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19 憂鬱になる手紙

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 お父様達は、リアム様達がその日は行けないと断ったにも関わらず、案の定、指定した店にやって来ていた。
 私達が来ないと怒りながら飲食をしたあと、マオニール公爵の奢りだと言って、お金を払わずに帰ろうとしたそうだった。

 当たり前だけれど、そんなことが許されるわけもなく、そのレストランが雇っていた用心棒に無銭飲食だと捕まえられた。
 事前にリアム様がお店に連絡を入れていたので、最終的には家族は怖い思いをして、店から放り出されただけで済んだらしかった。

 家族が迷惑をかけたことに対して、リアム様に何度も謝っていたら「謝らなくてもいいから、そのかわり、リアムと呼んでくれないか?」と言われてしまった。

 リアム様にはとてもお世話になっているので、何かお返ししたい。
 だから、せめてリアム、と呼ぶ事くらいは、と思っているんだけど、中々、それが簡単なようで難しかった。

「そうだな。それが無理なら、2人で街に出かけないか」
「2人で、ですか?」

 お義母様と一緒に3人でなら何度か出かけたことはあっても、リアム様と2人というのは今までになかった。

「うん。契約違反かな」
「いいえ! それが恩返しになるのでしたら、ぜひお出かけさせてください!」
「アイリスは本当にいいの? 嫌じゃない?」

 私にとって、リアム様とのお出かけが嫌なものであるはずはないから、首を横に振る。

「嫌なわけありません。楽しみにしています」
「僕も楽しみにしてるよ。駄目な日にちはあったりするのかな?」
「いいえ。特にありませんので、リアム様の都合にあわせます」

 こうして、私はリアム様と初デートをすることになった。

 日にちはリアム様から後ほど教えてもらい、その日は、緊張と嬉しい気持ちとでいっぱいになった。

 そして、デート当日の朝、出かける準備をある程度終えて、よく日の当たる窓際に置いてある安楽椅子に座り、時間が来るまでソワソワしていた。
 すると、部屋の外からメイドのエニスの声が聞こえた。

「アイリス様宛にお手紙が届いております」
「私に……?」

 部屋に入ってもらって手紙を受け取り、差出人の名を確認すると、サマンサという私の友人の名前が書かれてあった。
 けれど、学生時代に見慣れたサマンサの文字ではなく、ココルの文字だとわかった。

「これ、ココルからだわ……」
「申し訳ございません、アイリス様! ご家族からのお手紙はアイリス様にはお見せしないようにと言われておりますので持ち帰りますね」
「何が書かれてあるか見てもいいかしら?」
「おすすめは出来ませんが……」

 エニスが心配そうに私を見つめて言った。

 エニスには部屋から出てもらい、封筒を見つめて1人で考えた後、結局、私は何が書いてあるのか確かめることに決めた。

 手紙の内容は予想していた通り、本当にくだらなかった。

 家計管理の仕方が全くわからないという事、金庫を開ける番号がわからない。
 結納金はもう少し欲しかったなど、わかってはいたけれど、読むのが無駄としか思えない事が多く書かれていた。

 今まで、父や家族からの手紙は、全部リアム様が私に渡さずに燃やしてくれていたらしい。
 父はそれに気が付いたのか、友人の名前をココルに書かせ、改めて私宛に手紙を送ってきたんだと思われる。

 リアム様達も友人の名前が書いてあるものを勝手に処理する事は出来ないだろうから。

 手紙の内容で1番かちんときたのは、使用人の給料に関してで、月給がいくらかわからなかったらしく、言い値で支払ったそう。
 そのことについて、ちゃんと管理も出来ていなかったのか、と文句が書かれていた。

 ノマド家の財政が今、どうなっているのかわからないけれど、もしかすると、大赤字かもしれない。
 
 金庫の番号やその他諸々については、簡単にだけれど、ノートにまとめて置いてきたから、それを見ればわかるはずだし、使用人への給料だって、帳簿を見ればわかるはず。

 他の人にまで迷惑をかけているのなら、返事を返した方が良いの?

 迷ったけれど、手紙の最後に書かれていた一文を見ると、返事を書く気持ちは一瞬にしてなくなった。

『近々、ロバートと一緒にお前に会いに行く』

 私が返事を返さないから、とうとう会いに来ることに決めたのね。

 しかも、ロバートを連れてくる必要はあるの?

 それならそれで、もういいわ。

 それまでに新たにノートを用意して、そこに質問の答えを書いて、それを渡したら帰ってもらうことにしましょう。

 読んだことにより、お父様達が来ることがわかっただけでも良いということにしようと思った。

 けれど、このことを、リアム様に伝えないといけないことは憂鬱だった。

「アイリス様、リアム様が早めにご準備が出来たそうで、アイリス様の準備が整ったら出かけたいと仰っています」

 部屋の外からエニスの声が聞こえた。

「わかったわ! じゃあ、申し訳ないけれど、準備をしてくれる?」

 手紙を書き物机の上に放り投げるようにして置いて、ドアの向こうのエニスに言った。

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