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38 助けを求めてきた人①
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ルララ辺境伯令嬢が押しかけてきてから数日後、レイドック領に来てくれたフィルと一緒に、わたしは繁華街に出かけた。
フィルと結婚するのであれば、領地を今からでも少しずつ案内してあげるように、お父様から指示されたからだ。
一度、レイドック邸で合流してから同じ馬車に乗り込むなり、フィルは尋ねてくる。
「どうだった?」
「ルララ辺境伯令嬢とのこと? どうだったかと聞かれても大した話はしていないのよ」
「……俺のことを詳しく聞かなかったのか?」
フィルは整った顔をしているのに、いつも不機嫌そうに眉根を寄せているから、初対面の人には敬遠されることが多い。
でも、彼の人柄を知れば中身は優しい人だということがわかるからか、彼は知り合いが多い。
しかも、彼が話しかけなくても向こうから話しかけてくる。
爵位の関係もあるのかもしれないけれど、挨拶だけじゃなく雑談を交わしたりするということは、彼は多くの人から嫌われていないのだと思う。
そんな彼がここまで気にしているのだから、ルララ辺境伯令嬢に何を言われたのかが気になってしまう。
だって、つまらない男だとか野蛮だとか、それくらいのことで一々、気にする必要もないと思うのよね。
それ以上に嫌なことを言われたとしか思えないわ。
「アルミラは何か気になることがあると見つめてくるよな」
繁華街に着いてから、役場のほうに向かって前を見て歩いていたつもりだった。
でも、無意識に彼を見つめていたらしく、フィルが苦笑した。
「わかりやすくて良いでしょう」
「そうだな。だけど、気になり始めたらすごく気になるんだよ。それに歩いている時は前を見てないと危ないぞ」
「気をつけます。それから、あなたのことを嫌な目で見ているわけじゃないから安心して」
「なら良いんだが」
「ルララ辺境伯令嬢が何を言おうとも、わたしは自分で体験したものを信じるし、フィルのことだって信じているわ」
歩きながらだと危ないので、端に避けてから立ち止まってフィルの目を見つめたまま言うと、同じように足を止めた彼は顔を背けた。
シャイなところもあるので、目を合わせるのが苦手みたいだった。
オズックの時はこちらが見つめると、照れる様子もなく見つめ返してきた。
そして、その度にわたしがドキドキしてきた。
フィルがわたしに対して抱いている気持ちは、オズックのことを好きだった時のわたしとは違う。
でも、意識してくれているのかもしれないと思うと、自然に笑みがこぼれた。
「どうして笑うんだよ」
「フィルの態度が可愛いから」
「可愛くなんかないだろ! 本当にアルミラは変わってるな!」
「そうかしら。それよりもあなたがそこまで自分のことを卑下する理由を教えてもらえない?」
フィルは一瞬だけ、眉間のシワを深くしてから口を開く。
「卑下しているつもりはない。ただ、俺は人として最低な部類らしい」
「どういう理由で?」
「それは知らない。聞いたんじゃないのか?」
「聞いていないわ」
もしかして、女性を楽しませることができない云々の話かしら。
「何で聞かないんだよ」
「フィルはどうしてもわたしに嫌われたいの?」
「そうじゃない」
「なら、どうしてわたし以外の人からのあなたの印象を気にするの」
「……それは気にしたほうが良いだろ」
「フィルは言葉遣いは悪いのに、中身は本当に繊細よね」
「うるさいな」
フィルは不満そうに眉根を寄せた。
もしかしてフィルは、ルララ辺境伯令嬢のことが好きだったのかしら。
わたしと彼女はタイプが全く違うから、フィルには申し訳ないわ。
でも今更、婚約を解消するのは難しい。
その時、わたしの左手が何かに包まれた。
驚いて視線を向けると、フィルがわたしの左手を握ってくれていた。
「どうかしたの?」
「……繋ぎたくなった」
フィルは照れているのか、こちらを見ない。
そんな彼が可愛くて微笑む。
「では、繋ぎましょうか」
指を動かして、彼の手を握った時だった。
「捕まえろ!」
怒鳴るような声が聞こえて、わたしたちは同時に声が聞こえてきた方向に目を向けた。
すると、少し離れた場所にいた騎士が薄汚い服装をした若い男性を地面に押さえつけていた。
