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4 私の態度が気に入らないから毒味したくない? 仕事を放棄してるの?
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「昼食をお持ちいたしました。 毒見は済んでおります」
メイドが運んできたサービングカートの上には、子供が食べる量よりも少ないのではないかと思えるくらいの食事しかのっていなかった。
一口サイズにスライスされた食パンらしきものが二切れ。
サラダにお肉、スープもあるけれど、どれも三口あるかないかだ。
「…ありがとう。でも、やっぱり心配だから、食べているところを見せてくれない?」
「で、ですが…」
ルキアの記憶では、毒見役が彼女になってから、料理に変な味がする事が増えている。
料理からでは考えられない、薬品臭みたいな臭いがする事もあったみたい。
だから、ルキアはあまり食事をとらなかった。
ガリガリなのはそのせいもあるみたい。
かといって、一気に食べたら、今度は胃がやられてしまうだろうし、少しずつ胃を大きくしていかなくちゃ。
でも、今は、それよりも彼女をどうにかするかだ。
「ほら、遠慮せず。さっき食べても大丈夫だったんでしょう?」
ルキアの記憶では、パンなどには何か入れられていたという記憶はない。
多いのはメインディッシュだ。
二切れしかないステーキなので、一切れあげるのは勿体ない気もするけれど、問題ないと言われた後に、変な味がしたりしたら、新しいものを自分で取りに行こう。
明らかに信用できない人間に、自分の命を任せるのは御免だ。
「ルキア様。私が信用できないとおっしゃるんですか?」
メアリーと同じ服を着た、黒髪を後ろでシニヨンにし、メガネをかけた小柄な毒見役の女性は鬱陶しそうな表情になって尋ねてきた。
「何もそこまで言ってないわ。そこまでムキになる必要はある? というか、信用できないから言ってると言ったら、素直に食べてくれるの?」
「先程、食べましたが?」
「見てないから言ってるの。毒見役があなたに変わってから、だいぶ経つけれど、あなたになってからすごく食事の当たり外れが激しいのよ。あなたは食べてて何も思わない?」
「…美味しい、美味しくないを判断しているわけではありませんので」
「それはそうね」
毒見役なんだから、そう答えてもおかしくはない。
彼女は食事の美味しさを判断するのではなく、毒が入っているか入っていないかの判断の役なんだから。
それについては納得しておく。
「じゃあ、今回は毒見が終わっているわけだし、食べてみて、味について判断してくれない?」
「人の好みもございますので…といいますか、ルキア様。メアリーから今日は様子がおかしいと聞いていましたが、本当にどうかなさったのですか?」
「だから、中身はルキアじゃないってメアリーにも伝えたけれど?」
そういえば、この毒見役。
名前が出てこないなと思ったら、最初からルキアをなめきってて、名前を名乗ることさえしてもらってないわ。
どうして、ルキアは何も言わなかったのかしら。
名前ぐらい名乗らせるべきでしょう。
だから、ここまで、この女も調子にのっちゃったのね。
まあいいか。
この子はクビにした方がいい。
1人でもそんな事になった子がいたら、他のメイド達も気を引き締めるでしょう。
といっても、私も鬼ではない。
ルキアに対して嫌がらせをしていたようだけれど、私に対してはしていない。
だから、チャンスをあげよう。
雇い主の娘に敬意を払い、真面目に仕事をすると言うのなら見逃してあげても…。
「そんなの誰が信じると思っているんですか。ルキア様。昨日、旦那様から寝室を追い出されて泣いておられましたよね」
我慢よ、我慢。
これ、ルキアの事であって、私の事ではない。
「それがどうかしたの?」
「惨めさで頭がおかしくなられたんじゃないかと、若旦那様が言っておられましたよ?」
クスクスと毒見役は笑う。
あ、これ無理だわ。
「人が悲しんでる姿を見て笑ったり、人格が変わるくらいショックを受けた人間を見て笑うとか、笑う人間の方が頭がおかしくない?」
「ですけど、心が弱すぎますよ」
「そうね。ルキアは人よりも心が弱かったのは確かだわ。ただ、それを笑っていいとは言えない。それに頭がおかしくなった私の心も弱いままだと思ってる様だけど、残念ながらそうじゃないの。だから、今まで通り、あなたに甘い対応するとは限らないのよね」
ティーテーブルに片肘をつき、その腕の方の手に顎をのせて、立っている毒見役を見上げて続ける。
「とにかく、食べてみてよ」
「嫌です」
睨んでくる毒見役にさすがにイラッとして、眉根を寄せて尋ねる。
「拒否できると思ってるの? あなた、毒見役よね?」
「ルキア様の態度が気に入りませんので、毒味したくありません。ここは私にお願いすべきじゃないんですか?」
かっちーん。
この女、人をなめくさりやがって…。
って、ああ、ダメダメ。
本性出したらあかん。
お母さんから、気を抜くと話し方がチンピラって言われて、大人になって直してきていた、私の努力を思い出して!
