自分が死んでしまえば意味がありませんので」

 男性は組んでいた足を組み直して、リュカに笑顔を向ける。

「先程も言いましたが、私は高いですよ?」
「俺は王太子だぞ」
「ああ。そうですね。これは失礼しました。お金の心配はいりませんね。ふむ、そうだな。王家の犬みたいになるのは嫌だが、後ろ盾があると捕まらないだろうし、一生、金にも困らない」

 どうやら男性はリュカの言わんとしていることに気が付いたみたいだった。
 ブツブツ言っていたけれど、突然、シャツの胸ポケットから名刺を取り出して、私たちとの間にあるテーブルの上に置いた。

「私を飼う気になりましたら、この場所にいらして下さい。その際には、多少の前金をいただけるとありがたいですね」
「俺がその話にのると思ってるのか?」
「王家が管轄する諜報部隊があるのは知っていますが、今の段階では、あなたの一存では動かせないのでしょう? 私なら金を払っていただければ、あなたの命令で動けますがね。お望みであれば、トロット公爵家の二重スパイにもなれますよ」

 その後、男性はレイクウッドについての情報をお近づきの印だと言って、もう1つだけ教えてくれたのだった。
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