酷いことをしたのはあなたの方です

最終話

　オルザベートが施設に送られてから、約一週間後の事、私とエドは籍だけ先に入れる事になった。
　少しでも早く私を妻にしたい、というエドのお願いを叶えてあげる事になったのだ。

「そんなに急いで籍を入れる必要があったかしら」
「また何かあって、僕を忘れられたら困る」
「もう忘れたりしないわよ！　それに、忘れても、今度は気持ちがすれ違ったりしないでしょう？」

　晴れた日の昼下がり。
　私の部屋のソファーに並んで座り、のんびりお茶を飲みながら、私はエドと二人で話をしていた。

「それはそうかもしれないが」
「もし、何かあったとしても、ビアラとディラン様が気付いてくれるはずだし大丈夫よ」

　飲んでいたお茶のカップをソーサーに戻し、ソファーの背もたれにもたれかかると、エドが私の肩を抱いて引き寄せると腰に手を回して抱きしめてきた。
　それを拒まずに受け入れて、頬を彼の胸の辺りにあてた状態で尋ねる。

「ロンバートやオラエル先生はどうなるのかしら？」
「ロードウェルの場合は累犯だからな。責任能力が問える場合は、長く服役する事になるだろうな」
「という事は、また刑務所に入るの？」
「さあ、どうだろう。今度は場所が変わるかもしれない。刑務所ではなく、過酷な労働を強いられる場所に…。何にしても、二人共、もうトゥッチと会う事は出来ないだろう」
「…オルザベートはどうなるのかしら」

　さすがに、無関心でいられずに聞いてみると、エドが私の頭を優しく撫でながら答えてくれる。

「彼女の入った施設だが、あの施設から出た人間は数える程しかいない。本当に心神喪失者を入院させる施設でもあるけれど、そういうフリをする人間を収容する施設でもある。フリをする人間なんて、普通の犯罪者よりもより悪質だから、基本、出る事はない」
「あと、オルザベートの子供はどうなるの？」
「トゥッチの悪行は彼女の実家付近では、もう知れ渡っている事だから、トゥッチの両親は子供を連れて逃げたよ。このままいけば、トゥッチの事を知らない人間の多い地で、両親は事故か何かで亡くなったという設定で、祖父母に育てられて、何も知らずに暮らしていくかもしれない」
「真実を知る事よりも、きっと幸せよね、その方が」
「まあ、人の考える事は人によって違うが、僕もエアリスと同じで、その方が幸せなんじゃないかな、とは思う。きっと、トゥッチの両親も孫が娘の様になってほしくないだろうから、気を付けて育てるだろうしな」

　結局、私のやった事は正しかったのかわからないけれど、私の平穏な人生を勝ち取る為にはこうするしかなかったと思うしかないのよね？

　私がもっと早くにオルザベートの異常さに気が付いていれば、彼女を助けてあげられたのかな…？
　そう考えてみると、酷いのは私の方なの？

「エアリス、君が全く悪くないと言ったら嘘になるかもしれないが、トゥッチがやり過ぎたのが一番悪い」
「…ありがとう」

　私の心情を察してくれたのか、エドが励ましてくれたので、身を起こし、彼の頬にキスをしてから立ち上がる。

「さ、そろそろ出かける用意をしましょうか」
「そうだな。かなり苦労したんだ。しっかり観劇しないとな」

　エドも大きく息を吐いてから立ち上がった。

　今日は夕方から、平民や貴族の間で人気の舞台を、ビアラとディラン様と一緒に観に行く事になっている。
　大人気の舞台で、チケットは発売開始して即完売したものらしい。
　だけど、ビアラを巻き込んだ事を怒ったディラン様に、お詫びとして４人分のチケットを取るように言われたエドは、なんとか貴賓席を、すでに買っていた人から買い取れたみたいなんだけど苦労したみたい。

「ビアラに頼まれるならわかるが、なぜ、ディランに…。別にビアラはディランのものじゃないだろ」
「私と結婚する前に、エドがディラン様の立場だったらどうしてたの？」
「……」
「怒る気持ちがわかるんなら、もういいじゃない。ビアラ達とも会えるし、久しぶりの舞台だし、楽しみ！」

　今まで外出出来なかった分、今日は思う存分楽しんで、明日からは仕事も覚えなくちゃね。

　色んな人が犠牲になった分、せめて幸せにならなくちゃ。

　部屋を出ていくエドを見送ってから、お祖父様とお祖母様の形見を握りしめて、そう決意した。
　




「酷いことをしたのはあなたの方です」完
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

急遽書いた続編でしたが、見つけ出していただき、ありがとうございました。
少しでも楽しんでいただけていれば光栄です。

ビアラとディランのお話を書く予定をしておりますので、エアリスとエドは、その話に出す予定はしております。

また、違う作品でお会いできましたら幸せです。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました！