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第8章 暴走する者たち
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ランシード様は扉を開くと、すぐにわたしの安全の確保を近くにいた騎士に命令した。
シドナ様は、わたしとランシード様に怪我はないか尋ねてくれたけれど、ロロゾフ王国の両陛下は、わたしたちのことなど気にする様子もなく部屋の中に駆け込んでいく。
「ランシード、一体何があったの? ロイアン卿が剣を持って部屋に閉じこもったと聞いたわ。それに何やら物騒な言葉が聞こえてきていたから、本当に心配したのよ!」
「ロイアン卿がこの剣でポーラ姫を刺したと思ったんですが、血の量からして、刺したのではなく横腹を斬っただけのようですね」
ランシード様は冷静にシドナ様の問いかけに答えてから、騎士団長の腕章を付けた男性に話しかける。
「これは証拠品として押さえてくれ。剣の柄の部分に家紋が入っている。うちの家紋じゃないことは確かだよ」
「これは……、ロイアン家のものとよく似ています」
騎士団長は頷いたあと、剣を受け取って部下に家紋がどこのものか調べるように指示をした。
ポーラ様とデスタはどうなったのかしら。
そう思った瞬間、ロロゾフの王妃陛下であるファーラ様の悲鳴が聞こえた。
「きゃあああっ! ポーラ! あなた! 血が出ているじゃないの! 医者は! 医者はどこなの!」
ファーラ様は顔を真っ青にして部屋から飛び出してくると、取り乱した様子で医者を探す。
「ここにいます!」
若くてスタイルも良く、顔の整った白衣の男性が手を挙げると、ファーラ様はこんな時だというのに目を輝かせた。
「あら、見ない顔ね。新しいお医者様なの?」
「おい、ファーラ! 早く医者をここに連れてくるんだ!」
「そうだわ! 早く来てちょうだい!」
国王陛下の焦った声が聞こえてきたおかげで、ファーラ様は我に返ったのか、先生の腕を掴んで部屋の中に入っていく。
「とにかく、一安心といったところでしょうか」
「そうだね。怖い思いをさせてごめんね」
「怖かったのはランシード様も同じでしょう?」
「うーん、そうだな。僕はいつも命を狙われる立場だから、今回はそこまで怖くなかったかな。だって、ロイアン卿はめちゃくちゃ弱かったし」
「相手にならなかったですね」
護ってくれていた騎士たちから離れて、ランシード様の隣に立つ。
怖かったけど、冷静でいられたのはランシード様のおかげだわ。
「ありがとうございました、ランシード様」
「僕は何もしてない。ロイアン卿が暴走して、怒ったポーラ姫が暴走しただけだよ」
ランシード様が優しくわたしの手を握ると、すぐに驚いた顔になった。
「セフィリア、体が震えてる」
「あ、その、今は怖くないですから」
「そうか。本当にごめん」
ランシード様はわたしの手を引いて自分のほうに引き寄せると、ぎゅうっと抱きしめてくれた。
人前でだなんて恥ずかしい。
でも、少しずつ体の震えが収まっていく。
「まあ、ランシードったら! あなたのお父様とやることがそっくりね。セフィリアも怖かったのに、取り乱さずによく頑張ったわね」
シドナ様が優しく頭をなでてくれるから、お母様のことを思い出して涙が出そうになってしまった。
「ロイアン卿は意識を失っていますが生きてはいるようです。ポーラ姫も傷は深くないとのことです」
ディエル様が報告しにきてくれたと同時に、ロロゾフ王国の国王陛下がシドナ様のところにやって来た。
「この度は申し訳ない。ですが、一貴族の暴走だ。あの男は処刑するので、今回は水に流してもらえないか」
「ポーラ姫は私のことも殺しても良いという発言をしていましたよ」
「わたしも聞きました」
わたしがランシード様の言葉を肯定すると、国王陛下は表情を歪める。
「聞き間違いだろう! それに、そんなことを言うということは、娘を処刑しろと言うのか!?」
「娘が可愛いくて庇いたいのか? それなら、あんたが代わりに罰を受けてもいいんだぞ」
ランシード様はシード様の口調で尋ね、国王陛下を睨み付けた。
「代わりにだなんて、そんなことになったら、この国はどうなるんだ!?」
「新しい国王をたてれば良いだけの話だ」
「嫌だ!」
国王陛下は首を横に振って叫ぶ。
「私には何の責任もない!」
「陛下はポーラ様が可愛くないのですか? それに陛下に娘の暴走を止められなかった責任が一切ないとでもおっしゃるのですか?」
「責任などない! ポーラはもう、子供じゃないんだからな!」
国王陛下がわたしの言葉を否定した時だった。
「ポーラの罰は国王である夫が受けます」