その男性を見て、フィルが呟く。
「ドーナモイ伯爵令息?」
騎士に押さえつけられているのは、ルララ辺境伯令嬢の元婚約者だった。
フィルと結婚するのであれば、領地を今からでも少しずつ案内してあげるように、お父様から指示されたからだ。
一度、レイドック邸で合流してから同じ馬車に乗り込むなり、フィルは尋ねてくる。
「どうだった?」
「ルララ辺境伯令嬢とのこと? どうだったかと聞かれても大した話はしていないのよ」
「……俺のことを詳しく聞かなかったのか?」
フィルは整った顔をしているのに、いつも不機嫌そうに眉根を寄せているから、初対面の人には敬遠されることが多い。
でも、彼の人柄を知れば中身は優しい人だということがわかるからか、彼は知り合いが多い。
しかも、彼が話しかけなくても向こうから話しかけてくる。
爵位の関係もあるのかもしれないけれど、挨拶だけじゃなく雑談を交わしたりするということは、彼は多くの人から嫌われていないのだと思う。
そんな彼がここまで気にしているのだから、ルララ辺境伯令嬢に何を言われたのかが気になってしまう。
だって、つまらない男だとか野蛮だとか、それくらいのことで一々、気にする必要もないと思うのよね。
それ以上に嫌なことを言われたとしか思えないわ。
「アルミラは何か気になることがあると見つめてくるよな」
繁華街に着いてから、役場のほうに向かって前を見て歩いていたつもりだった。
でも、無意識に彼を見つめていたらしく、フィルが苦笑した。
「わかりやすくて良いでしょう」
「そうだな。だけど、気になり始めたらすごく気になるんだよ。それに歩いている時は前を見てないと危ないぞ」
「気をつけます。それから、あなたのことを嫌な目で見ているわけじゃないから安心して」
「なら良いんだが」
「ルララ辺境伯令嬢が何を言おうとも、わたしは自分で体験したものを信じるし、フィルのことだって信じているわ」
歩きながらだと危ないので、端に避けてから立ち止まってフィルの目を見つめたまま言うと、同じように足を止めた彼は顔を背けた。
シャイなところもあるので、目を合わせるのが苦手みたいだった。
オズックの時はこちらが見つめると、照れる様子もなく見つめ返してきた。
そして、その度にわたしがドキドキしてきた。
フィルがわたしに対して抱いている気持ちは、オズックのことを好きだった時のわたしとは違う。
でも、意識してくれているのかもしれないと思うと、自然に笑みがこぼれた。
「どうして笑うんだよ」
「フィルの態度が可愛いから」
「可愛くなんかないだろ! 本当にアルミラは変わってるな!」
「そうかしら。それよりもあなたがそこまで自分のことを卑下する理由を教えてもらえない?」
フィルは一瞬だけ、眉間のシワを深くしてから口を開く。
「卑下しているつもりはない。ただ、俺は人として最低な部類らしい」
「どういう理由で?」
「それは知らない。聞いたんじゃないのか?」
「聞いていないわ」
もしかして、女性を楽しませることができない云々の話かしら。
「何で聞かないんだよ」
「フィルはどうしてもわたしに嫌われたいの?」
「そうじゃない」
「なら、どうしてわたし以外の人からのあなたの印象を気にするの」
「……それは気にしたほうが良いだろ」
「フィルは言葉遣いは悪いのに、中身は本当に繊細よね」
「うるさいな」
フィルは不満そうに眉根を寄せた。
もしかしてフィルは、ルララ辺境伯令嬢のことが好きだったのかしら。
わたしと彼女はタイプが全く違うから、フィルには申し訳ないわ。
でも今更、婚約を解消するのは難しい。
その時、わたしの左手が何かに包まれた。
驚いて視線を向けると、フィルがわたしの左手を握ってくれていた。
「どうかしたの?」
「……繋ぎたくなった」
フィルは照れているのか、こちらを見ない。
そんな彼が可愛くて微笑む。
「では、繋ぎましょうか」
指を動かして、彼の手を握った時だった。
「捕まえろ!」
怒鳴るような声が聞こえて、わたしたちは同時に声が聞こえてきた方向に目を向けた。
すると、少し離れた場所にいた騎士が薄汚い服装をした若い男性を地面に押さえつけていた。
その男性を見て、フィルが呟く。
「ドーナモイ伯爵令息?」
騎士に押さえつけられているのは、ルララ辺境伯令嬢の元婚約者だった。
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