13 / 52
第2章 新たな婚約者
6
しおりを挟む
ラソウエ公爵家には幼馴染の二人が付いてきてくれることになった。
侍女が一人と騎士が一人だなんて、公爵家の人間がお世話になるには、連れて行く人数が少なすぎる。
でも、お姉様がたくさん侍女を連れて行くので、何かあった時はエルファのほうから、お姉様の侍女に話をしてくれることになった。
「私はセフィリア様の嫁ぎ先が、たとえ他国であったとしても、セフィリア様が望んでくださるのなら付いていく覚悟をしております!」
「僕もセフィリア様専属の騎士ですから、望んでくださるのなら付いていくつもりです」
「ありがとう二人共」
お姉様と一緒に行くとはいえ、お姉様は味方ではないから不安なことは確かだった。
二人がいてくれるなら頑張れるわ。
思いを伝えあったわけではなさそうだけれど、二人は両思いだから、離れ離れにさせるだなんて嫌だと思っていた。
だけど、こんな風に言ってくれるのなら、私も頼みやすい。
他国に嫁に行く予定なんてない。
でも、今の状況を考えると、良いお相手がいるのであれば他国に嫁ぎたい気分だった。
そして、ラソウエ公爵家に来てから、もっとその気持ちは強くなった。
*****
「違います! それはこっちです! さっきも言ったでしょう! どうして、そんなことも覚えられないのですか!」
ラソウエ公爵家に着いた次の日から、わたしとお姉様は、ロビースト様の側近のような役割をさせられることになった。
やっていることは同じだけど、経験の差が出てしまうのか、お姉様は仕事が遅かった。
わたしの場合は、お父様の時にやっていた仕事と似たようなものなので、ある程度は対処できる。
でも、花嫁修業に専念していたお姉様は、書類仕事は慣れていない。
今も、書類の置き場所を間違えて怒られている。
ロビースト様は神経質だった。
書類が少しでも乱れていれば怒りだして、机の上に置いてあるものを手で下に落としていく。
初めて見た時は、癇癪を起こしている大きな子供だと思った。
子供ならまだ可愛いものだ。
でも、相手の体は子供ではないし、性別も違う。
止めようとしても、力ではかなわなかった。
頼みの綱になりそうなシード様は長期で出かけていて不在だった。
いつ、帰って来るかはわからない。
「ああ、もう、本当にイライラします! 部屋から出て行ってください!」
ロビースト様は持っていたペンをお姉様に投げつけて叫んだ。
「ロビースト様、申し訳ございません! 頑張りますから、お許しください!」
「その言葉を何回聞いたと思っているんですか! もう信じられません」
「お願いです、ロビースト様! 頑張りますから!」
お姉様が大声で泣き始めた。
「ロビースト様、明日、お休みをいただけないでしょうか。そして、その間、お姉様に仕事をお願いしたいのです」
わたしが手を挙げて言うと、ロビースト様だけでなく、お姉様までもが睨んできた。
もう耐えられないわ。
エルファたちには申し訳ないけど、こんなところ、逃げ出してやる。
今まではお姉様の好きな人がロビースト様だから、婚約することが嫌だった。
だけど、今は違う。
お姉様の好きな人であろうがなかろうが、この人の妻にはなりたくなかった。
わたしがいなくなれば、自動的にお姉様は彼の妻になれるはずだ。
どこかへ出かけるふりをして、そのまま戻らないようにしよう。
そう考えた。
「無理です」
ロビースト様は冷たく言い放った。
「……無理とはどういうことでしょうか?」
「こんなに使えない人間に、わたくしの妻になる資格などありません! セフィリア、あなたがわたくしの婚約者になることを、今、決定しました」
「そんな! ここに来て10日程です。見極めるには早すぎるでしょう! それに、わたしは今までにやって来た経験値があります! お姉様にはそれがありません!」
「だとしても、です。一向に痩せもしないではないですか! 仕事が出来ないストレスで、たくさん食べているようですしね!」
ロビースト様は鼻で笑いながら、お姉様を見つめた。
「お姉様」
「うるさいわね! 何よ! セフィリアは、どうして、そんなに真面目に仕事をしてるのよ!」
「ミスをしないようにしていただけです!」
これでも、お姉様に合わせてかなり遅く仕事をしていた。
ロビースト様はネチネチ怒ってくるから、怒られないようにミスをしないように気をつけた。
それが悪手だったのだ。
「決めました。フィーナ嬢はどうしてもわたくしの側にいたいようですから、メイドとして置いてあげましょう」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございますじゃないわよ!」
わたしは相手がお姉様であることを忘れて叫んだ。
「そういえば、セフィリア嬢に伝えておきたいことがあります」
