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15 私と騎士と性悪令嬢
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トレイを返しに行った時に、ホークがいたので、はっきりとお断りさせてもらったところ、さすがの彼も殿下が気付いている事がわかったようで、青ざめた顔をして大きく首を縦に振って、私に土下座する勢いで謝ってきた。
中途半端な気持ちで、よく殿下を相手にしようと思ったものだな、と思いながら彼を許し、食器類を返したあと、殿下が部屋まで送ってくれるというので、送ってもらい、私の部屋の前に来たところで殿下が私の名を呼んだ。
「ルア」
「…はい」
「お前が覚悟を決めてくれたら、何があっても俺がお前のすべてを守るから」
「すべてって」
「身体だけじゃない。心もだ」
真剣な表情で殿下は言うと、私の左頬に優しく手を触れて続ける。
「お前に考えてほしいのは、俺を好きかどうかだ。俺の事を好きになってくれたというなら、俺はそれ以上に幸せな事なんてない。もちろん、国民を守る事が俺の役目でもある。だけど、お前が近くにいてくれるから集中できるんだ」
「殿下…」
「おやすみ、ルア」
殿下は私の右頬に口付けると、手をはなして去っていく。
どうしたら良いの。
私だって、こんなに私を思ってくれる人が他にいない事くらいわかってる。
だけど、相手は王太子なのよ。
身分なんて関係ないが許される年齢でもない。
私が公爵令嬢で、父に愛されていたなら、殿下を苦しめずに済んだの?
それなら、私は素直に彼の胸に飛び込んでいけたのかしら?
いや、それはないわね。
胸には飛び込みたくない。
そんな事をしたら、はなしてくれないだろうし、やれ風呂に一緒に入ろうだとか、一緒に寝ようだとか言われて、既成事実を作られ、そのまま否応なしに結婚になるだろうから、もし、胸に飛び込むなら、相当の覚悟を持ってからでないと駄目だわ。
次の日、夜勤してくれていたメイドと交代するために、ヴァージニア様の部屋に向かった時だった。
彼女の部屋の前の廊下にアーク殿下の騎士が二人、正座をさせられていた。
「どうかしたの!?」
慌てて近寄って事情を聞いてみると、ヴァージニア様の希望で騎士を部屋の前に常駐させる事になったらしく、この二人は朝までの当番だったらしい。
夜中に部屋の中が騒がしいので、賊が入ったのかも知れないと、慌てて部屋の中に入ったところ、メイドがヴァージニア様に本で殴られている所だったらしい。
ヴァージニア様は鬼のような形相で、騎士達を叱り、持っていた剣を取り上げ、ヴァージニア様の気が済むまで廊下で正座をしていろと命令したらしい。
数分後に、メイドが部屋から出てきたらしいけど、散々殴られたのか、身をかがめた状態で、騎士達に軽く頭を下げて、自分の部屋に戻っていったんだそうだ。
今は、別のメイドが中にいるようで、今のところ大きな音は聞こえていないという。
「騎士から剣を奪うなんて信じられない」
頭を下げてくる彼らを立たせようか迷ったけれど、私はメイドでありその権限がない。
だから、許可をもらうために、ヴァージニア様の部屋の扉を叩く。
すると、顔を出したのはメイドではなく、ヴァージニア様だった。
「あら、ルルア。どうしたの怖い顔をして? あ、そこの騎士さん達、今度、勝手な真似をしたり、昨日あった事を話したりしたら、首をはねちゃうからね? もしかして、ルルアに喋っちゃった? 残念ね。それをお父様に伝えたら、この世にはいられなくなっちゃう」
きゃっきゃっと笑うヴァージニア様を軽く睨んで言う。
「ヴァージニア様、いいかげんになさったらどうです?」
「ルルア。そんなに怖い顔しないでよ。あなたも死にたいの? 殿下のお気に入りだから、見たくもないようなブスでも近くに置いてあげてるのに、このままじゃ、あなたの周りで事故が起きちゃいそう」
「好きなようになさって下さい。殿下に伝えておきますので」
「言うなって言ってるでしょう!」
ヴァージニア様は私の腕をつかんで部屋に引き入れると続ける。
「どれだけ殿下があなたを好きなのか知らないけど、彼一人の権力であなたを守れるわけがない。どこぞの子爵令嬢と、由緒ある公爵令嬢の話、普通の貴族は私の話を真実だと思うに決まっているわよね!?」
「さあ、それはどうかわかりませんけどね」
「あなたが本当に馬鹿で助かったわ。あ、ねぇ、これ邪魔だから、外へ出して」
そう言って、騎士達から奪い取った剣を、ヴァージニア様が蹴り飛ばした。
「…信じられない」
「信じられないのは殿下の好みよ! あなたのどこがいいの!? 可愛くもない、性格も態度も悪い。良いところなんて何一つないのに!」
ヴァージニア様に自分の悪口を言われても、今更傷つきもしない。
だって、自分で思っていたし、知っている事だから。
そんな人間だったから、お姉様に婚約者を奪われ続けたのよ。
私の事を悪く言うのは勝手だ。
でも、私の事じゃない、この出来事は許せない。
「騎士にとって剣がどれだけ大事なのものなのかわかってるんですか…」
国によって違うのかも知れないけれど、この国の騎士は主君から剣を授けてもらう。
だから、彼らにとって足蹴にされて良いものなんかじゃない。
「そんなのどうだっていいわ! 早く持って出なさいよ。今日は仕事をしなくていいわ!」
私は両手で何とか鞘に収まった長剣を胸に抱きかかえて、部屋から出て、騎士達に返した。
このままじゃ、こんな人が王妃になってしまう。
私は黙って見ているだけでいいの?
