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48 誕生日の夜②
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「怖かっただろ?」
申し訳無さげに聞いてくるリアムに、首を横に振って答える。
「怖かったのは確かですが、だからといって、それはリアムのせいでも、警備をしてくれていた人のせいでもありません。広いお屋敷なんですから、どこにでも隠れるところはあるでしょうし」
「それはそれでどうかと思うけど……」
「でも、相手が他の人なら、リアムも警備の人ももっと警戒していたと思うんです」
「まあ、それはそうだけど」
リアムは苦笑したあと、私の方に身体を向けて聞いてくる。
「許してもらえたということでいいかな?」
「もちろんです。といいますか、私の家族が申し訳ございません」
「それに関しては明日に連絡を取るよ。アイリスはもう、家族のことは忘れていいから」
「ありがとうございます」
微笑んで頭を下げると、リアムは咳払いをしてから聞いてくる。
「前にした話を覚えてるかな?」
「……何でしたっけ?」
「いや、その、契約条件の変更の件で話をしたいって言っていただろ?」
「……」
そう言えば忘れてた。
リアムから言われてたんだった。
聞きたくなったから聞くって言ってたのに……!
「もしかして、アイリス、忘れてたとか言わないよね?」
「……」
「アイリス!?」
「家族への仕返しで頭がいっぱいで、すっかり忘れておりました。申し訳ございません!」
「え、本当に忘れてたの?」
「私、どんなお話かわからなかったから怖くて、あまり考えないようにもしていたんです。それに、家族のこともありましたし……。あとは、寝たら忘れる性格でもありますので……」
約18年間、あの家で暮らしていたんだから、しょうがないと思ってほしい。
いちいち気になることを気にし続けていたら、私の心が壊れてしまう気がした。
だから、すぐにしなければいけない謝罪などは別として、自分に関することだけなら、嫌なことは寝て忘れるという性格になってきていた。
「そうか。気にしてなかったんならいいよ」
「何がです?」
「いや、あの日、僕が言った直後は不安そうな顔をしていたのに、次の日に顔を合わせたら、なんにもなかった様な顔をしてたから無理をさせてるんじゃないかって思ってたんだ」
「……申し訳ございませんでした」
「謝ることじゃないよ。君が聞いても良いと思ってくれるまで待つことにしてたし」
「……でも、すっかり忘れてしまいそうでしたよ?」
「じゃあ、忘れたアイリスもそうだし、僕も悪かったということでお互い様でいいかな?」
「はい」
首を縦に振って、意を決して聞いてみる。
「契約条件の変更というのは、具体的に、どんなものなのでしょうか?」
「……本当に言ってもいいの?」
「はい」
もうこうなったら勢いだし、リアムは優しいから、私が悲しむようなことは、さすがに誕生日の日に口に出したりしないはず。
そう信じて、リアムの言葉に私が頷くと、彼は立ち上がり、机の引き出しから、私達の署名が入った契約書を持ち出してきた。
「契約条件の変更でしたよね。どの部分を変更されたいのでしょうか?」
「……その、……それが、ここの部分なんだけど…」
隣りに座ったリアムが契約書の該当箇所を指差したので見てみる。
するとそれは、変更なんてありえないと思っていた箇所だったので、間違えているのかしらと思って、小首を傾げる。
「リアム、あの、間違っておられませんか? リアムが変更したいのは、ここじゃなくて、その下? その上ですか?」
「いや、ここで合ってるよ」
「え? でも、これを変更って……」
どういう意味なのかわからない。
ううん。
そのままの意味なのだろうけど、リアムがどんな気持ちで、それを変更したいのかわからなくて、無言で、耳を赤くしている彼を見つめた。
リアムが変更したいといった箇所は。
”寝室は別にする”
だった。
それを変更するという事は――。
申し訳無さげに聞いてくるリアムに、首を横に振って答える。
「怖かったのは確かですが、だからといって、それはリアムのせいでも、警備をしてくれていた人のせいでもありません。広いお屋敷なんですから、どこにでも隠れるところはあるでしょうし」
「それはそれでどうかと思うけど……」
「でも、相手が他の人なら、リアムも警備の人ももっと警戒していたと思うんです」
「まあ、それはそうだけど」
リアムは苦笑したあと、私の方に身体を向けて聞いてくる。
「許してもらえたということでいいかな?」
「もちろんです。といいますか、私の家族が申し訳ございません」
「それに関しては明日に連絡を取るよ。アイリスはもう、家族のことは忘れていいから」
「ありがとうございます」
微笑んで頭を下げると、リアムは咳払いをしてから聞いてくる。
「前にした話を覚えてるかな?」
「……何でしたっけ?」
「いや、その、契約条件の変更の件で話をしたいって言っていただろ?」
「……」
そう言えば忘れてた。
リアムから言われてたんだった。
聞きたくなったから聞くって言ってたのに……!
「もしかして、アイリス、忘れてたとか言わないよね?」
「……」
「アイリス!?」
「家族への仕返しで頭がいっぱいで、すっかり忘れておりました。申し訳ございません!」
「え、本当に忘れてたの?」
「私、どんなお話かわからなかったから怖くて、あまり考えないようにもしていたんです。それに、家族のこともありましたし……。あとは、寝たら忘れる性格でもありますので……」
約18年間、あの家で暮らしていたんだから、しょうがないと思ってほしい。
いちいち気になることを気にし続けていたら、私の心が壊れてしまう気がした。
だから、すぐにしなければいけない謝罪などは別として、自分に関することだけなら、嫌なことは寝て忘れるという性格になってきていた。
「そうか。気にしてなかったんならいいよ」
「何がです?」
「いや、あの日、僕が言った直後は不安そうな顔をしていたのに、次の日に顔を合わせたら、なんにもなかった様な顔をしてたから無理をさせてるんじゃないかって思ってたんだ」
「……申し訳ございませんでした」
「謝ることじゃないよ。君が聞いても良いと思ってくれるまで待つことにしてたし」
「……でも、すっかり忘れてしまいそうでしたよ?」
「じゃあ、忘れたアイリスもそうだし、僕も悪かったということでお互い様でいいかな?」
「はい」
首を縦に振って、意を決して聞いてみる。
「契約条件の変更というのは、具体的に、どんなものなのでしょうか?」
「……本当に言ってもいいの?」
「はい」
もうこうなったら勢いだし、リアムは優しいから、私が悲しむようなことは、さすがに誕生日の日に口に出したりしないはず。
そう信じて、リアムの言葉に私が頷くと、彼は立ち上がり、机の引き出しから、私達の署名が入った契約書を持ち出してきた。
「契約条件の変更でしたよね。どの部分を変更されたいのでしょうか?」
「……その、……それが、ここの部分なんだけど…」
隣りに座ったリアムが契約書の該当箇所を指差したので見てみる。
するとそれは、変更なんてありえないと思っていた箇所だったので、間違えているのかしらと思って、小首を傾げる。
「リアム、あの、間違っておられませんか? リアムが変更したいのは、ここじゃなくて、その下? その上ですか?」
「いや、ここで合ってるよ」
「え? でも、これを変更って……」
どういう意味なのかわからない。
ううん。
そのままの意味なのだろうけど、リアムがどんな気持ちで、それを変更したいのかわからなくて、無言で、耳を赤くしている彼を見つめた。
リアムが変更したいといった箇所は。
”寝室は別にする”
だった。
それを変更するという事は――。
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