方言が出るのも気を付けないと!
ここは大きく深呼吸して、気持ちを落ち着かせてから尋ねる。
「私の態度が気に入らないから毒味したくない? 何を言ってんの? あなたの仕事ってなんだっけ?」
「毒見役ですけど」
「ですよね? なのに毒見したくない? 仕事を放棄してるの? というか、そんなに私が嫌なら辞めればいいじゃない」
「それは…嫌です」
毒見役は眉間にシワを寄せて、斜め下を向いて呟く様に言った。
その時、彼女の白い首元に、たくさんの赤いアザがある事に気が付いた。
あれ、まさか、キスマーク?
もしや、まさかだけど。
でも、さっき、ミゲルの話をしてたよね?
もしかして、わざと見せてマウント取ってる?
「あなた、もしかして、昨日、ミゲルと…」
「そうです! ルキア様ではなく、私を選ばれたんです」
何考えてんの、こいつら。
アホなの?
いや、これで、離婚に持っていきやすくなるかも。
とにかく、話を聞いてみるか…。
この調子だと、彼女がペラペラ証言してくれそうだしね。
メイドが運んできたサービングカートの上には、子供が食べる量よりも少ないのではないかと思えるくらいの食事しかのっていなかった。
一口サイズにスライスされた食パンらしきものが二切れ。
サラダにお肉、スープもあるけれど、どれも三口あるかないかだ。
「…ありがとう。でも、やっぱり心配だから、食べているところを見せてくれない?」
「で、ですが…」
ルキアの記憶では、毒見役が彼女になってから、料理に変な味がする事が増えている。
料理からでは考えられない、薬品臭みたいな臭いがする事もあったみたい。
だから、ルキアはあまり食事をとらなかった。
ガリガリなのはそのせいもあるみたい。
かといって、一気に食べたら、今度は胃がやられてしまうだろうし、少しずつ胃を大きくしていかなくちゃ。
でも、今は、それよりも彼女をどうにかするかだ。
「ほら、遠慮せず。さっき食べても大丈夫だったんでしょう?」
ルキアの記憶では、パンなどには何か入れられていたという記憶はない。
多いのはメインディッシュだ。
二切れしかないステーキなので、一切れあげるのは勿体ない気もするけれど、問題ないと言われた後に、変な味がしたりしたら、新しいものを自分で取りに行こう。
明らかに信用できない人間に、自分の命を任せるのは御免だ。
「ルキア様。私が信用できないとおっしゃるんですか?」
メアリーと同じ服を着た、黒髪を後ろでシニヨンにし、メガネをかけた小柄な毒見役の女性は鬱陶しそうな表情になって尋ねてきた。
「何もそこまで言ってないわ。そこまでムキになる必要はある? というか、信用できないから言ってると言ったら、素直に食べてくれるの?」
「先程、食べましたが?」
「見てないから言ってるの。毒見役があなたに変わってから、だいぶ経つけれど、あなたになってからすごく食事の当たり外れが激しいのよ。あなたは食べてて何も思わない?」
「…美味しい、美味しくないを判断しているわけではありませんので」
「それはそうね」
毒見役なんだから、そう答えてもおかしくはない。
彼女は食事の美味しさを判断するのではなく、毒が入っているか入っていないかの判断の役なんだから。
それについては納得しておく。
「じゃあ、今回は毒見が終わっているわけだし、食べてみて、味について判断してくれない?」
「人の好みもございますので…といいますか、ルキア様。メアリーから今日は様子がおかしいと聞いていましたが、本当にどうかなさったのですか?」
