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10 これでいい?

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 その後、ひたすらイーサンにはリアム様にに頭を下げさせた。
 もちろん、私も婚約者として頭を下げたけど、リアム様はイーサンを責めることはなく、私にも悪いと思うなら、その噂を払拭するできるように協力してほしいとお願いされた。

「リアム、本当にごめん。悪い意味じゃなくて、君の嘘の噂が回ってるなら、どうにかしないといけないと思ったんだ」

 イーサンがしゅんとすると、リアム様は笑う。

「君が僕やアイリスのために言ってくれたんだってわかってるよ、イーサン」

 その爽やかな笑顔を見た私は目を細め、近くにいた女性は、あまりの破壊力に悲鳴を上げた。
 


◇◆◇

 

 パーティーの数日後、のんびりと自分の部屋で本を読んでいた時だった。
 急に部屋の外が騒がしくなった。
 何かあったのかと気になって、部屋の外に出ると、私の隣の部屋である、イーサンの自室から、彼が飛び出していった所だった。

「イーサン!?」

 声を掛けると、彼は走りながら一瞬振り返ると叫ぶ。

「悪い、クレア! 戦地に戻る!」
「ちょっと待って! 何があったの!?」
「詳しいことは母上から聞いてくれ。出発する前に君には会いに戻るから」

 そんな言葉が返ってきたけど、納得いかなくて、彼の後を追いかける。
 けれど、まったく追いつけない。
 諦めて階段をおりたところで立ち止まると、イーサンの義理の姉である、アビゲイル様と出くわした。
 アビゲイル様は、私の顔を見ると、泣きながら抱きついてきた。

「クレア!」
「どうかされたんですか!?」
「お義父さまとイライジャが!」
「え……? 何かあったんですか!?」
「敵国に捕まったかもしれないって!」
「そんな…」

 泣きじゃくるアビゲイル様を抱きしめて、背中を撫でながら言う。

「大丈夫です。今からイーサンが向かいますから。たとえ、イライジャ様達が捕まっていたとしても、絶対に連れ帰って来てくれます」
「クレア……」

 大将の首を取るとか聞くし、心配になって当たり前。
 イーサンだって不安なはずだわ。
 
「駄目よ。イーサンが行ってしまったら、この家の男性は全ていなくなってしまう。だから、イーサンは家にいないと!」
「そんなことを考える人間じゃないですよ。誰に止められようが、イーサンは行きます」
「クレア!」

 イーサンが戻ってきたので、アビゲイル様が私から離れた。

「イーサン、あなた、前線に行くつもりなの?」
「当たり前だろ! お願いがあるんだ、クレア。リアムに君は来なくていいと伝えてくれ」
「どういうこと?」
「ジュード家に何かあった時に、次に出るのは隣の領のマオニール家になってる。まだ、マオニール家にはこの戦況は伝えていない。だから、電報を打ってくれ。絶対に負けたりしないから、俺を信じて待てと」
「何を言ってるのよ! そんな悠長なことをして、もし、敵に侵略されたら……!」

 そこまで言って、私は言葉を止めた。
 その時はイーサンも帰らぬ人になっている時だからだ。

「……わかった。伝えるわ。だけど、伝えるだけよ? 判断はリアム様に任せるわ」

 マオニール家が何もしなかったら、イーサン達がダメだった時には大変なことになる。
 判断はリアム様にしてもらわないと駄目で、私達が勝手に判断するものじゃない。

「絶対に俺が終わらせてみせるから」

 16歳が言うセリフじゃないし、本当は行かせたくなかった。
 だけど、私が止めても、イーサンは行くだろう。

「イーサン。リアム様に絶対に伝えるから。ありきたりな言葉かもしれないけど、心から思うから言うわ。ジュード辺境伯やイライジャ様と一緒に生きて帰ってきて。死んだりしたら絶対に許さない」
「わかった」

 イーサンは頷いたあと、なぜか恥ずかしそうにする。

「……どうかしたの?」
「こ、こういう時は、キッスとかするものだろうかと……」
「しません」
「……そうだよな。クレアはそう言うと思ってたんだ」

 そう言いながらも、ちらりと何か言いたげに私を見てくる。
 視線を感じて、後ろを振り返ると、アビゲイル様がうんうんと首を縦に振る。

 なんの、うんうんなの?
 ただ、何らかの行動を起こさないと、イーサンは納得しないように思える。

 死亡フラグが立つ気がして嫌なんだけど、やるしかないわよね。

「イーサン、ちょっとかがんで」
「ああ!」

 期待に目を輝かせながら、イーサンが屈んだので、そんな彼の右頬に軽くキスをする。

「……これでいい?」
「クレア、ありがとう。絶対に生きて帰ってくるから。アビゲイル義姉さんも兄さんを連れて帰りますから、待っていて下さい!!」

 そう言って、イーサンは準備が整うと、戦地へ向かってしまった。
 慌ただしい別れだったけれど、私もゆっくりしていられなかった。
 すぐに、リアム様に電報を送り、イーサンからの言葉を伝えることにした。


 そして、それから3週間後、彼は元気な姿で私の前に現れた。
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