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22 急変した態度①

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 エディ様たちが教室の中に入ってきた時から、残っていたクラスメイトの目はフールー伯爵令嬢だけに向けられた。

 そして、クラスメイトの表情は皆一様に「終わったな」といった感じだった。
 フールー伯爵令嬢もその視線に気が付いたのか、動揺しながらエディ様に問い掛ける。

「あ、えっと、その、それは、どういうことですの!? いくら、公爵令息でも我が家での決め事を変えられるわけがありませんわ!」
「本当にそう思ってるの?」

 エディ様が鼻で笑うと、フールー伯爵令嬢はびくりと体を震わせた。

「公爵家をなめないでくれる? 普段はそんなことをしないのが当たり前だからやらないだけで、やろうと思えばできるんだよ。尤もな理由があればね?」

 エディ様はそう話しながら私のところまで来ると、表情を和らげて聞いてくる。

「リネ、もういいよね? フールー伯爵令嬢は数日しか我慢出来ないんだよ。それに、どうせたかが修道院だなんて思っているんだと思う。その考えを叩き直してやりたいところだけど、彼女にはもっと良いところがありそうだよ」
「あの、エディ様、私は修道院に行ってもらうだけで十分です。それに、勝手に決めてしまったら、お義父様から怒られますよ?」
「おとうさま?」

 エディ様がきょとんとした顔をして私に聞き返してきた。

 しまったわ。
 どんな風になるかわからなかったから、エディ様の前では、お義父様とお義母様と呼ばないように気を付けていたのに!

「あ、あの、何でもありません。言い間違えました」
「え? もしかして僕の父上のことをお義父様!?」

 そう言ったエディ様は顔を両手で押さえてしゃがみ込む。
 ぶつぶつと小さな声が聞こえてくる。

「リネが父上のことをそう呼んでるなら、僕とリネはもう夫婦」
「養父のおとうさまかもしれませんよ」

 テッド様がエディ様を立ち上がらせて、ぼそりと呟く。

「ぜ、絶対に違う! そんな風に思うんなら今から結婚」
「エディ様! 今はそんな話をしている場合ではありません!」

 取り乱しているエディ様に叫ぶと、我に返ってくれたようで表情を引き締める。

「ごめん。あまりにも嬉しくて取り乱してしまった。そうだよね、余計なことをすると、リネの義理のお父さんになる人に怒られるよね」

 エディ様はそう言い終えると、困惑した表情のフールー伯爵令嬢に厳しい目を向ける。

「君の母親は修道院に行かせることを拒んでいた。君は修道院に行きたいみたいだけど、僕は行かせたくない。君の願い通りにさせたくなるからね。君の母親の希望通りになる場所に送ってあげよう」

 エディ様の言っていることが理解しにくくて考える。
 フールー伯爵令嬢のお母様は修道院に行かせたくない。

 フールー伯爵令嬢は、どこかに行くなら修道院に行かわせたいと思っていて、エディ様としては望み通りにさせたくない。

 修道院以外を選ぶことは、フールー伯爵令嬢にとっては罰になるし、彼女の母親にしてみれば、ある意味、になる。

 でも、修道院以外にどこがあるのかしら?

 そう思ったのはフールー伯爵令嬢も同じだった。

「修道院以外に行くところなんてないでしょう?
どこかで働かせようとしても、私は何もできませんわ!」

 フールー伯爵令嬢の言葉を聞いたエレインが「偉そうに言うことではないでしょう」と呆れている。

「大丈夫だよ。色々と教えてくれるから」

 エディ様はフールー伯爵令嬢にそう言うと、私に話しかけてくる。

「リネ、帰ろう。それから家に帰ったら式場はどこが良いかパンフレットを一緒に見ようね?」
「エディ様、学生の間は結婚しませんからね?」
「そんなの気にしなくていいって。それに学生結婚する人だっているよ」

 エディ様が私の手を取ろうとしたので、テッド様が間に無理やり入ってくれて首を横に振る。

「駄目です」
「……わかったよ」

 エディ様は不満そうに言うと、フールー伯爵令嬢に目を向ける。

「どこへ行かされるかは君のお父上から聞くと良い」
「お気遣いありがとうございます」

 フールー伯爵令嬢はにこりと微笑むと、自分から話しかけてきておいて、カバンを持って帰っていった。

「あ、あの……、フールー伯爵令嬢をどこへ行かせるつもりなんですか?」
「ディレンクェイン学園だよ」
「えっ!?」

 私は思わず大きな声を上げてしまった。

 ディレンクェイン学園はこの学園からかなり離れた場所にあり、ほぼ隣国に近い。
 『人を思いやる心を育てる』というキャッチフレーズで有名だ。

 極寒の地にあり、学園の周りには高い塀が張り巡らされている。
 近くに民家などもないから、脱走しても凍え時ぬ可能性が高い。

 ディレンクェイン学園は性格に問題のある人達を更生させる学園で、授業内容は一般の学校とは違う。

 修道院の場合は周りに心の温かい人が多いと思うけれど、ディレンクェイン学園は違う。
 フールー伯爵令嬢たちのような人が集まっているから、喧嘩になる可能性が高かった。

 だから、先生たちも自分を守るための武器を持っていて、何かあれば攻撃もできる。
 体罰は許されていないので、先生が攻撃できるのは、自分の命や生徒の命を守る時だけだと聞いている。

 ただ、無事に卒業したという人の話を聞くことが少ない。
 敷地内には更生するための大人用の施設があるらしく、改善の余地がなければ、そのままその施設に送られているのではないかと言われている。

 どこへ連れて行かれるかわかれば、フールー伯爵令嬢は謝ってくるのかしら。

 帰りの馬車でそんなことを思った。

 

 そして、休み明けの日の朝、私とエレインが教室に入るなり、フールー伯爵令嬢がやって来て叫んだ。

「許してください! お願いです! 私を修道院に行かせてください!」
「私に判断は無理よ。大人の介入が必要なものは大人に任せているの」
「そこを何とか! お願い! 助けてください! ディレンクェイン学園には行きたくないの!」

 フールー伯爵令嬢は涙目で訴えてきたのだった。
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