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12 この家では一番偉いんだ? あなたなわけないでしょう

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「君はまだ結婚しているし、僕とあまり一緒にいすぎても良くない。まず、僕と君の関係性を周りに知らしめる。真実と嘘を混ぜて話をする。レイング伯爵から、君が夫から受ける扱いが酷すぎて、僕に相談があった。そして、話を聞いた僕が勝手に首を突っ込んだという事にする」
「勝手に首を突っ込んだというのが嘘なのですね? お父様が頭を下げてお願いしてくれたんですから」
「あまりに正直に言い過ぎると、今度はレイング伯爵の評判が下がる。彼は現在の伯爵家の当主だ。あまり悪い印象を受けさせたくない。君が爵位を継ぐ時にも良い方向には働かないだろうから」

 ザック様は、私のお父様や伯爵家の事を気にしている様だけど、それだと、ザック様の評判が良くないんじゃ…?

「ザック様は、その事で何か言われたりしませんか?」
「そうだな。僕は公爵家の次男だから、人は表立って悪口は言わない。誰だって自分の身が可愛いからな。僕は父とも兄とも上手くやれている。何かあった時に、よっぽどじゃない限り、2人は僕の味方になってくれるだろう」

 実際にどう思われるかはわからないけれど、ザック様は大して面識のない、私の父である伯爵の悩みに対し、協力する心優しい公爵令息、そして、私は初夜に夫に浮気された可哀想な妻のポジションにならなければいけない感じかな。

「男性よりも女性の方が、私の気持ちを理解してくれると思うので、私は社交場で女性の友達を作るように努力します」
「そうだな。夫の浮気に悩んでいる女性は君だけじゃないだろうから、気持ちを理解してくれる人が多いはずだ。あと、その前に、ミゲルが君に付きまとうのをやめさせないといけないな」
「一緒の家に住んでいる以上、無理かなと思っていたんですけど、可能でしょうか?」
「そうだな。今の状況では使用人や騎士達は、ミゲルの言う事には逆らえないみたいだし、伯爵の方から命令してもらった方がいい」
「でも、ミゲルに買収される可能性があるんです」
「まあ、金に目が眩む奴が1人や2人いてもおかしくないよな。警察だって貴族に買収されるくらだいから。でも、彼の金の出処は? この家の資金はまだ扱えないだろ?」
「彼の実家じゃないでしょうか。実家は彼のやる事に目を瞑れといった感じですから」
「なら、僕が雇った騎士をこちらで働かせよう。買収されそうになっても、僕ならその上の値段を払うという条件付きで雇うよ」
「そこまでしていただくわけには!」
「君は自殺を考えたんだろう?」

 お父様は、ルキアの中身が違う事を話していないのか…。
 まあ、それもそうか。
 こんな話、普通の人なら信じられないもんね。

 だから、その事については何も言わない事にして、ルキアが死を選んだ事は確かなので頷く。

「はい。自分は生きていても意味がないと。自分が全て悪いのだと、その時は思っていました」
「僕は学園時代、君が傷付いているのを知っていながら、君に変わる勇気がないと思いこんで、自分から差し伸べた手を引っ込めた。見てみぬふりよりも悪い事をしたと思っている」

 ルキアの記憶の中では、彼に対して、そんな事を思っている記憶はない。

 ただ、自分がひたすら嫌いだっただけだ。

「そんな事ないです。差し出してくれた手をとらなかったのは私です。ですから、ザック様が悪いわけではありません。結局は、自分が覚悟しないと駄目な事なんです。自分は何もせずに、誰かにどうこうしてもらうのでは解決になりません。もちろん、誰かに助けてもらう事も必要だという事もわかっています。ですから、今回は、ザック様が差し出してくれた手を取らせていただきますので、よろしくお願い致します」
「こちらこそ、よろしく」
「ただ、ザック様には、何もメリットがないのでは?」
「こんな事を言うと申し訳ないんだが、毎日、釣書が送られてきていて、有り難いことではあるがうんざりしていた。だから、この件が片付かない限り、見合いどころではないという話を公にしようと思う」
「上手くいえば、早く私の問題を片付けてほしいと思うご令嬢も現れて、私に手を貸してくれるかもしれませんね」
「それもあるが、君に対して、嫉妬をぶつけてくる可能性がある」
「それに関しては大丈夫です。対処法はありますので」

