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第21話 ビリーの後悔 (ビリーside)

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(ああ、どうして、こんな事に…!)

 目の前で冷たい眼差しを自分に向けているライトを見て、ビリーは思った。

 そして、次の瞬間には過去の事が頭をよぎった。
 
 ビリーは幼い頃はビビリのビリーと呼ばれていた。
 本当はビリーは侯爵家を継ぐ予定はなかった。
 彼は次男だったのだ。

 しかし、両親と兄が急逝した為、急遽、ビリーが継ぐことになってしまった。

 気の弱いビリーはどうすれば自分の人生が順風満帆にいくのか、よく当たるという占い師に相談した。
 すると、占い師は言った。

娘を大事にしなさい』

 ちょうどその時、シルフィーが時だった。

 ビリーはなぜか、その娘をシルフィーの事だと思い込み、それはもう夫婦揃って可愛がった。

 だから、次女のリーシャも娘である事をすっかり忘れていた。

 シルフィーが逃げ出すと言った時には、家督を捨ててまで逃げ出した。
 そうすれば自分も幸せになると思ったからだ。

 けれど、あんなに可愛がったシルフィーには捨てられてしまった。
 その時にビリーは気が付いた。

(そういえば、あの占い師は生まれてくる娘を大事にしろと言っていた! 大事にしなければならないのはリーシャの方だったんだ!)

 娘であるなら二人共大事にするのが当たり前だという事には、ビリーは気付く事もなく、そんな事を思った。

 そして、ビリーはリーシャがアーミテム家に嫁ぐと知った時は、これは神様が自分に与えてくれたチャンスだと思った。
 
(過去には戻れないから、今から大切にしろと言ってくださっているんだ!)

 調子の良い事を考えたビリーは、何とかリーシャに会おうと手紙を書いた。
 しかし、一向に返事は返ってこない。

 苛立っているとジョージは言った。

『アーミテム公爵はリーシャに手紙を渡していないんじゃないだろうか』

 その言葉を聞いたビリーは思った。

(きっとそうだ。アーミテム公爵が邪魔をしているんだ! 実の娘が親を捨てられるわけがない!)

 その考えが逆の立場の場合にも当てはまるはずなのだが、ビリーは考えなかった。
 元々、領地の管理や家の事に関して、ビリーは側近や執事の言われるままに仕事をしていたし、自分が何をしているかもはっきりわかっていなかった。
 義両親も早くに他界していた為、リーシャを可愛がっていないビリー達を叱る者も誰もいなかった。

 息子であり、リーシャの兄にあたるノルガ以外は。

 苦労してやっと、リーシャの近くにまで来たと思ったのに、ビリーはリーシャに自分を認識してもらう事も出来なかった。

 なぜなら、リーシャの周りには護衛騎士がいて、リーシャに少しでも近付こうとすると邪魔されてしまったからだ。
 何とか気を引こうとしたジョージは、ライトに連れて行かれてからは行方がわからない。

 ジョージをビリーが助けようとしなかったのは、仲間であると思われて、自分もひどい目にあいたくなかったからだ。
 昨日の晩は、初めて一人ぼっちの野宿をして、心細くてビリーは一睡もできなかった。

(このままでは体調を崩してしまう!)

 そう思ったビリーは、朝からリーシャ達がいると思われる屋敷を探し、鍛錬中のライトを見つけて話しかけたのだった。

 ビリーはライトが快く迎えてくれると、なぜか思い込んでいた。

 実際はそんな事はなかった。
 自分を見つめる、ライトの目には殺意の色しか見えなかった。

 ライトは汗だくで軽く息は上がっているが、ビリーが立ち向かっても到底勝てそうになかった。

 話をしてみたが、ライトはわかってくれそうになかった。

 話をしている内にライトが持っていた剣の切っ先をビリーに向けた。
 ビリーは尻もちをついて叫んだ。

「ぎゃあああ! 助けて! 助けて下さい! まだ死にたくない!」
「静かにしろ。それ以上うるさくするなら悲鳴をあげられない様に喉を掻っ切るぞ」
「嫌だ…、嫌です!」

 自分の手で喉をおさえ、涙を流しながらビリーは首を何度も横に振った。

「リーシャに会ってどうするつもりだ?」
「あ、会って…、その、一緒に暮らすつもりで…」
「なぜ一緒に暮らす必要がある?」
「後悔しているからです! 謝ろうと思って!」
「謝るだけなら一緒に暮らす必要はないだろう。彼女を捨てなければ良かっただけだ」

 ライトが鼻で笑うと、ビリーは叫ぶ。

「どうして、義理の父親にここまでするんですか…! 私は娘に会いたいだけなのに…っ!」
「今更、父親ぶらなくてもいい。彼女はお前の事など父だと思っていないようだ」
「そ、そんな…っ!」
「だけど、彼女は優しいからお前が死んだと聞くと悲しむかもしれない。だから、殺すのは止めておいてやる。それに俺が殺したと知られても嫌だからな」

 ライトは剣を鞘に戻すと、右腕をあげて右手の親指以外を揃えて何度か動かした。
 すると、突然、ライトの横に全身真っ黒の衣装に身を包み、顔には真っ白なマスクをつけた何者かが現れた。
 目と口の部分だけ小さい穴が開いていて、見ているだけで不気味だった。

「彼をラレゲニイナの監獄へ送ってくれ。手続きはしておく」

 ライトの言葉を聞いたビリーは叫ぶ。

「そんな! 私が何をしたというんですか!」

(ラレゲニイナの監獄は凶悪犯しかおらず、終身刑の人間しかいないんだぞ!?)
 
「娘を捨てておいて、よくそんな事が言えたな。彼女に近付かず、大人しくしておけば良かったのに」

 ライトはビリーが背筋が凍るかと思うほどの冷たい声で言ったあと彼を見下ろして続けた。

「反省する気もなく後悔だけなら勝手にしてろ」

 ライトが背を向けたと同時、ライトの横に立っていた者とは別の同じ格好をした人間がビリーの腕を掴み、何か言おうとしたビリーの口をおさえた。

(どうして! どうしてこんな目に…!)

 ビリーは叫ぼうとしたが、首を強く締められ意識を失った。
 
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