後悔だけでしたらどうぞご自由に

第２３話 厄介な知らせ

　それから、ライト様に詳しく調べてもらったところ、シルフィーはパーティー会場であれと出会い、その時に自分があれと会ってはいけない事を思い出した様なのですが、時すでに遅し。
　激昂したあれが、彼女を人気ひとけのない所まで連れていったようです。
　そして、あれが会場に戻ってきたのに、一緒に戻ってこなかったシルフィーを心配した彼女の旦那様が外に見に行くと、中庭で倒れているシルフィーを見つけたそうです。
　倒れていたといっても、意識を失っていたわけではなく、平手打ちを何発か食らって痛くて泣いていたそうです。

　男性の平手打ちでしたら手も大きいでしょうし、力も強いはずですから痛いでしょうし泣きたくなる気持ちはわかりますが、どうしてシルフィーが、あれと会ってはいけないという事を会ってしまうまで思い出せなかったのかが謎です。

　もちろん暴力はいけません！
　暴力以外に出来る事はあったはずです。
　なぜなら、彼は国王陛下なのですから。

　考えてみたらシルフィーを国へ強制送還して、自分の妻にだって出来たはずなのです。

　…そういえば、妻という言葉で思い出しましたが、フローレンス様はどうしていらっしゃるんでしょうか。
　妊娠は本当だったのでしょうか…？

　お義母様との挨拶も無事に終えて、新婚旅行から帰宅している最中の馬車の中で頭を整理していると、向かいに座っていたライト様が口を開きます。
　
「さっきから一人で色々と考えてるみたいだが、何を考えてるんだ？　シルフィーの事か？　それともあれの事か？」
「両方です。それからフローレンス様の事も…」
「フローレンスか」

　思い出したくもないといったような表情をされた後、ライト様は答えてくれます。

「彼女の妊娠は嘘だったらしい」
「え？　そうなんですか？」
「ああ。その点に関しては、あれがしっかり管理していたみたいだな」
「管理…？」
「ああ…。詳しい事は口に出さなくていいだろう？」

　子供ができないようにしていた、という意味合いでいいのでしょうか？
　詳しく聞くと恥ずかしくなってしまいそうなので止めておきます。

「今回のパーティーには、フローレンス様は一緒に来られていたんですか？」
「いや。さすがにフローレンスはシルフィーほど馬鹿じゃなかった様だ」
「そうですよね。国王陛下の怒りを買っているとわかっているのに、普通は目の前に現れませんよね」

　やっぱり、シルフィーはとてつもなく頭が悪いのかもしれません。
　
　ああ、でも私はそんな人と血が繋がっているのですね…。

「家族だからって全てが同じ性格でもないし、考え方だって違う。君は俺からしてみたら、シルフィーとは全く違うタイプに思えるから安心していい」
「では、私がシルフィーみたいな馬鹿になってしまったら何とかして下さいますか？」
「叱るし、そんな馬鹿な事をしないように止める」
「ありがとうございます！」
「俺は君の味方だが、やって良い事とやってはいけない事はちゃんと伝える。だから、君も同じ様に俺に伝えてくれ」
「わかりました」

　夫婦というものはやはり支え合って生きていくものですよね？
　もちろん、私達の場合は仮初めの夫婦に近いのですが…。

　なぜか胸がちくりと痛んだ気がして、心臓の病気でしたら大変なので屋敷に帰ったら、とりあえずお医者様に相談してみようと思ったのでした。




　数日後、屋敷に帰り着き旅で疲れた体を休めている間にも、シルフィーの旦那様からはシルフィーが危篤との電報が届いていました。

　危篤というのは回復の見込みがない場合の事のようですが、その割にシルフィーは何日も頑張っています。
　もちろん、これが本当の事で相手がシルフィーの様な嫌な人でなければ、危篤状態ではないのかもしれないと胸をなでおろしたところですが、相手がシルフィーの上に、危篤状態ではないとわかっているからか、とても頑張っているなぁとぼんやりと思ってしまいました。

　もちろん、何の対応もしないと礼儀がなっていない事になりますので、お見舞いの花などをお送りしていますし、電報も返しており、会いに行けない事は伝えてありますが、どうしてもシルフィーは私に会いたくてしょうがないようです。

　ただ、私は今、外に出る事は出来ませんでした。

　なぜなら、まだあれがこの国の王城に賓客として居座っているそうで、何とかして私に会おうとしているようなのです。
　ライト様から話を聞いてみたところ、私のお気に入りの店に突然行ってみたりしているようで、偶然を装って何とか接触しようとしているとの事でした。

　本当に迷惑です。
　ですから、私は現在、屋敷から出る事は出来ません。

　彼の帰国日はまだはっきり決まっていないそうで、いつまで自分の国から離れているつもりなのか、本当に何を考えているのかわかりません！

　って、私に会うまで帰るつもりはないのでしょうね…。

　となると、やはり会うしかないのでしょうか。
　このままでは多くの人に迷惑をかけてしまいますよね。

　今日はライト様がいつもより帰ってくるのが遅くなると聞いていたので、一人で食事をしているからか、色々と考えていると、食事のペースが遅くなってしまい、キヤセワさんがライト様が帰ってきた事を教えてくれました。

　せっかくなので一緒に食べようと思い、ライト様がやって来るのを待つ事にしました。
　ここ最近は、１人で食べる事が寂しくなってきましたので、甘ったれた性格になってきてしまったと感じてしまいます。

　昔は１人で食べる事が当たり前でしたのに。

　ライト様がいない昼間やおやつの時間はマーサ達がいるから寂しくないのですが、朝と夜はライト様と食べるのが当たり前になっていて、そうではない時は落ち着かない気持ちになってしまいます。

「食欲がないんだって？」

　ライト様はダイニングルームに入ってくるなり、自分の席には行かずに私の所までやって来て、心配そうな表情で尋ねてきました。

「いいえ。ライト様と一緒に食べたくて…」
「……！　そ、それは悪かったな。これからは絶対に残業はしない様にする」

　焦った顔をされるので、慌てて首を横に振ります。

「残業はせずに帰ってきていただけるのは嬉しいですが、職場の方のご迷惑にはなりたくありませんので、仕事を優先して下さいませ」
「そう言ってもらえるのは有り難いが、…何か話したい事でもあるのか？」
「寝室でお話しても良いのですが…」

　急いで話す理由でもないですし、反対されると思うのでどうしようか迷っていますと、ライト様が言います。

「俺も話があるんだが…」
「何でしょう？」
「アバホカ陛下が我が家に来ると言っている」
「そんな迷惑な！」

　ライト様の言葉を聞いた私は、思わず立ち上がって叫んでしまったのでした。