「だから、中身はルキアじゃないってメアリーにも伝えたけれど?」
そういえば、この毒見役。
名前が出てこないなと思ったら、最初からルキアをなめきってて、名前を名乗ることさえしてもらってないわ。
どうして、ルキアは何も言わなかったのかしら。
名前ぐらい名乗らせるべきでしょう。
だから、ここまで、この女も調子にのっちゃったのね。
まあいいか。
この子はクビにした方がいい。
1人でもそんな事になった子がいたら、他のメイド達も気を引き締めるでしょう。
といっても、私も鬼ではない。
ルキアに対して嫌がらせをしていたようだけれど、私に対してはしていない。
だから、チャンスをあげよう。
雇い主の娘に敬意を払い、真面目に仕事をすると言うのなら見逃してあげても…。
「そんなの誰が信じると思っているんですか。ルキア様。昨日、旦那様から寝室を追い出されて泣いておられましたよね」
我慢よ、我慢。
これ、ルキアの事であって、私の事ではない。
「それがどうかしたの?」
「惨めさで頭がおかしくなられたんじゃないかと、若旦那様が言っておられましたよ?」
クスクスと毒見役は笑う。
あ、これ無理だわ。
「人が悲しんでる姿を見て笑ったり、人格が変わるくらいショックを受けた人間を見て笑うとか、笑う人間の方が頭がおかしくない?」
「ですけど、心が弱すぎますよ」
「そうね。ルキアは人よりも心が弱かったのは確かだわ。ただ、それを笑っていいとは言えない。それに頭がおかしくなった私の心も弱いままだと思ってる様だけど、残念ながらそうじゃないの。だから、今まで通り、あなたに甘い対応するとは限らないのよね」
ティーテーブルに片肘をつき、その腕の方の手に顎をのせて、立っている毒見役を見上げて続ける。
「とにかく、食べてみてよ」
「嫌です」
睨んでくる毒見役にさすがにイラッとして、眉根を寄せて尋ねる。
「拒否できると思ってるの? あなた、毒見役よね?」
「ルキア様の態度が気に入りませんので、毒味したくありません。ここは私にお願いすべきじゃないんですか?」
かっちーん。
この女、人をなめくさりやがって…。
って、ああ、ダメダメ。
本性出したらあかん。
お母さんから、気を抜くと話し方がチンピラって言われて、大人になって直してきていた、私の努力を思い出して!
方言が出るのも気を付けないと!
ここは大きく深呼吸して、気持ちを落ち着かせてから尋ねる。
「私の態度が気に入らないから毒味したくない? 何を言ってんの? あなたの仕事ってなんだっけ?」
「毒見役ですけど」
「ですよね? なのに毒見したくない? 仕事を放棄してるの? というか、そんなに私が嫌なら辞めればいいじゃない」
「それは…嫌です」
毒見役は眉間にシワを寄せて、斜め下を向いて呟く様に言った。
その時、彼女の白い首元に、たくさんの赤いアザがある事に気が付いた。
あれ、まさか、キスマーク?
もしや、まさかだけど。
でも、さっき、ミゲルの話をしてたよね?
もしかして、わざと見せてマウント取ってる?
「あなた、もしかして、昨日、ミゲルと…」
「そうです! ルキア様ではなく、私を選ばれたんです」
何考えてんの、こいつら。
アホなの?
いや、これで、離婚に持っていきやすくなるかも。
とにかく、話を聞いてみるか…。
この調子だと、彼女がペラペラ証言してくれそうだしね。
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