上 下
17 / 29

16 提案してみました

しおりを挟む
「思ってた以上にクソ野郎でしたね。手首を折ってやりたかったけど我慢しましたよ」

 私以上にイライラした様子で、ソラは部屋に戻った私の所までやって来ると言いました。

「ソラ。助けてくれたのはありがたいのですが、あんな方でも伯爵なのですから敬意は払わないと」
「そこは反省してます。ただ、本当に戦場で手柄なんて立てれたんかと思うけどな!」

 丁寧な言葉を使おうと努力していたようですが、最後の方は諦めたようです。

「あの方、お金に困っているのかしら」
「新しい婚約者の金遣いが荒いらしいからな。そりゃ、事業も何もしていない伯爵がお金を湯水の如く使ってたら底をつくだろ」
「金を返せと言われたのは衝撃的だったのです」

 はあ、とため息を吐いたと同時に、部屋の外にいた侍女がノックをして部屋に入るなり、慌てた表情で言う。

「クラーク辺境伯がいらっしゃってます!」
「はい?」

 自分の耳を疑って、思わず聞き返してしまう。

 おかしいです。
 だって次は一週間後と仰ってましたのに!

「お会いするので、応接間に通してもらえる?」
「畏まりました」

 侍女が部屋を出ていってから、ソラに尋ねる。

「タイミングが良すぎませんか?」
「ですね。もしかすると…」

 ソラは言葉を止めましたが、彼が何を言おうとしたかはわかったので、先を促す事は止めておいた。
 
 応接間に入ると、ラルフ様はソファーから立ち上がって、私の方に近寄って来られました。

「リノア、カンタス伯爵が来たみたいだが大丈夫か?」
「大丈夫でしたよ? ふざけた事を言ってはおられましたが」
「どんな事を?」
「復縁するつもりはないけれど、ブルーミング家の財力は欲しいと言われました」
「ふざけているな」

 まだお若いのに、眉間に深く刻まれたシワをより深くさせながら、ラルフ様は吐き捨てるように言いました。

「ラルフ様、それについてのお話もさせてはいただきたいのですけれども、まずは他の事をお聞きしてもよろしいですか」
「どうした?」
「まずはお掛けになって下さいませ」

 お茶を入れるためにメイドが入ってきましたが、立ったまま話をしている私達に戸惑っていたため、ラルフ様にはソファーに掛けていただき、私は向かい側に座る。
 お茶を出し終えたメイドが出ていくのを見送ったあと、私はラルフ様に向き直り、口を開いた。

「ラルフ様、私を監視しておられますね? もしくは、この屋敷に出入りする人物を、なのかもしれませんが」
「どうしてそう思う?」
「早すぎます」

 簡単に答えますと、私が怒っているように思われたのか、片手をこめかみに当てて、小さく息を吐かれました。

「そうだ。リノアがいる、この屋敷だけでなく、君の実家の方にも人をやっている。勘違いしないでほしいが、屋敷の中には入らせていない」
「屋敷の周りで待機されている方がいらっしゃるのですね」
「俺が信頼している部下の何人かに頼んでいる。リノアやリノアの家族に何かあってはいけないからな」

 しゅんとした様子でお話をして下さいますが、そういう事は勝手にやらないでいただきたかったです!

「私の為にやって下さったという事はわかりました。お気持ちもありがたいです。ですから、その方々をお客様としてお迎えいたします」
「お客様?」
「ええ。屋敷内にお部屋をご用意いたします。ですが、屋敷内のプライベートな場所に入っていただくのは禁止です」
「いや、リノア。そこまでしなくても良いんだ」

 慌てるラルフ様に正直に伝える。

「正直、誰かに見えないところから見られているというのは私自身も嫌ですし、屋敷で働いている者達も良い気はしないでしょう。それに、ラルフ様の部下という事はお強いのでしょう?」
「…まあな」
「でしたら、この屋敷には男性が少ないですので、護衛代わりになっていただけますとありがたいです。情報が必要でしたら、聞いていただければお教えしますし、普段はエントランスにいらっしゃるようにするのはどうでしょう?」

 どうせ婚約するかしないかも結婚するかしないかも今のところ、私には決定権がないのです。
 それならこれくらいの自由はさせていただかなくては!
 今日の事もあり、騎士が一人でも多く欲しかった所ですから、ちょうど良かったのです!
 ラルフ様のご厚意を利用するという事だけは心苦しくはありますが…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】ある日、俺様公爵令息からの婚約破棄を受け入れたら、私にだけ冷たかった皇太子殿下が激甘に!?  今更復縁要請&好きだと言ってももう遅い!