中途半端な気持ちで、よく殿下を相手にしようと思ったものだな、と思いながら彼を許し、食器類を返したあと、殿下が部屋まで送ってくれるというので、送ってもらい、私の部屋の前に来たところで殿下が私の名を呼んだ。
「ルア」
「…はい」
「お前が覚悟を決めてくれたら、何があっても俺がお前のすべてを守るから」
「すべてって」
「身体だけじゃない。心もだ」
真剣な表情で殿下は言うと、私の左頬に優しく手を触れて続ける。
「お前に考えてほしいのは、俺を好きかどうかだ。俺の事を好きになってくれたというなら、俺はそれ以上に幸せな事なんてない。もちろん、国民を守る事が俺の役目でもある。だけど、お前が近くにいてくれるから集中できるんだ」
「殿下…」
「おやすみ、ルア」
殿下は私の右頬に口付けると、手をはなして去っていく。
どうしたら良いの。
私だって、こんなに私を思ってくれる人が他にいない事くらいわかってる。
だけど、相手は王太子なのよ。
身分なんて関係ないが許される年齢でもない。
私が公爵令嬢で、父に愛されていたなら、殿下を苦しめずに済んだの?
それなら、私は素直に彼の胸に飛び込んでいけたのかしら?
いや、それはないわね。
胸には飛び込みたくない。
そんな事をしたら、はなしてくれないだろうし、やれ風呂に一緒に入ろうだとか、一緒に寝ようだとか言われて、既成事実を作られ、そのまま否応なしに結婚になるだろうから、もし、胸に飛び込むなら、相当の覚悟を持ってからでないと駄目だわ。
次の日、夜勤してくれていたメイドと交代するために、ヴァージニア様の部屋に向かった時だった。
彼女の部屋の前の廊下にアーク殿下の騎士が二人、正座をさせられていた。
「どうかしたの!?」
慌てて近寄って事情を聞いてみると、ヴァージニア様の希望で騎士を部屋の前に常駐させる事になったらしく、この二人は朝までの当番だったらしい。
夜中に部屋の中が騒がしいので、賊が入ったのかも知れないと、慌てて部屋の中に入ったところ、メイドがヴァージニア様に本で殴られている所だったらしい。
ヴァージニア様は鬼のような形相で、騎士達を叱り、持っていた剣を取り上げ、ヴァージニア様の気が済むまで廊下で正座をしていろと命令したらしい。
数分後に、メイドが部屋から出てきたらしいけど、散々殴られたのか、身をかがめた状態で、騎士達に軽く頭を下げて、自分の部屋に戻っていったんだそうだ。
今は、別のメイドが中にいるようで、今のところ大きな音は聞こえていないという。
「騎士から剣を奪うなんて信じられない」
頭を下げてくる彼らを立たせようか迷ったけれど、私はメイドでありその権限がない。
だから、許可をもらうために、ヴァージニア様の部屋の扉を叩く。
すると、顔を出したのはメイドではなく、ヴァージニア様だった。
「あら、ルルア。どうしたの怖い顔をして? あ、そこの騎士さん達、今度、勝手な真似をしたり、昨日あった事を話したりしたら、首をはねちゃうからね? もしかして、ルルアに喋っちゃった? 残念ね。それをお父様に伝えたら、この世にはいられなくなっちゃう」
きゃっきゃっと笑うヴァージニア様を軽く睨んで言う。
「ヴァージニア様、いいかげんになさったらどうです?」
「ルルア。そんなに怖い顔しないでよ。あなたも死にたいの? 殿下のお気に入りだから、見たくもないようなブスでも近くに置いてあげてるのに、このままじゃ、あなたの周りで事故が起きちゃいそう」
「好きなようになさって下さい。殿下に伝えておきますので」
「言うなって言ってるでしょう!」
ヴァージニア様は私の腕をつかんで部屋に引き入れると続ける。
「どれだけ殿下があなたを好きなのか知らないけど、彼一人の権力であなたを守れるわけがない。どこぞの子爵令嬢と、由緒ある公爵令嬢の話、普通の貴族は私の話を真実だと思うに決まっているわよね!?」
「さあ、それはどうかわかりませんけどね」
「あなたが本当に馬鹿で助かったわ。あ、ねぇ、これ邪魔だから、外へ出して」
そう言って、騎士達から奪い取った剣を、ヴァージニア様が蹴り飛ばした。
「…信じられない」
「信じられないのは殿下の好みよ! あなたのどこがいいの!? 可愛くもない、性格も態度も悪い。良いところなんて何一つないのに!」
ヴァージニア様に自分の悪口を言われても、今更傷つきもしない。
だって、自分で思っていたし、知っている事だから。
そんな人間だったから、お姉様に婚約者を奪われ続けたのよ。
私の事を悪く言うのは勝手だ。
でも、私の事じゃない、この出来事は許せない。
「騎士にとって剣がどれだけ大事なのものなのかわかってるんですか…」
国によって違うのかも知れないけれど、この国の騎士は主君から剣を授けてもらう。
だから、彼らにとって足蹴にされて良いものなんかじゃない。
「そんなのどうだっていいわ! 早く持って出なさいよ。今日は仕事をしなくていいわ!」
私は両手で何とか鞘に収まった長剣を胸に抱きかかえて、部屋から出て、騎士達に返した。
このままじゃ、こんな人が王妃になってしまう。
私は黙って見ているだけでいいの?
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