 にっこり微笑むと、ザック様が笑った。

「君は本当にルキア嬢なのか? 別人みたいだけど」
「別人と思ってくださっても結構です。どちらがいいかは、ザック様にお任せします」

 昔のルキアが前向きになったと思う方が彼にとって嬉しいなら、それで良いと思う。

「わかった。今のところは保留にしておく。さて、これからの事を話したいんだが、あまり長く話していると、そろそろ邪魔が入りそうだな」

 ザック様にそう言われ、すっかり、お茶も冷めてしまったので、メアリーに入れ直してもらおうか考えた時だった。

「まだ、2人の話は終わらないのか!? 長すぎるだろう!? 今頃、2人で何か、いやらしい事でもしているんじゃないのか!?」

 ミゲルの苛立たしげな声が聞こえてきた。

 職場で男女2人が密室で会話、なんて事は、日本ではある事だと思うんだけど、職場ではないからか、この世界ではそうでもないみたい。
 
 ただ単に、ミゲルが気にしているだけの可能性もあるけど。
 
「おい、そこのメイド! 何をボーッと部屋の前で立っているんだ! 俺が2人になりたいと言っても、お前は部屋から出ていかないくせに!」
「も、申し訳ございません!」

 ミゲルに怒鳴られ、メアリーの震える声が聞こえた。

 ミゲルに何かされては困るので、メアリーや、信用できるメイド達は交代で、私が部屋にいる時は付いてくれている。
 ミゲルはそれが気に食わないみたい。
 メアリーのせいではないのに。

「少しだけ失礼します」

 ザック様に言うと、彼は小さく首を縦に振った。

 先程は無視しろと言ったけれど、今回はメイドが絡まれているので、助けてあげれば良いという事かもしれない。
 扉を開けると、騎士におさえられているミゲルと、涙目になっているメアリーの姿が見えた。

「怖い思いをさせてごめんね」
「とんでもございません!」

 メアリーはぶるぶると首を横に振った。
 けれど、身体が震えたままなので、よっぽど怖かったんだと思う。

「ミゲル、メイドにあたるのは止めて」
「僕は若旦那なんだ! この家では一番偉いんだ! 仕事のできないメイドを叱ってもおかしくないはずだ」
「一番偉い? 何言ってるの。この家の現当主はお父様よ? あなたなわけないでしょう。それに、何度も言うけど、あなたは、伯爵家を継げないの。あと、仕事のできないメイドだと言うけど、今のあなたは、やらなければいけない仕事もできていないくせに、よくもそんな事が言えたわね」
「そ、それは、君のお父上が僕に仕事を任せてくれないから!」
「違うでしょう? 無実だという証明はどこへいったの?」

 ミゲルに聞くと、背後から声が掛かる。

「無実だという証明って?」
「彼が初夜の日に浮気をしていないという証明です」

 ザック様に問われたので答えると、意味をわかってくださったらしく、ザック様は私の後ろまで歩いてくると、ミゲルを見て言う。

「ああ。証明できると言ってるのか」
「その…、証明は…、とにかく、頑張ります」
「じゃあ、頑張ってきてくれ。君との関係を疑われているメイドを探してきたらどうだ? あと、そんなに僕とルキア嬢が2人になるというのが嫌だと言うなら、レイング伯爵に入ってもらうから心配するな」
「というわけで、あなた達がつかまえている男性はお出かけするみたいだから、エントランスまでお見送りしてもらえる?」

 ザック様の言葉の後、私が騎士達にお願いすると、騎士の1人がミゲルを羽交い締めにして「ではお連れします」と言って歩き出す。

「ま、待ってくれ! 僕は外に出るだなんて言ってない! おい! 僕は次期当主なんだぞ!?」

 ミゲルはぎゃあぎゃあ、わめいていたけれど、騎士達も私のバックに公爵令息がいるとなると、そちらに付くに決まっている。
 ミゲルの姿は騎士達に連れられ、私達からはすぐに見えなくなった。
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