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35 チープ男爵令息の現在②
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私の部屋に来てくれたエディ様が言うには、現在、チープ男爵家の屋敷の周りを囲む鉄柵や門扉には、たくさんの張り紙が貼られていて、その紙にはチープ男爵令息に対する罵詈雑言が書かれているとのことだった。
「男爵も平民にしてみれば恐れる相手なんだけど、不満が溜まってるんだろうね」
「何か対策はされているんでしょうか」
「しようがないんじゃないかな。使用人も辞めているみたいだから、警備をする人間も辞めているんだとおもうよ」
「評判の悪い貴族の家に仕えていても、あまり良いようには思われませんでしょうしね」
私が頷くと、隣りに座っているエディ様も無言で頷いた。
「助けてあげるべきなんでしょうか?」
「そこまでしなくていいんじゃないかな。だって、悪いことをしたのは彼だろう?」
「それはそうかもしれませんが、悪いことをした相手には何をしても良いというのは違うと思うんです」
言い終えてから、少しだけ不安になる。
これも、甘い考えだったりするのかしら?
「リネの言っていることはわかるよ。僕だって、相手が悪いからって何をしても良いなんてことは思わない。リネを悲しませた相手だから、それくらい辛い思いをすれば良いと思ってるくらいで、リネが望まない限りは何かしようとは思わないよ」
エディ様は苦笑してから、言葉を続ける。
「本当はこんなことも言っちゃ駄目なんだろうけどね」
「お気持ちはとても嬉しいです」
微笑んで見せると、エディ様はぎゅっと抱きしめてきた。
そして、そのままの状態で話をする。
「彼が命を絶ちたいと思うほど辛い思いをしているなら止めるべきなんだろうね。その辺は父上に相談するよ。やっている相手が誰かはわからないけど、裁かれずに普通に生きていることが気に食わない、もしくは暇つぶしでやっているだけかもしれないから」
「暇つぶしでやっているとしたら、とても最低な行為ですね。もちろん、嫌がらせ行為自体、やってはいけないし最低な行為ではありますが」
まだ私の友人、家族などが彼に対して怒るのはわからないでもない。
でも、私の家族はそんなことをするはずがない。
新しい家族はそんなことをする人たちではないし、昔の家族は私に嫌がらせをしてくるはず。
だから、チープ男爵家に嫌がらせをしているのは、私の関係者ではないと思っている。
エレインやテッド様はそんなことをする人じゃないし、お義父様もお義母様も何かするにしても、こんな陰険なやり方はしない。
それはエディ様も同じことだと思う。
「リネ、君が心を痛める必要はないからね?」
「ありがとうございます。ただ、知ってしまった以上、嫌がらせを止めるように動かなければいけないと思うんです。チープ男爵令息のためではなく、嫌がらせをしている人に、それはしてはいけない行為だとわかってほしいんです」
「そうだね。正義感にかられてやっているのかもしれないけど、やっていることは良くない。チープ男爵家の評判は地に落ちただろうから、後は没落に向かうだけだろうしね」
エディ様は私の頭に頬を寄せ、背中を優しく撫でてくれる。
チープ男爵令息は本当に反省してくれているのかしら?
それだけが疑問に残る。
でも、後悔はしているはず。
二度と同じようなことをしないのであれば、私はそれで良い。
彼が安易にやった行為のせいで、自分の家が没落して、自分は平民になるんだもの。
私に対して悪かったという気持ちは芽生えなくても、自分のやったことを悔やむ日は必ず訪れるはずだわ。
そこまで思ったところで、ふと気になったことがあり、エディ様に尋ねてみる。
「そういえば、どうしてチープ男爵令息はあの場にいたのでしょうか?」
「家にいたら命の危険性もあるからって、今は親戚の家に逃げているらしいらしいよ。親戚の家がすぐ近くだったみたいだ」
「そうなんですね」
「もしかしたら、彼を死んだことにするのかもしれない」
「そうすることによって、嫌がらせをしていた人は正義だと思ってやっていたことが、結果的には人を傷付けて追い詰めるのだとわかってくれるでしょうか?」
「どうだろう」
エディ様はあまり期待していないのか、大きく息を吐いてから言葉を続ける。
「とにかく、チープ男爵令息の気持ちを聞いてみないとね。本当に反省しているのなら、そのまま親戚の家に逃しておいてあげればいいし」
「はい」
私を傷付けたからといって、チープ男爵令息が絶対に幸せになってはいけないとは思わない。
だけど、自分のやったことが悪いことだったということは自覚してほしい。
エディ様の腕の中で、そう願った。
※
お読みいただき、ありがとうございます。
次の話はエディ視点になります。
「男爵も平民にしてみれば恐れる相手なんだけど、不満が溜まってるんだろうね」
「何か対策はされているんでしょうか」
「しようがないんじゃないかな。使用人も辞めているみたいだから、警備をする人間も辞めているんだとおもうよ」
「評判の悪い貴族の家に仕えていても、あまり良いようには思われませんでしょうしね」
私が頷くと、隣りに座っているエディ様も無言で頷いた。
「助けてあげるべきなんでしょうか?」
「そこまでしなくていいんじゃないかな。だって、悪いことをしたのは彼だろう?」
「それはそうかもしれませんが、悪いことをした相手には何をしても良いというのは違うと思うんです」
言い終えてから、少しだけ不安になる。
これも、甘い考えだったりするのかしら?
