上 下
23 / 59

20 変わる気のある人とそうでない人①

しおりを挟む
 無言で睨み合っていると、フールー伯爵夫人にエディ様が尋ねる。

「どうしてそんな考えしか出来ないのです?」
「……どういうことでしょうか」

 伯爵夫人は私から視線を動かして、エディ様に尋ね返した。

「あなたは相手の意見を聞かずに自分の言いたいことを言って、相手が納得すると思い込んでいる。自分の意見に賛同できないものは悪、もしくは頭が悪いとでも思っているのでしょう?」
「頭が悪いとまでは思っておりませんわ。考え方に柔軟性がないと思うだけで……」
「柔軟性がないのはそちらでしょう」

 エディ様はきっぱりと言い切ると、私に顔を向けて話しかけてくる。

「真面目に相手をしても意味がないと思うよ。こちらの気持ちを理解するつもりはないみたいだから」
「はい」

 大きく頷いてから、フールー伯爵夫人に視線を戻して口を開く。

「お帰りください。反省もしていない上に、やり返してきたのだから同レベルだなんて言われる方と話すことはありません」
「聞いて頂戴!」

 伯爵夫人は大きな声を上げて私の動きを止めたあと、早口でまくし立てる。

「このままではあの子は夫の命令で修道院に行かされてしまいます! あんなに可愛い子が修道院で一生暮らすだなんて駄目よ! あの子には輝かしい未来が待っていないといけないんです! あなたが過去を忘れてくれれば、キラリはこれからも幸せに暮らしていけるんですよ! あの子の将来を何だと思ってるんですか!」

 怒りでうち震える自分の感情を落ち着かせるために、大きく深呼吸する。

「……御息女が二度といじめをしないという保証はありますか?」

 気持ちを少しだけ落ち着かせ、強く握りしめた両手を太腿の上に置いて尋ねた。

「あ、ありますわ。さすがにもう二度と馬鹿なことはしないはずです!」
「……それはあなたの願望ではないですか?」
「違います! それに最初からできないと決めつけるよりも、チャンスは与えられるべきです!」
「……わかりました。チャンスを与えることにします」

 私が口を開くと、伯爵夫人は笑みを浮かべた。
 そして、エディ様は驚いた顔になり、お義父様は眉根を寄せた。

 エディ様たちには、あとで私の考えを知らせることにして、今は少しでも早く伯爵夫人にお帰りいただくように話を進める。

「ただ、一つ条件があります」
「何かしら?」
「御息女が必要以上に私に近付かないことを約束していただきたいです」
「もちろんよ!」

 伯爵夫人は嬉しそうな表情で頷いて立ち上がると、話は終わったと言わんばかりに挨拶だけして帰って行った。

「……どうするつもりなんだ?」
「フールー伯爵夫人にお願いされたように、フールー伯爵令嬢にチャンスを与えるつもりです」

 お義父様からの問いかけに答えると、エディ様が顔を覗き込んでくる。

「リネ、君にこんなことは言いたくないけど、本当にあんな性格の悪い人間が変われると思ってるの?」
「変わる変わらないは、本人の意思次第です。本人に選択してもらおうと思います」

 その後、私の考えを二人に話してみたところ、理解はしてくれた。


 
 次の日にはシンス候爵がやって来て、私が話し終えるまで、口を挟むことなく最後まで聞いてくれた。
 そこで改めて、シンス候爵は私に謝ってくれたあと、お姉様とデイリ様の話をしてくれた。

 お姉様はどうにかして、デイリ様との婚約の解消を進めようとしているらしかった。

 デイリ様は有り難いことに、お姉様との婚約の解消を嫌がり、申し出を突っぱねてくれているんだそう。
 今回、シンス候爵家が強気に出れるのは爵位のこともあるけれど、私との婚約がで解消されたとなっていたから。

 実際はお姉様が私からデイリ様を奪い、私はデイリ様から婚約破棄された。
 でも、私の両親は私の勝手で婚約者が入れ替わったという話をシンス候爵にしている。

 私の両親は今更、それが嘘だったとは言えない。

 シンス候爵としては、婚約を解消したいという私の両親やお姉様に対し「シンス候爵家を馬鹿にしているのか」と怒ってくれたんだそう。

 どうしても婚約関係を無くしたい場合は、婚約破棄をしろと伝え、その代わり慰謝料を請求すると脅したらしい。

 請求する慰謝料として提示された金額を見た両親は言葉をなくし諦めるしかなかったというのだから、よっぽどの金額を請求しようとしたみたいだった。

 休み明け、教室に入るとエレインだけじゃなく、フールー伯爵令嬢の取り巻きたちが近づいてきた。

 身構えていると、彼女たちは何度も謝ってきて、フールー伯爵令嬢との付き合いはやめると言ってきた。

「フールー伯爵令嬢と付き合うななんて言わないけれど、二度とあんな酷いことをしないで」

 そうお願いすると、取り巻きたちは何度も頷き、泣いて謝ってくれた。

 その日から、フールー伯爵令嬢はクラスで一人ぼっちになった。

 今までは休み時間、彼女の周りには必ず誰かがいた。
 でも今は、彼女を避けるかのように、近くの席にも人がいない。
 授業開始のチャイムが鳴って、やっと席に戻ってくる、そんな日が続いた週末の放課後のことだった。

 近付くなとお願いしていた、フールー伯爵令嬢が私のところへやって来て、頬を叩こうとしてきた。

 私が驚いて避ける前に、エレインが手首を掴んで止めてくれた。

 フールー伯爵令嬢は手首を掴まれたまま叫ぶ。

「あんたはこれで満足なの!?」
「意味がわからないわ」
「私を一人ぼっちにして何が楽しいのよ! 馬鹿にしないでよ!」
「自分で撒いた種でしょう!? それに馬鹿になんてしていないわ!」

 言い返すと、フールー伯爵令嬢はエレインの手を振り払い、憎しみのこもった眼差しを向けてきたのだった。




 

次の話は「変わる気のある人とそうでない人②~トワナ視点~」になります
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!

ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。 同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。 そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。 あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。 「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」 その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。 そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。 正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。

待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。 妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。 ……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。 けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します! 自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……

矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。 『もう君はいりません、アリスミ・カロック』 恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。 恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。 『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』 『えっ……』 任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。 私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。 それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。 ――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。 ※このお話の設定は架空のものです。 ※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)

あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します

矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜 言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。 お互いに気持ちは同じだと信じていたから。 それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。 『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』 サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。 愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

処理中です...