ファーラ様が両手を真っ赤に染めた状態で部屋から出てくると、シドナ様とランシード様に向かって言った。
シドナ様は、わたしとランシード様に怪我はないか尋ねてくれたけれど、ロロゾフ王国の両陛下は、わたしたちのことなど気にする様子もなく部屋の中に駆け込んでいく。
「ランシード、一体何があったの? ロイアン卿が剣を持って部屋に閉じこもったと聞いたわ。それに何やら物騒な言葉が聞こえてきていたから、本当に心配したのよ!」
「ロイアン卿がこの剣でポーラ姫を刺したと思ったんですが、血の量からして、刺したのではなく横腹を斬っただけのようですね」
ランシード様は冷静にシドナ様の問いかけに答えてから、騎士団長の腕章を付けた男性に話しかける。
「これは証拠品として押さえてくれ。剣の柄の部分に家紋が入っている。うちの家紋じゃないことは確かだよ」
「これは……、ロイアン家のものとよく似ています」
騎士団長は頷いたあと、剣を受け取って部下に家紋がどこのものか調べるように指示をした。
ポーラ様とデスタはどうなったのかしら。
そう思った瞬間、ロロゾフの王妃陛下であるファーラ様の悲鳴が聞こえた。
「きゃあああっ! ポーラ! あなた! 血が出ているじゃないの! 医者は! 医者はどこなの!」
ファーラ様は顔を真っ青にして部屋から飛び出してくると、取り乱した様子で医者を探す。
「ここにいます!」
若くてスタイルも良く、顔の整った白衣の男性が手を挙げると、ファーラ様はこんな時だというのに目を輝かせた。
「あら、見ない顔ね。新しいお医者様なの?」
「おい、ファーラ! 早く医者をここに連れてくるんだ!」
「そうだわ! 早く来てちょうだい!」
国王陛下の焦った声が聞こえてきたおかげで、ファーラ様は我に返ったのか、先生の腕を掴んで部屋の中に入っていく。
「とにかく、一安心といったところでしょうか」
「そうだね。怖い思いをさせてごめんね」
「怖かったのはランシード様も同じでしょう?」
「うーん、そうだな。僕はいつも命を狙われる立場だから、今回はそこまで怖くなかったかな。だって、ロイアン卿はめちゃくちゃ弱かったし」
「相手にならなかったですね」
護ってくれていた騎士たちから離れて、ランシード様の隣に立つ。
怖かったけど、冷静でいられたのはランシード様のおかげだわ。
「ありがとうございました、ランシード様」
「僕は何もしてない。ロイアン卿が暴走して、怒ったポーラ姫が暴走しただけだよ」
ランシード様が優しくわたしの手を握ると、すぐに驚いた顔になった。
「セフィリア、体が震えてる」
「あ、その、今は怖くないですから」
「そうか。本当にごめん」
ランシード様はわたしの手を引いて自分のほうに引き寄せると、ぎゅうっと抱きしめてくれた。
人前でだなんて恥ずかしい。
でも、少しずつ体の震えが収まっていく。
「まあ、ランシードったら! あなたのお父様とやることがそっくりね。セフィリアも怖かったのに、取り乱さずによく頑張ったわね」
シドナ様が優しく頭をなでてくれるから、お母様のことを思い出して涙が出そうになってしまった。
「ロイアン卿は意識を失っていますが生きてはいるようです。ポーラ姫も傷は深くないとのことです」
ディエル様が報告しにきてくれたと同時に、ロロゾフ王国の国王陛下がシドナ様のところにやって来た。
「この度は申し訳ない。ですが、一貴族の暴走だ。あの男は処刑するので、今回は水に流してもらえないか」
「ポーラ姫は私のことも殺しても良いという発言をしていましたよ」
「わたしも聞きました」
わたしがランシード様の言葉を肯定すると、国王陛下は表情を歪める。
「聞き間違いだろう! それに、そんなことを言うということは、娘を処刑しろと言うのか!?」
「娘が可愛いくて庇いたいのか? それなら、あんたが代わりに罰を受けてもいいんだぞ」
ランシード様はシード様の口調で尋ね、国王陛下を睨み付けた。
「代わりにだなんて、そんなことになったら、この国はどうなるんだ!?」
「新しい国王をたてれば良いだけの話だ」
「嫌だ!」
国王陛下は首を横に振って叫ぶ。
「私には何の責任もない!」
「陛下はポーラ様が可愛くないのですか? それに陛下に娘の暴走を止められなかった責任が一切ないとでもおっしゃるのですか?」
「責任などない! ポーラはもう、子供じゃないんだからな!」
国王陛下がわたしの言葉を否定した時だった。
「ポーラの罰は国王である夫が受けます」
ファーラ様が両手を真っ赤に染めた状態で部屋から出てくると、シドナ様とランシード様に向かって言った。
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