「リネの言っていることはわかるよ。僕だって、相手が悪いからって何をしても良いなんてことは思わない。リネを悲しませた相手だから、それくらい辛い思いをすれば良いと思ってるくらいで、リネが望まない限りは何かしようとは思わないよ」
エディ様は苦笑してから、言葉を続ける。
「本当はこんなことも言っちゃ駄目なんだろうけどね」
「お気持ちはとても嬉しいです」
微笑んで見せると、エディ様はぎゅっと抱きしめてきた。
そして、そのままの状態で話をする。
「彼が命を絶ちたいと思うほど辛い思いをしているなら止めるべきなんだろうね。その辺は父上に相談するよ。やっている相手が誰かはわからないけど、裁かれずに普通に生きていることが気に食わない、もしくは暇つぶしでやっているだけかもしれないから」
「暇つぶしでやっているとしたら、とても最低な行為ですね。もちろん、嫌がらせ行為自体、やってはいけないし最低な行為ではありますが」
まだ私の友人、家族などが彼に対して怒るのはわからないでもない。
でも、私の家族はそんなことをするはずがない。
新しい家族はそんなことをする人たちではないし、昔の家族は私に嫌がらせをしてくるはず。
だから、チープ男爵家に嫌がらせをしているのは、私の関係者ではないと思っている。
エレインやテッド様はそんなことをする人じゃないし、お義父様もお義母様も何かするにしても、こんな陰険なやり方はしない。
それはエディ様も同じことだと思う。
「リネ、君が心を痛める必要はないからね?」
「ありがとうございます。ただ、知ってしまった以上、嫌がらせを止めるように動かなければいけないと思うんです。チープ男爵令息のためではなく、嫌がらせをしている人に、それはしてはいけない行為だとわかってほしいんです」
「そうだね。正義感にかられてやっているのかもしれないけど、やっていることは良くない。チープ男爵家の評判は地に落ちただろうから、後は没落に向かうだけだろうしね」
エディ様は私の頭に頬を寄せ、背中を優しく撫でてくれる。
チープ男爵令息は本当に反省してくれているのかしら?
それだけが疑問に残る。
でも、後悔はしているはず。
二度と同じようなことをしないのであれば、私はそれで良い。
彼が安易にやった行為のせいで、自分の家が没落して、自分は平民になるんだもの。
私に対して悪かったという気持ちは芽生えなくても、自分のやったことを悔やむ日は必ず訪れるはずだわ。
そこまで思ったところで、ふと気になったことがあり、エディ様に尋ねてみる。
「そういえば、どうしてチープ男爵令息はあの場にいたのでしょうか?」
「家にいたら命の危険性もあるからって、今は親戚の家に逃げているらしいらしいよ。親戚の家がすぐ近くだったみたいだ」
「そうなんですね」
「もしかしたら、彼を死んだことにするのかもしれない」
「そうすることによって、嫌がらせをしていた人は正義だと思ってやっていたことが、結果的には人を傷付けて追い詰めるのだとわかってくれるでしょうか?」
「どうだろう」
エディ様はあまり期待していないのか、大きく息を吐いてから言葉を続ける。
「とにかく、チープ男爵令息の気持ちを聞いてみないとね。本当に反省しているのなら、そのまま親戚の家に逃しておいてあげればいいし」
「はい」
私を傷付けたからといって、チープ男爵令息が絶対に幸せになってはいけないとは思わない。
だけど、自分のやったことが悪いことだったということは自覚してほしい。
エディ様の腕の中で、そう願った。
※
お読みいただき、ありがとうございます。
次の話はエディ視点になります。
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