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22 ドキドキしてしまいました

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「ラルフ様、カンタス伯爵と話をしてもよろしいですか?」
「あんな奴と話す事なんて何もないだろう」

 明らかにラルフ様は殺気立っているので、なだめるように彼の胸のあたりを優しく撫でながらお願いする。

「聞きたいことを聞いて、彼のお願いをはっきりお断りするだけですから。だからお話をさせて下さい。よろしいですよね?」
「…では、この状態で話せ」
「はい?」
「このままでも話はできるだろう?」

 そう言ってラルフ様は片腕だけではなく、今度は両腕で私を抱きしめられました!

 だ、男性に抱きしめられるなんて初めての経験で、息ができないくらいにドキドキします。

 な、なんなんでしょう、この感じは?
 すごく落ち着かないのです。
 って、今はそんな事を考えている場合ではありません。
 
 息を整えてから、身をよじらせて、ディーンの方に顔を向けて、私は口を開いた。

「カンタス伯爵」
「リノア、本当に後悔している。ずっと待ってくれていた君がいたにも関わらず、ヴィアラに心が動いてしまった事を!」
「謝らなくても良いですよ? 気にしていませんから」
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる。そう言って出ていった俺を君は本当に待ってくれていた! そんな君に対して俺は!」
「だから気にしていませんってば!」

 羽交い締めにされたままのディーンと、抱きしめられた状態の私の会話は傍から見れば、本当に滑稽なものでしょう。
 現に部屋の中にいる私達から返事がなかったからか、庭にやって来たソラが、私達の状態を見るなり、困惑の表情を浮かべていますから。

「復縁だなんて私だってお断りですが、ロレーヌ男爵令嬢だって納得なさらないでしょう? 何もかもあなたの思うように進むだなんて思わないで下さい!」
「ヴィアラはわかってくれたよ」
「はい?」
「愛人でも二人で贅沢に暮らせるなら、それでいいんだそうだ」

 ディーンはがっくりと頭を下げて言いました。
 うーん。
 思った以上にお金中心の方なのですね。

「それで気が付いたんだ! 君は贅沢な暮らしなんか望んでいなかった」

 勢いよく顔を上げて、ディーンは私を見つめて続けます。

「正直言うと寂しかったんだ」
「はい?」
「リノアと会えなくなって、心に穴があいてしまったんだ。そんな心の隙間に彼女が」
「私が悪いみたいに言うの止めて下さいよ!」

 もう少し話し合えるかと思いましたが、やはり無理そうです。
 これ以上、話す意味もないかなと判断しまして、彼に告げます。

「私と本当にやり直したいのかどうかはしりませんが、私はお断りです! 話す事はありませんので、もうお帰り下さい!」

 窓ガラスの請求をしたいところですが、借金がどうとか言われてましたし、どうせ支払うお金はないでしょう。

 そう思って言いますと、ディーンは困ったような顔をして私を見つめてきます。

 だから、どうして私が悪いみたいになるんですか!

 私が声を上げる前にケイン様がディーンを引きずって連れて行って下さったので、ふう、とため息を吐くと、ラルフ様が優しく抱きしめ直してくれました。

「アイツとよりを戻したいと言われたら、どうしようかと思った」
「そこまで馬鹿ではないのです」
「リノア。邪魔が入ってしまったが、先程の話の続きをしても良いか?」
「か、かまわないのですが、先に割れた窓ガラスを掃除してもらわなくてはいけないのと…」
 
 私が言葉を区切ると、ラルフ様が不思議そうに聞き返してきます。

「いけないのと?」
「はなしていただけるとありがたいのですが…」

 さっきから平静を装っていますが、心臓はバクバクなのです!
 この状態では、まともに会話できません!
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