「……なんでしょうか」
「あなたの元婚約者ですが、我が国の王女と婚約なさいましたよ。もし、あなたがここを逃げれば、わたくしと、あなたの実家、それから王家から探されることになるでしょう。王女殿下はあなたにご立腹のようですから、王家からの追手に捕まれば、どうなるかわかりませんねえ」
ロビースト様は「あはははは」と大きな声で笑った。
侍女が一人と騎士が一人だなんて、公爵家の人間がお世話になるには、連れて行く人数が少なすぎる。
でも、お姉様がたくさん侍女を連れて行くので、何かあった時はエルファのほうから、お姉様の侍女に話をしてくれることになった。
「私はセフィリア様の嫁ぎ先が、たとえ他国であったとしても、セフィリア様が望んでくださるのなら付いていく覚悟をしております!」
「僕もセフィリア様専属の騎士ですから、望んでくださるのなら付いていくつもりです」
「ありがとう二人共」
お姉様と一緒に行くとはいえ、お姉様は味方ではないから不安なことは確かだった。
二人がいてくれるなら頑張れるわ。
思いを伝えあったわけではなさそうだけれど、二人は両思いだから、離れ離れにさせるだなんて嫌だと思っていた。
だけど、こんな風に言ってくれるのなら、私も頼みやすい。
他国に嫁に行く予定なんてない。
でも、今の状況を考えると、良いお相手がいるのであれば他国に嫁ぎたい気分だった。
そして、ラソウエ公爵家に来てから、もっとその気持ちは強くなった。
*****
「違います! それはこっちです! さっきも言ったでしょう! どうして、そんなことも覚えられないのですか!」
ラソウエ公爵家に着いた次の日から、わたしとお姉様は、ロビースト様の側近のような役割をさせられることになった。
やっていることは同じだけど、経験の差が出てしまうのか、お姉様は仕事が遅かった。
わたしの場合は、お父様の時にやっていた仕事と似たようなものなので、ある程度は対処できる。
でも、花嫁修業に専念していたお姉様は、書類仕事は慣れていない。
今も、書類の置き場所を間違えて怒られている。
ロビースト様は神経質だった。
書類が少しでも乱れていれば怒りだして、机の上に置いてあるものを手で下に落としていく。
初めて見た時は、癇癪を起こしている大きな子供だと思った。
子供ならまだ可愛いものだ。
でも、相手の体は子供ではないし、性別も違う。
止めようとしても、力ではかなわなかった。
頼みの綱になりそうなシード様は長期で出かけていて不在だった。
いつ、帰って来るかはわからない。
「ああ、もう、本当にイライラします! 部屋から出て行ってください!」
ロビースト様は持っていたペンをお姉様に投げつけて叫んだ。
「ロビースト様、申し訳ございません! 頑張りますから、お許しください!」
「その言葉を何回聞いたと思っているんですか! もう信じられません」
「お願いです、ロビースト様! 頑張りますから!」
お姉様が大声で泣き始めた。
「ロビースト様、明日、お休みをいただけないでしょうか。そして、その間、お姉様に仕事をお願いしたいのです」
わたしが手を挙げて言うと、ロビースト様だけでなく、お姉様までもが睨んできた。
もう耐えられないわ。
エルファたちには申し訳ないけど、こんなところ、逃げ出してやる。
今まではお姉様の好きな人がロビースト様だから、婚約することが嫌だった。
だけど、今は違う。
お姉様の好きな人であろうがなかろうが、この人の妻にはなりたくなかった。
わたしがいなくなれば、自動的にお姉様は彼の妻になれるはずだ。
どこかへ出かけるふりをして、そのまま戻らないようにしよう。
そう考えた。
「無理です」
ロビースト様は冷たく言い放った。
「……無理とはどういうことでしょうか?」
「こんなに使えない人間に、わたくしの妻になる資格などありません! セフィリア、あなたがわたくしの婚約者になることを、今、決定しました」
「そんな! ここに来て10日程です。見極めるには早すぎるでしょう! それに、わたしは今までにやって来た経験値があります! お姉様にはそれがありません!」
「だとしても、です。一向に痩せもしないではないですか! 仕事が出来ないストレスで、たくさん食べているようですしね!」
ロビースト様は鼻で笑いながら、お姉様を見つめた。
「お姉様」
「うるさいわね! 何よ! セフィリアは、どうして、そんなに真面目に仕事をしてるのよ!」
「ミスをしないようにしていただけです!」
これでも、お姉様に合わせてかなり遅く仕事をしていた。
ロビースト様はネチネチ怒ってくるから、怒られないようにミスをしないように気をつけた。
それが悪手だったのだ。
「決めました。フィーナ嬢はどうしてもわたくしの側にいたいようですから、メイドとして置いてあげましょう」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございますじゃないわよ!」
