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19 呆れ返ってしまいました

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 私が静かに暮らしたいと思い、引っ越してきた土地はお父様が管理している領土の中で、飛び地になっている場所なのです。
 今日は執事のソラと、ラルフ様が派遣して下さっている騎士のケイン様と一緒に、領民の様子を見に、外へ出てみる事にしました。
 もちろん、派手なドレスではなく、膝丈より少し長いパッチワークスカートに、髪はくしゃっとしたアップにして、この国に多い平民の服装を真似しています。

 パッと見て、格好だけなら私は平民なのです。
 ですが、護衛がいる時点で、この格好の意味がなくなったわけですが。

 この国の税の仕組みとしては、一度、領地の平民から税を徴収したあと、その半分を王家に納税し、残った半分が領主の収入になるという仕組みになっています。
 けれど、全額が領主のものになるわけはありません。
 自分の領地なのですから、平民からの要望にこたえ、道を整備したりする費用なども、その金額から出るものです。
 ですから、領主とはいえ、遊んで暮らせる方ばかりではないのは確かです。

 今日はお忍びの視察のつもりでしたが、護衛もいますし、顔がバレていましたので、この地の方から色々とお話を聞いていた時でした。

「リノア様! どうなされたんです? 平民みたいな格好をなさって」

 一人のお婆さんと道の端に避けて立ち話をしていたところに、ロレーヌ男爵令嬢が現れたのです。
 大きな麦わら帽子をかぶり、金色の髪をなびかせながら、くるぶし丈のドレス姿で私に向かって走って来られるのが見えましたが、すぐにソラとケイン様が間に入ってくれました。

「あの、私はリノア様と話をしたいんですけど!」

 立ちはだかる二人の間をどうにかしてすり抜けようとしてらっしゃいますが、動きは男性二人の方が早いですから無理なようです。
 話をしていた、お婆さんに礼とお詫びをしてから、ロレーヌ男爵令嬢に話しかける。

「ごきげんよう。ロレーヌ男爵令嬢」
「リノア様! お会いできて嬉しいわ!」

 私はちっとも嬉しくないですけどね!

 そう思いつつも頑張って笑顔だけでも返す。

「リノア様はお可哀そうね。私がディーンと愛し合ってしまったから、平民の格好なんかして、今日は護衛の方とお出かけですか?」
「お出かけといいますか、視察に来ているだけですが…」
「一緒にいて下さる方がいないから、そうやって理由をつけて外に出ていらっしゃるのね」

 可哀そうと言っておきながら、顔は笑っているので、この方、嘘がつけない方なのですね。
 それに記憶力もなさそうです。
 先日、私がラルフ様と一緒にいた事は彼女の中ではなかったものになっているようですから。
 大体、なんでここにいるのかがわかりません。

「あの、私は遊びに来ているわけではありませんので、ここで失礼いたしますね」

 話が通じないとわかっている人と話す時間は、私にとっては無駄な時間ですから、立ち去ることにしようと決めた。

「待って下さい、リノア様! 今日はディーンと一緒にリノア様に会いに来たんです!」

 彼女が叫ぶと、ロレーヌ男爵令嬢の背後から、ディーンがこちらに向かって走ってくる姿が見えた。

「げ」

 思わず声に出すと同時に、ソラとケイン様が私の方に向き直って促します。

「行きましょう。時間の無駄です」
「ラルフ様から、ブルーミング伯爵令嬢にカンタス伯爵を近付けるなと命令されております」
「逃げるみたいで嫌なのですが…」
「逃げた方が良い時もあります」

 二人同時に声を揃えて私に言いました。
 ケイン様はディーンを私に近付けたくないから、というのはわかりますが、ソラはただ面倒くさいだけの様な気がします。

「リノア! お金を返してもらえない事はわかった! だけど、もうすぐ俺達はここに引っ越してくるんだ!」
「あなたの返してほしいとおっしゃってるものは慰謝料ですから、あなたに返すお金なんてありませんけど!? もちろん、貸すお金もありません! 大体、お金が無駄ですから、お二人でカンタス伯爵家の領土内にお住みになっては!?」

 ソラとケイン様に半ば押される様に歩きながら、無視しなければいけないのに、つい言葉を返してしまう。

「その事なんだが、結婚してもここに住むよ。その代わり、引越し祝いと結婚祝いははずんでくれるよね!?」

 ああ。
 ラルフ様の言う通り、彼が諦めるまで家を潰すなり燃やすなりしないといけないんでしょうか。
 あまり、手荒な真似はしたくないのですが…。
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