黒塔真実
恋愛
【2月18日(夕方から)〜なろうに転載する間(「なろう版」一部違い有り)5話以降をいったん公開中止にします。転載完了後、また再公開いたします】伯爵令嬢エリスは憂鬱な日々を過ごしていた。いつも「婚約破棄」を盾に自分の言うことを聞かせようとする婚約者の俺様公爵令息。その親友のなぜか彼女にだけ異様に冷たい態度の皇太子殿下。二人の男性の存在に悩まされていたのだ。 そうして帝立学院で最終学年を迎え、卒業&結婚を意識してきた秋のある日。エリスはとうとう我慢の限界を迎え、婚約者に反抗。勢いで婚約破棄を受け入れてしまう。すると、皇太子殿下が言葉だけでは駄目だと正式な手続きを進めだす。そして無事に婚約破棄が成立したあと、急に手の平返ししてエリスに接近してきて……。※完結後に感想欄を解放しました。※

幼馴染みとの間に子どもをつくった夫に、離縁を言い渡されました。

ふまさ
恋愛
「シンディーのことは、恋愛対象としては見てないよ。それだけは信じてくれ」  夫のランドルは、そう言って笑った。けれどある日、ランドルの幼馴染みであるシンディーが、ランドルの子を妊娠したと知ってしまうセシリア。それを問うと、ランドルは急に激怒した。そして、離縁を言い渡されると同時に、屋敷を追い出されてしまう。  ──数年後。  ランドルの一言にぷつんとキレてしまったセシリアは、殺意を宿した双眸で、ランドルにこう言いはなった。 「あなたの息の根は、わたしが止めます」

貴方の子どもじゃありません

初瀬 叶
恋愛
あぁ……どうしてこんなことになってしまったんだろう。 私は眠っている男性を起こさない様に、そっと寝台を降りた。 私が着ていたお仕着せは、乱暴に脱がされたせいでボタンは千切れ、エプロンも破れていた。 私は仕方なくそのお仕着せに袖を通すと、止められなくなったシャツの前を握りしめる様にした。 そして、部屋の扉にそっと手を掛ける。 ドアノブは回る。いつの間にか 鍵は開いていたみたいだ。 私は最後に後ろを振り返った。そこには裸で眠っている男性の胸が上下している事が確認出来る。深い眠りについている様だ。 外はまだ夜中。月明かりだけが差し込むこの部屋は薄暗い。男性の顔ははっきりとは確認出来なかった。 ※ 私の頭の中の異世界のお話です ※相変わらずのゆるゆるふわふわ設定です。ご了承下さい ※直接的な性描写等はありませんが、その行為を匂わせる言葉を使う場合があります。苦手な方はそっと閉じて下さると、自衛になるかと思います ※誤字脱字がちりばめられている可能性を否定出来ません。広い心で読んでいただけるとありがたいです

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

ごめんなさい、お淑やかじゃないんです。

ましろ
恋愛
「私には他に愛する女性がいる。だから君は形だけの妻だ。抱く気など無い」 初夜の場に現れた途端、旦那様から信じられない言葉が冷たく吐き捨てられた。 「なるほど。これは結婚詐欺だと言うことですね!」 「……は?」 自分の愛人の為の政略結婚のつもりが、結婚した妻はまったく言う事を聞かない女性だった! 「え、政略?それなら最初に条件を提示してしかるべきでしょう?後出しでその様なことを言い出すのは詐欺の手口ですよ」 「ちなみに実家への愛は欠片もないので、経済的に追い込んでも私は何も困りません」 口を開けば生意気な事ばかり。 この結婚、どうなる? ✱基本ご都合主義。ゆるふわ設定。

妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」 子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。 彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。 彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。 こんなこと、許されることではない。 そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。 完全に、シルビアの味方なのだ。 しかも……。 「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」 私はお父様から追放を宣言された。 必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。 「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」 お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。 その目は、娘を見る目ではなかった。 「惨めね、お姉さま……」 シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。 そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。 途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。 一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

幼馴染みに婚約者を奪われ、妹や両親は私の財産を奪うつもりのようです。皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?

水上
恋愛
「僕は幼馴染みのベラと結婚して、幸せになるつもりだ」 結婚して幸せになる……、結構なことである。 祝福の言葉をかける場面なのだろうけれど、そんなことは不可能だった。 なぜなら、彼は幼馴染み以外の人物と婚約していて、その婚約者というのが、この私だからである。 伯爵令嬢である私、キャサリン・クローフォドは、婚約者であるジャック・ブリガムの言葉を、受け入れられなかった。 しかし、彼は勝手に話を進め、私は婚約破棄を言い渡された。 幼馴染みに婚約者を奪われ、私はショックを受けた。 そして、私の悲劇はそれだけではなかった。 なんと、私の妹であるジーナと両親が、私の財産を奪おうと動き始めたのである。 私の周りには、身勝手な人物が多すぎる。 しかし、私にも一人だけ味方がいた。 彼は、不適な笑みを浮かべる。 私から何もかも奪うなんて、あなたたちは少々やり過ぎました。 私は、やられたままで終わるつもりはないので、皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?

処理中です...