わたしは相手がお姉様であることを忘れて叫んだ。
「そういえば、セフィリア嬢に伝えておきたいことがあります」
「……なんでしょうか」
「あなたの元婚約者ですが、我が国の王女と婚約なさいましたよ。もし、あなたがここを逃げれば、わたくしと、あなたの実家、それから王家から探されることになるでしょう。王女殿下はあなたにご立腹のようですから、王家からの追手に捕まれば、どうなるかわかりませんねえ」
ロビースト様は「あはははは」と大きな声で笑った。
74
お気に入りに追加
3,479
あなたにおすすめの小説
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。
姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。
しげむろ ゆうき
恋愛
姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。
全12話
大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです
古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。
皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。
他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。
救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。
セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。
だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。
「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」
今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】新婚生活初日から、旦那の幼馴染も同居するってどういうことですか?
よどら文鳥
恋愛
デザイナーのシェリル=アルブライデと、婚約相手のガルカ=デーギスの結婚式が無事に終わった。
予め購入していた新居に向かうと、そこにはガルカの幼馴染レムが待っていた。
「シェリル、レムと仲良くしてやってくれ。今日からこの家に一緒に住むんだから」
「え!? どういうことです!? 使用人としてレムさんを雇うということですか?」
シェリルは何も事情を聞かされていなかった。
「いや、特にそう堅苦しく縛らなくても良いだろう。自主的な行動ができるし俺の幼馴染だし」
どちらにしても、新居に使用人を雇う予定でいた。シェリルは旦那の知り合いなら仕方ないかと諦めるしかなかった。
「……わかりました。よろしくお願いしますね、レムさん」
「はーい」
同居生活が始まって割とすぐに、ガルカとレムの関係はただの幼馴染というわけではないことに気がつく。
シェリルは離婚も視野に入れたいが、できない理由があった。
だが、周りの協力があって状況が大きく変わっていくのだった。
王女殿下を優先する婚約者に愛想が尽きました もう貴方に未練はありません!
灰銀猫
恋愛
6歳で幼馴染の侯爵家の次男と婚約したヴィオラ。
互いにいい関係を築いていると思っていたが、1年前に婚約者が王女の護衛に抜擢されてから雲行きが怪しくなった。儚げで可憐な王女殿下と、穏やかで見目麗しい近衛騎士が恋仲で、婚約者のヴィオラは二人の仲を邪魔するとの噂が流れていたのだ。
その噂を肯定するように、この一年、婚約者からの手紙は途絶え、この半年ほどは完全に絶縁状態だった。
それでも婚約者の両親とその兄はヴィオラの味方をしてくれ、いい関係を続けていた。
しかし17歳の誕生パーティーの日、婚約者は必ず出席するようにと言われていたパーティーを欠席し、王女の隣国訪問に護衛としてついて行ってしまった。
さすがに両親も婚約者の両親も激怒し、ヴィオラももう無理だと婚約解消を望み、程なくして婚約者有責での破棄となった。
そんな彼女に親友が、紹介したい男性がいると持ち掛けてきて…
3/23 HOTランキング女性向けで1位になれました。皆様のお陰です。ありがとうございます。
24.3.28 書籍化に伴い番外編をアップしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる